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8 魔王様、狩に行く

2015/3/4改訂


文頭の字下げと一部表現の修正で、展開に変更はありません。

 ハンター協会を出た僕は、服と雑貨を求めてヘイプトの街を歩いていた。

 考えないようにしていたが、服はもう3日着たままなのだ。不思議と臭ったりしていないし、地球の時とは周囲の人の衛生に対する常識がかなり違うからそれほど深刻ではないけど、僕の心が負けそうなのだ。お風呂にも入りたいけど、どこかに銭湯みたいなのがあるのかしら。


 半日ウロウロと街の見物をしながら買い物をすませた。

 服は着替えを3セット購入した。どれも地味で着心地もあまりよくない。新品の値段が高くって手が出ず古着になったから。

 大体、生地を買って自分のとこで縫うという家庭が普通らしい。成長して着られなくなるから手放す人がいる子ども服だから、多少状態がマシな物もあったんだとか。

 店員さんは妙にワンピースやスカートを勧めてきたけれど、ズボンを選んだ。スカートをはくほど吹っ切れてはいないし、店員さんがとても残念そうな顔をしてたが、“おばけカボチャ”との対決しけんが控えてるんだ。


 昼ご飯は露店を見つけてウリのような野菜? 果物? をいくつか買って食べた。ガレも食べるかとあげたら喜んで食べていた。


「ガレはお肉以外も食べるんだねぇ」

『あぁ。狩りがうまくいく時ばかりではないからな』


 飢えをしのぐため何でも食べるってことなの? さわやかに答えてくれたけど、なんて言うか、切ないね・・・・。


『そうそう。長よ、街の外にいきたいが、いいか?』

「どうして?」

『オレのエサを買うのに金がかかる。自分でとってくればいい。長は“やりくり”が厳しいのだろう?』

「ぅ・・・・。た、確かにまだ仕事も無いし、厳しいけどさ。ガレのエサのせいじゃないから」

『オレが外を走りたいのもある。せっかく長のおかげで強い体になったが、ここでは座ってるか寝ているかしかできない』


 そっか。犬には散歩が必要だよね。ガレが街の中で走り回ったら大騒ぎだろうから、外に出してあげた方がいいのかも。


「じゃ、今から行ってみようか」

『長も来るのか? オレだけでいいんだぞ』

「門の出入りには僕が必要だし、外で人に会った時にトラブルにならないためかな」

『ぬ・・・・それではしかたない。手間をかけるな』

「気にしないで」


 こうして街の外までお散歩に出かけることにした。


◆◆◆


「お~お~、速い速い」


 ガレが猛烈な勢いで走り、急に方向転換してまたダッシュしている。今は首から荷袋を外して絶好調なんだろうなぁ。

 僕が座っているここは、ヘイプトの街から南に30分ほど歩いた場所にある草原の中の小さな丘の上だ。

 走り回っているガレをながめながら、僕は念話のために魔力を感じる練習をしていた。どうも魔力というものがよくわからない。やっぱりお師匠とか先生とかに習わないとダメかな~。


 しばらくするとガレが僕の所に戻ってきた。口くわえていた、30cm位の大きさのウサギを僕の足元に置く。これで3羽目だ。


「いやぁ。スゴイねぇ。狩ってこんなに獲れるものなの?」


 他にも15cm位のネズミに60cmもあるトカゲもある。まだ1時間ほどしか経っていないのに。


『いや、前はこんなにうまくいくことは無かった。この体のおかげだな。匂いと音に早く気付くし、足も速くて疲れない。それに、狙った獲物がどちらに逃げそうかも予想できる。今ならこの間オレを追い回した群のヤツらにも負けないぞ』


