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再開ー忘れていた感覚ー

守るべき物が有る。

         この世界に終わりをもたらさないため。

守りたい者が在る。

         大切な人をもう二度と失わないため。

空が赤く染まっている。よくテレビで見るような夕方。仲の良い兄妹がお使いの帰途についている……ように見えるのではないだろうか?それは間違いではないだろう。

「ねえ、お兄ちゃん?」

ふと横から声をかけられる。その声の主は他でもない妹の美雅みやびだ。

「どうした、美雅?」

「今日の晩ご飯な~に?」

「今日はお前の好きなカレーライスだ」

「やった~」

美雅がウサギのように喜んで飛び跳ねる。それがとても愛らしく思える、もちろん兄として。

「そんなにはしゃぐと……」

「ひゃっ」

美雅がバランスを崩す。

「おっと」

慌てて美雅が倒れる寸前で支える。

「はあ……間に合ったな」

「う、うん、お兄ちゃんありがとう」

「気にすんな、兄として当然だ、それより……少し遠回りしても良いか?」

「うん、お兄ちゃんと一緒なら」

何と嬉しい発言なんだと心の中で思いながら美雅の言葉に甘え脇道に入る。

にしても……あいつら早くも嗅ぎ付けてきたのか?それとも、ヤマ勘でここに来た?いや、やはり偶然とも考えにくい。とにかくとしてもうここも限界だ、柏崎さんに相談してみるか。

と思いながら〈クリティカルギャザー〉を駆使して敵に見つからないように避ける。

〈クリティカルギャザー〉なんて大層な名前だが他でもないただの危機察知能力のことだ。自分に敵意を宿している人間が近くにいるとその相手の正確な位置が分かる能力。戦闘には向かないので見つかってはいけない。ましてや敵に戦闘特化の能力者がいるなんてことになったらもってのほかだ。

「ふう、見つからずに済んだ……」

「なにが?」

「い、いや、何でもないよ」

とりあえず今のアジトには帰ってこれた。初めに懐から携帯を取り出す。因みに柏崎さんのおかげでこの携帯から居場所は割り出せないようになっているらしい。

「もしもし、柏崎さんですか?」

「おお、こうくんかね?どうしたんだ?」

「実はもうばれたみたいで……」

「なんと!早すぎるぞ」

「はい、もしかしたらだけど敵にそういう能力者が……」

「うむ、その可能性は高いな。で、次はどうするつもりじゃ?」

「今、考えていたんですが……戻ろうと思います、故郷に」

「そうか……わかった。送りを使わそう」

「ありがとうございます」

あてなんてない、が、地元に帰れば何かが変わる気がした。

「美雅、少し話があるんだ」

食器を洗いながら美雅に話しかける。本人はカレーを食べて大満足してくれているようだ。

「なに~、お兄ちゃん?」

「実はまた引っ越ししようと思う、俺たちの生まれた神楽市に、良いか?」

断られたらどうしよう……そんなことを考えていた。でもそんなことはただの杞憂だった。

「お兄ちゃんも一緒?」

「ああ」

「じゃあ大丈夫だよ~」

やっぱり可愛すぎる。だめだ、こっちがおかしくなっちまう。やっぱりこの子を絶対に傷つけさせるわけにはいかないな。ってあれ?ダメだ正気に戻らないと。

「じゃあ電気消すぞ」

「うん、お休み、お兄ちゃん」

「ああ、お休み、美雅」


ーーここはどこだ?っていうか何もない?いや、美雅がいる。でも何かが違う。何だ?ああそうか、美雅はいつも俺の手を握っているが今は握っていないのか。いや、握っている?美雅が俺の手ではない誰かの手を握っている。そして、二人は歩き出した。え?つまり知らない奴と美雅が!

駄目だ美雅、そいつについていっちゃ!って声が……出ない……。ま、待て!美雅を返せ。くそ、クソ、クソ!!動け……動けよ、俺の体!美雅、美雅!美雅!!


「美雅!!!」

あれ?視界は闇をとらえていた。なんとなく事実が浮かび上がってくる。夢……だったのか?あ、そうだ、美雅は!

