豆腐はやっぱり絹ごしだよね
タイトルはフレーズです。
豆腐を純ファンタジーにしてみたー、的な感じです。
では、どうぞ。
“斬新な食べ物があるらしい!”
そう御触れが出たのは一ヶ月も前の事だ。
ある百姓は『白くてぷるぷるしたものだ』と言い、国民から重税を課している腐った貴族は「あんな豆臭いもの、食べられるか!」と壁に放りなげる。
他にもたくさんのお金を蓄えた上流階級、中流階級の『白くてぷるぷるした豆』を食べた感想に、平民は論争を交わす。
「かなり東で作られるらしい。だからその地方特産なんじゃないか?」
「その白い豆、本当は食べられたものじゃない程まずいらしいぞ」
「見た目は美味しそうだが、実際は食べられないなんだ」
井戸端会議どころか、人と会えば話の種はその『白い豆』というほど。噂が噂を呼び、どんどん広がっていく。
しかし、一ヶ月だ。
この世界では、人の噂も六十食。つまり三十日を過ぎると徐々に静まってくる。それは、まるで外を徘徊する魔物が餌場を変えるために森から森へと移動するかのように。
しかし、今回ばかりは違った。
新しい御触れが出たのだ。
“白い豆を作ったものがこの国を訪れたらしい!”
その噂はまず王都に、そしてこの国全土へ広がった。お金に少しでも余裕がある人はこぞって王国を訪れた。
すると、そこにはひょろりとした、ここらでは珍しい黒髪の男性がいた。気まずそうに苦笑いを浮かべ、ボサボサの髪を居心地悪そうに掻く。
確かに、彼は今王の隣にいるから居心地が悪いのだろう。
王宮から噴水広場までの大通りで、国民や貴族、そして王までもが今まで見たことのない、ガッチリとした箱を黒髪の男は肩から下げていた。
「王、さま……」
もう一度ガリガリと頭を掻くと、そのガッチリした箱の蓋を開け、中から白い物を取り出した。
「えっと、これ知ってますか……?」
少し緊張しているのか、それとももともと裏表がないのかわからないが、引きつり気味の笑顔を浮かべていた。
王は目を見開き、その取り出されたものに見入る。
「これは……《白い豆》ではないか!」
「あ……え? 違いますよ」
王と白い豆と呼ばれたものを交互にみて、ゆっくりと口を開いた。
「これは《豆腐》と言います」
「トーフ? この柔らかく、プルプルしたものがか?」
「はい」
しっかりと頷くと、先ほど取り出したものとは別の豆腐と一緒に王へ献上し、元の位置へ戻る。
「こちらが木綿といい、柔らかいものです。王が以前お召になられたものはこちらだと思います。そして、こちらは絹ごし。少し固く、食べやすくなっております」
「ほう」
黒髪の男から説明を受けた王は、真っ先に絹ごしへと手を伸ばした。
鉄製のスプーンを使い、ゆっくりと救い上げる。
「なるほど、確かにキヌゴシというトーフは少し固めだ」
そう呟き、男をみる。男は目だけで食べるよう促した。王は頷き、口に含むと、カッと目を見開いた。
「上手い!」
「はい! 僕も豆腐はやはり絹ごしに限りますので! ……それで、そのう……」
「なんだ? こんな美味しいものを食べさせたお礼に何でも叶えてやろう」
「じゃ、じゃあ一つだけ」
一つ咳払いをして、ニコリと微笑んだ。
「豆腐と引き換えに、隣の国と仲良くしてください」
あ、もちろんすでに隣の国も豆腐で買収済みです。
最後に彼はそう付け加えた。
彼は後に語られる。
東から現れた《キヌゴシトーフの勇者》として、名を馳せながら……。
お読みいただきありがとうございます。
純ファンタジー、いかがでしたでしょうか?
豆腐でも案外ファンタジーいけるんですね、と書いた私もびっくりしました。最初すき焼きについての小説書こうとしてたのに、どうしてこうなった……という感じです。