 おぉぅ。“神の食べ物”効果でしたか。体だけじゃなく、頭も良くなっちゃってるんだから、野生動物では相手にならないよね。


「食べる分にはまだ足りないの?」

『ん? オレのエサは3匹あれば充分だ。残りは長が食べるといい』


 尻尾を振りながら答えた。僕の分まで捕まえてくれてたのか。この子、なりは大きいけどかわいらしいことろがあるじゃないの。


「ありがとう。ガレが食べた残りは持って帰ってマウルの大将に料理してもらおう」


 お礼に雑貨屋で買ったブラシで毛並みを整え、からみついた葉っぱなんかをキレイにとってやる。


 その後、ガレが食事を始めたので、チョット離れて待つことにした。ワイルドな食事風景は刺激が強そうだったからね。

 その間に獲物を杖に結わえて担いで帰るために、丈夫そうな草でも探しておこう。


◆◆◆


 街に帰ると夕飯にはまだ少し早いな、という位の時間になっていた。

 さっそく“熊の巣亭”に戻り、厨房でそろそろ夕飯の仕込みの準備を始めようかとしていた大将に声をかける。


「ちょっといいですか。この子が狩をした獲物なんです。スゴイでしょ。これをここでさばいて料理してもらえますか?」


 横でお座りしているガレの肩のあたりに左手を置いて自慢しながら、右手で獲物をくくりつけた杖をマウルの大将の方に持ち上げて見せる。


「おぅ、嬢ちゃん。りっぱな獲物だな。あ~、でも悪いがうちは宿だけじゃなくて食堂もやってんだろ? だからよ、個別に手をかけた料理をしてやる余裕がねえんだよ。他の宿なら持ち込んだ材料で飯作るのは普通なんだろうがなぁ」

「そうですか~。残念・・・・」

「あぁ、すまねえな。もし料理する当てがねえなら、裏の通りを少し行ったことに肉屋がある。悪くなっちまう前に、こそに持ち込んで買い取ってもらっちゃどうだ」


 う~ん、と左手を添えたガレを見ながら考える。なんだか気持ちがザワザワする。自分で料理はできないし、今さらどうしようもない。

 でも、せっかく僕に食べさせようとガレがとってくれたものだ。明日にでもどこか料理をしてくれるところを探して・・・・あ~、しまった、初夏の今は生ものって悪くなるからダメな気がする。


『気にするな。人間は料理しないと獲物を食べられないのだろ。明日の分はまた捕まえるさ』


 会話の流れから僕が何を気にしているのかわかったのか、ガレから念話が届いた。ホントこの子は頭が良いなぁ。

 ごめんね、と気持ちを込めてガレの背をなでる。

 マウルの大将にお礼を言い、しょんぼりしながら部屋に戻ることにした。


「せっかくガレが僕にって捕まえてくれたのに、ごめんね。僕は動物をさばいたことないから、自分で料理できないんだ」


 もちろん、とりあえず丸焼きにして食べられそうなことだけつっつく、ということもできるけど、それはそれでムダが多くてウサギに申し訳ない。


『それはさっきも聞いた。気にするなと言っただろう』

「聞いた?」

『宿の大将の前で。長が念話を使っただろう?』

「ぅぇえ!? 使ってないよ。まだうまくできないもん。って、できたってこと?」

『あぁ。さっきはできていたぞ。まだ少しわかりにくいところもあったが、伝わった』

「おお~! ついに!! やったか~。そっか、念話、テレパシーね。きたよ、いよいよ僕もファンタジーの仲間入りだね!」

『苦戦してたが、やっと魔力を感じ取れるようになったんだな』


 ひとり興奮していると、ガレが言ってくる。


「ぅ、そういえば、魔力って結局わかんないよ? ・・・・なんでできたんだろ。もう1回やってみよう」

『・・・・まぐれか』


 いや、な~んだぁ、みたいに言わないでよ。



 結局1時間がんはってみても僕の念話はガレに届かなかった。

 う~、くやしいぃ!!


「で、でもほら。才能? が全く無いわけじゃなかったって、それがわかったんだから。練習していけばきっとできるよ」

『そうかもな。ところで獲物を売りに行かなくていいのか」

「あ! そうだった。まだ肉屋さんやってるかな。ちょっと行ってみるけど、ガレはどうする?」

『そうだな・・・・ここで待っていよう』


 ガレはチラリと荷袋に視線をやった後そう言うと、後ろ脚で首の辺りをカシカシとかいた後寝そべった。

 やっぱり首にあれを巻かれるのはお気に召さないのね。首輪も嫌がったらどうしよう。


「それじゃ行ってくるね」


 出がけにマウルの大将に詳しい場所を確認して走って向かった。


「すみませ~ん。まだやってますか」


 奥からやや太ったおじさんが出てきた。


「まだ大丈夫だよ。お使いかな。でも残ってるのは鴨だけなんだがいいかい」

「いえ、狩で捕まえた獲物をここで買い取ってくれるかもしれないって、“熊の巣亭”のマウルさんに教えてもらったんですけど、お願いできますか?」

「へぇ~。お嬢ちゃんが捕まえたのかい」

「狩の上手な犬と一緒に行ったから」

「ほぉ。どれ見せてみな。・・・・小さめの穴ウサギとこっちは草トカゲかぁ。ん、犬にしちゃ~かんだ跡がないな。血は抜いてないのか。もったいない」

「その2つは前脚で頭を叩いたみたい」

「どっちもまぁ売れそうだから買い取るよ。肉は少し値が落ちるけど、毛皮にキズが無いからそれも含めて銅貨1枚と小銅貨2枚でいいかい」


 高いのか安いのかわからないけと、“熊の巣亭”の食事2食分と少しかぁ。食べられるお肉の部分はそんなに多くないだろうし、加工の手間や肉屋さんの稼ぎを考えるとそんなものかな。