可愛らしい寝息をたてていた。

「良かった……」

にしても朝からこんな夢を見るなんて……全く今日は最悪な日だ。故郷に戻ると言うのに。時計を見るとちょうど7時だ。柏崎さんが9時に迎いを差し出してくれるらしいが……。

「その前に朝飯でも作るか」

発言と同時に立ち上がり台所へ向かう。今日の朝は目玉焼きにハムと昨日のうちに決めていた献立を採用した。美雅も嫌っている献立ではないからきちんと食べるだろう。

故郷を離れて7年。もう戻ってこないと思っていたが……。

そんなことを言ってる間に出来上がった。

「美雅!朝だぞ」

「ん、おはよー、お兄ちゃん」

「おはよう、美雅」

俺と美雅は一緒に食事をした。最早、2人きりでの食事も完全に慣れてしまった。

そして、9時。約束の時間だ。美雅を連れて家を出て、柏崎さんの用意してくれた車に乗り込む。無論、運転手付きだ。美雅は車の中でまた寝ていた。一方、俺の方は寝られなかった。久々に故郷に帰るので興奮しているのか、それともあの夢を思い出して嫌になるのか。答えは圧倒的に後者だな。

着いた頃には10時になっていた。今日が日曜日だからかは分からないが人が多い。こちらからしたら紛れるのに好都合だ。<クリティカルギャザー>を駆使して歩を進める。

……何故?何故すでに敵がいる?それも一人や二人ではない。少なくとも五人くらいか?

「すまん、美雅。また、遠回りするぞ」

「分かった」

とても従順な妹を連れてまた脇道に入る。とにかく早く用意してくれた隠れ家にいかないと……。

二人が通れる程の細さの道を一列で歩く。無論、向こうの入り口から来る人もいるわけで……。すでに二人ほどとすれ違っていた。出口の近く三人目の人がやって来る。いつも脇道を歩いているだけあってこの薄暗さにも慣れてしまった。まあ、美雅はまだ慣れてないようだが……。

普段通りすれ違う……事はなかった。

「ウ……」

急激な腹痛。理由は簡単。腹を殴られたのだ。でも、<クリティカルギャザー>が反応しなかった。それは……どういうことだ?ってそんなこと考えてる場合じゃねえ。俺の目はそいつが美雅を連れ去ろうとしている現場をとらえていた。

でも動けない、体が言うことを聞かない。

「美雅!」

「助けて、お兄ちゃん」

ダメだ、くらった所が悪かったのか体が痺れる。

「美雅!!」

「お兄ちゃん!」

「美雅!!!」

ああ、今朝の夢か。今日が最悪な一日になるような気はしていたが、正夢になるなんてな。本当に最悪じゃないか。あの日、美雅だけは絶対に守ると決めていたのに……また守れないのか。


「<アクアストレーガ>」


俺の後ろから聞こえた何処か懐かしい声。と同時に敵の美雅を引っ張っていた腕から赤い血しぶきが上がる。

今だ。無理矢理、体を起こして敵にタックルを見舞う。

「オオオオオオオオ」

そのまま、敵は倒れた、気絶したようだ。

「お兄ちゃん」

美雅が駆け寄ってくる。良かった。本当に良かった。

「美雅!」

そして美雅を抱きしめた。

「怖かった……怖かった……」

「ああ、もう大丈夫だ、美雅……良かった」

「いやはや、恋愛映画のハッピーエンドみたいです。超感動的です。良かったですね、北上皐きたかみこうくん、美雅ちゃん」

もう一人いる事に気がついた。そう、美雅を助けてくれた人だ。まだお礼をいってなかったことに気付いてその人の方を振り返る。

「お帰りなさい、皐くん、美雅ちゃん」

「え、みお?」

「はい、澪です」

子供の頃、幼なじみだった由海よしうみ みお。俺はひどく懐かしく思える、でもあの頃をあえて思い出さないようにしていたので正直どうすれば良いのか分からない。

「美雅ちゃんは私の事覚えてますか?」

「え、あ……その……ごめんなさい」

「あらら、そうだと思ってはいたけどいざ言われるとへこむなぁ」

「あの、澪、美雅を助けてくれて有り難う」

「いえいえ、礼には及びません。当然の事です、エヘン」

「じゃあ、俺たちはこれで」

早々に去ろうと思った。

「え、あの、すみません、聞きたいことがあるんですが」

「いや、急いでいるから……これで」

でも体は正直だった。

「でも一歩も動けていませんよ、何故でしょう?」

「さ、さぁ……何故でしょう」

「強がらないでください」

俺はその言葉が一番聞きたくなかった。自然と胸がいっぱいになる。涙が溢れそうになる。でも、それを塞き止めなければならない。じゃないと甘えてしまう。弱くなってしまう。

「……余計なお世話だよ……」

「はい、私は昔からあなたにお節介と言われていましたから」

「……何が……言いたい……」

「私も手伝います」

すでに限界だった。こんなに優しくされた記憶なんてほとんどなかった。特に、逃げながら生活していた最近は美雅や柏崎先生以外と話すらしなかったのだから……。

「……」

「もし、良ければついてきてください」

やっぱり俺は弱い。もう断れない。

「ねえ、お兄ちゃん?」

「……ん?……」

「ついて行ってみたい」

「……ああ」

「では、行きましょう」

澪は笑顔を向けて歩き出した。







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