誘い
ただひたすら打つ。そう打ち続ける。パソコンのキーボードを。
「どうしたもんかねぇ」
今俺は大手小説投稿サイトでオリジナル小説を投稿しているところだった。ちなみに連載ものを書いていて、毎日欠かさずに投稿している。こんなに継続力があるなんて自分でもびっくりだわ。だがしかし、もうすでに精神が崩壊しかけています。
「いや、もう50話投稿してるのに累計アクセス数500はないでしょ、しかもお気に入り登録0って」
投稿を始めて一週間くらいは「まぁ、まだまだ文字数も話数も少ないしこんなもんだろ。いつかブーストが来るさ」とか思っていたが、そんなに現実は甘くなかった。
毎日投稿しても一日当たりのアクセス数は常に一桁、さらにお気に入りも評価ポイントも増えない。だが俺は今日までずっと、いつかアクセスが増える日が来ることを信じて書き続けてきた。
「ないな。これもうノーチャンスですわ」
さすがにないな。絶対ない。どんだけ俺の小説人気ないんだよ。まず、それ以前に見られてないんだけどね。そして俺はこの悲しみをキーボードに打ちつける。狭く静かなこの部屋では打ちつけらるキーボードの音がよく響く。
「もうこれ以上続けても意味ねぇだろ。この話で打ち切りということでいいだろ」
諦めることは決して悪いことではない。努力は報われないほうが多いのだから。まず、俺の本業は学業だし。まだ高校生だし。気が向いたらまたやればいいしね。そして俺は悟った。きっともう書くことはないと。
「もっと早くやめとけばよかったわ、ほんと」
遅かった。本当に気づくのが遅かった。遅過ぎた。どう考えても自分に才能がないことを。才能以前に文才がないことを。
「現国のテスト毎回赤点の時点で気づくべきだったな。アホ過ぎる俺」
スポーツは微妙、勉学は現国は赤点、それ以外は微妙。顔は中の中。何をやっても平均以下な自分を変えたいと思った。
そして、バカな俺は小説家になれば人生逆転できると思い試しにネットに投稿してみた。が、結果はこの様だ。小説家なんて簡単になれると思っていた自分が恥ずかしいわ。間違いなく人生の黒歴史にこの出来事は残るだろう。
「ん? メールか」
そんなことを考えていると、マイパソコンにメールが届いていた。友達が少ない、いやいない俺にメールが届くなど稀なことだ。しかも、スマホにではなくパソコンに届くなんてことは基本ない。フィルターを掛けてるから迷惑メールが来ることもないし、一体誰からだよ。
「なんだこれ?」
受信ボックスを開きメールを確認してみるとそこには文字化けした一文が書かれていた。そして、もう一つ不自然な点がそのすぐ下に、文字化けでない普通の文字でこう書かれている。
クリックしたら人生変わりますよ、多分。
いやわけわからないから。怪し過ぎるから。それにこのメール絶対に煽ってるよ、俺にはわかる。しかもこれどう考えてもワンクリック詐欺だし。あからさますぎるだろ。
「こんなにもあからさまだと逆にクリックしたくなるな」
こういう心理はよくあることだ。「絶対にセーブデータ消すなよ、絶対にだぞ」と言われたら何故か消したくなる心理状況と同じようなものだろう。
まぁ、仮に変な請求メールが来ても無視すればいいし、物は試しということでクリックしてみるのもありだなと思った。
「やってみるか」
カーソルを文字化けの部分に持っていく。そして、同時に祈る。請求メールが来ないようにと。緊張のあまり指が震えているが気にしない。クリックした瞬間パソコンの画面は固まり、いくらマウスを動かしてもカーソルがびくともしなくなった。
「こりゃ、まずいかも」
フリーズ状態に焦りを感じ、パソコンの電源を消そうとすると急に意識が遠のいていく。
そこから先は何も覚えていない。