「それでお願いします。あと、もし今後も同じように獲物を売りに来ても大丈夫ですか?」

「まぁ、うちは肉屋だから買い取るけど、ならばそうだな~。できれば朝から狩をして昼位までに持って来て欲しいね。晩飯の買い物に来る奥さんがたに売れるようにしたい。もうひとつは、獲物の血抜きがしてないと肉が臭くなるんだ。血抜きってわかるかい?」

「切って血を流させておく?」

「いやぁ、それだけじゃなくて内臓もだ。誰か教えてくれそうな人は?」

「難しそうです」

「そっか。周りの大人に聞いてみるといい。案外できるヤツがいるもんだ」

「はい。ありがとうございました」


 お金を受け取ると“熊の巣亭”へ戻った。

 ガレは昼過ぎに獲物を食べたから、僕1人て夕飯を食べて休んだ。


 翌日は早起きして門が開くとさっそくガレと狩に出た。

 “おばけカボチャ”との戦いの前に、ガレが急に強くなった体に慣れるための訓練みたいなものをしておこうと思ったから。


 北門を出て麦畑を西に2時間位歩くと森があり、そこで狩をすることにした。昨日と場所を変えたのは、同じ場所で獲物を捕まえてると動物がいなくなっちゃいそうな気がしたから。

 森と草地の境目で、近くに小川もあって生き物が多そうだ。


「それじゃよろしく」


 と言うと、ガレは張り切って駆け出す。まぁ、目的の半分はガレの運動だから存分に楽しむといい。


 約2時間ガレに自由に走り回らせている間、念話のための魔力を感じる訓練をしたり、冷んやりとした小川に足を浸したり、ヘビイチゴをとってみたり・・・・うん、途中で訓練に飽きて遊んでました。


 僕が遊んでる間にがばってたガレの狩の成果は、タヌキとウサギ2羽と鴨と子鹿。君ばかり働かせてごめんよ。

 タヌキはガレのご飯になり、残りを持って帰ることにしたんだけど、子鹿とはいえ重い。

 森でとってきたツタでガレの背にくくりつけて運んでもらうことにした。ウサギと鴨は僕が担当で杖にツタでくくって担いでいる。

 昨日肉屋のおじさんが教えてくれた通り、血や内臓を捨ててきちゃえばもっと軽いんだよなぁ。

 あと、ヒモとかロープも用意しないといけないね。


 まだ昼の鐘がなる前に、門の警備兵さんを子鹿を背負ったガレで驚かせながら街に入り、まっすぐに肉屋に行った。

「おじさ~ん。また来たよ~」

「お、昨日の。ってそりゃ鹿かぁ。ちゃんと朝から出かけたんだな。しっかしホントに狩のうまい相棒なんだな!」

「へへへ~。ウサギと鴨もあるよ」

「おぅ、まとめて買い取るぜ。ちょっと待ってな」


 おじさんが獲物を担いで奥に引っ込む。


「全部で大銅貨1枚と銅貨3枚ってとこかなぁ。安くて悪いけど嬢ちゃんが猟師でやってくつもりなら肉の処理をちゃんと覚えた方がいいぜ?」

「明日ハンター協会の審査受けてハンターの魔獣使いになるの」

「なんだい、そうかい。じゃぁ明日がんばれよ!」

「ありがとう」


 夜ベッドに寝転がって今後のことを考えていた。

 思ったよりこのガルド・デューは平和だったなぁ。魔王やれなんて言われたから、人間と魔族で戦争でもあって殺伐としてるのかと予想してたんだけど。

 この世界のことをある程度理解したら、今度は魔族領域の様子も見に行きたい。


 なんにしても旅費、つまりお金が必要。

 当面の生活費をガレの狩で稼げるかなって考えたけど、今日の感じじゃ厳しそうだなぁ。一応ナイフも買ってはみたけど。

 やっぱりハンターとしてモンスターの討伐か。それでどれ位稼げるか、かな。

 明日はそのハンター協会への入会審査。朝から協会に行って、課題の“おばけカボチャ”について調べてから出発だ。


 ガレ、明日は頼むよ! と強く念じてみるけれど、特に何も反応が無い。

 はぁ、念話はやっぱりまぐれだったのか~。

ご覧いただきありがとうございました。

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