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7 魔王様、協会に行く

2015/3/4 改訂


文頭の字下げと一部表現の修正で、展開に変更はありません。

「ふわぁ~。おっきな建物だなぁ」


 ハンター協会の前に立ち、あらためて建物を見上げた。周囲、というより街のほとんどが平屋か2階建てなのに、このハンター協会は4階建てなのだ。

 幅も他の店舗などの数倍だし、奥は1本向こうの通りまでひと続きになっている様だ。


 さて、このままガレを連れて建物に入って怒られないか、又は外で待たせておいたら、それはそれで騒ぎになるんじゃないかと悩む。


「おぅ。魔獣使いのお嬢ちゃん。口開けて道に突っ立ってどうしたい。迷子か~?」


 ハッ口開けてた!? ハズカシイ・・・・


 声がした方を向くと、男の人が笑顔でこっちを見ていた。歳は20歳位かな。短く刈った明るい茶色の髪、顔立ちはそこそこ整っているが目元が少したれているせいか、いまひとつキリッとした印象にはならないお兄さんだ。


「ずいぶん立派な狼を使役してるんだなぁ。そんなに大きな狼見たことないな! どこで捕まえたん・・・・うん? 狼にしちゃでかすぎるか。狼でないなら・・・・でっかい、犬?」


 ガレを怖がらないどころか興味を持って話しかけてくるとは、大胆というか怖いもの知らずというか。そして発言内容が、外見の予想を裏切らず残念な感じだ。

 でもなんて答えようかなぁ。『オレは・・・・』頭に響く声はもちろんスルーしておく。


「えっと、よくわかりません。前は小さかったんだけど、大っきくなっちゃったから」

「ほ~、子どもの頃から育てて大きくしたのか~。すげ~な~」

「アハハハ・・・・」


 あいまいに笑ってごまかしておこう。ウソは言ってないし。

 ついでだ、このお兄さんに聞いちゃおう。

 お兄さんはガレの頭をなでようとして、犬と言われて不機嫌なガレにらまれて「ぉおぅ」とか言ってる。ホントに大丈夫かなこの人に聞いて。でも、他の人は近付いても来ないからしょうがない。


「あの、協会に用があるんですけど、この子連れて中に入っても大丈夫かわかりますか?」

「あ~、う~ん。オレ魔獣使いって見るの初めてだし、よくわからん。けど、おとなしそうな犬だし、連れてっていいんじゃね~の」

「・・・・ありがとう」


 とりあえずお礼を言ったけど、この人なんか頼りないというか、軽い感じがして不安しかないよ。


『また犬と言った・・・・』


 うんうん、よしよし。今はおとなしくしててね。


「ま、ここにいてもしゃーないし、入っちゃえ入っちゃえ。ハハハ~」

「そ、そうします」

「おぅ! そうしろ~」


 はぁ~・・・・なんかこのお兄さんのテンション疲れる。


 協会に入ると2階まで吹き抜けの広いホールになっていた。これだけたっぶりとした空間だと、僕の背と変わらない高さがあるガレの体もそれほど目立たないと思う。・・・・思うことにした。チラチラこちらをうかがう様な視線を感じるのは気のせいに違いない。うん、気のせいだ。

 一緒に入ってきた妙に軽いお兄さんとは、ホールに入ってすぐに別れた。


 辺りを見回し、販売コーナーの革製装備品が並んでいるところに進み、前掛けをした販売員さんに声をかける。


「すみません。この子に首輪を探してるんですが、ちょうどいいのありますか?」

「おぉ・・・・。でっかいな。狼かい? 見た目は草原狼に似てるけど、ここまでは大きくならんか。ちょっと待ってな。このサイズだと在庫が確か・・・・」


 ブツブツ言いながら奥に引っ込んで行った販売員さんを待ってる間に、並んでいる商品をながめる。

 地球じゃ革の鎧なんてゲーム位でしか触らないもんなぁ。感慨に浸りながら軽くノックする様に指で叩くとコンコンと音がする。あ、けっこう硬いんだ。


 待つことしばし、販売員さんがいくつかの首輪を持って戻って来た。


「う~んと、その銅版のネームプレートが付いたやつで、革はえんじ色のでお願いします。おいくらですか」

「ほいよ。大銅貨3枚だ。それと会員証な」

「会員証?」

「あ~、なんだ、嬢ちゃん魔獣使いなのに持ってねーのか。ここは協会の運営してる販売所だからよ。協会の会員しか利用できねぇんだ」


 なんですと!? そんなルールはマウルの大将から聞いてなかったよ。


「そ、そうですか。知らなくって・・・・すみませんでした」

「まぁ、知らねんじゃしょうがねぇやな。もし入会するなら、あっちのカウンターで手続きできるからな。案内もしてくれる」

「はい。ありがとうございました」



「はぁ~。思うようにはいかないねぇ・・・・」


 トボトボと受付カウンターに向かいながら、ついぐちがこぼれる。

 今日もため息ばかりだなぁ。


「あの、魔獣使いとしてハンター協会に入会したいんですが、どうしたらいいですか?」


 窓口のお姉さんはガレを連れて近寄ったせいで、かわいそうなほど顔色が悪い。

 申し訳ないとは思うけど、お仕事だからがんばってもらいたい。


「ぅは、はははいぃ。入会ですね。ですね。いくつか確認し、させてもらって、それでですね、会員証ですね、ヒィッ・・・・」


 取り乱し過ぎでしょ。別に噛みついたりしないのに、と椅子に腰掛けた僕の後ろでお座りしているはずのガレを振り返ると、口を全開にしてアクビしてた。

 ゴメン。鋭く尖った牙がぞろりと並んだお口が目の前に開かれてるの画は、僕でも怖いです。


「悪いけど、お話終わるまで伏せててね」


 ガレは『わかった』と返して僕の足元に寝そべる。

 受付のお姉さんも、とりあえず視界から牙が消えたので、1度深呼吸をしてから仕事を再開した。


「失礼しました。まずお名前の確認です」

「ミュール、です」

「では、ミュールさんは過去に協会に所属したことはありますか?」

「ありません」

「ハンター協会についてはご存知ですか?」

「モンスターを討伐して、被害が出ないようにするハンターの活動を支援してる、と聞きました」

「ええ、そうです。具体的には、モンスター討伐に対する報奨金の支払い、モンスターについての情報収集や研究とその公開。それから、ハンターの皆さんの活動に必要な物資や装備の特別提供、わかりやすく言うと一般より安く販売しています。他にも各種相談や技術訓練なども行っています。物品販売以外は基本的にハンターの皆さんが無料で受けられるサービスです。他にも、モンスターの体から利用できる部分を商業組合を通して販売もしています。その関係で特定のモンスターの入手依頼などの受付もしています」

「へぇ~」


 思ってたより大きくて、しっかりした組織みたい。モンスターの研究とか、どんなことしてるんだろう。この大きな建物の中でモンスター飼育してたりして! なんて関係ない考えるが浮かんできてしまう。


「協会に入会するためには、モンスターを倒せる最低限の実力がなくてはいけません。そのためのハンターですから、当然ではありますけれど。協会の職員が審査をします」


 おっと、説明が続いてた。しかし、実力っていわれてもね。ガレを連れて歩くために魔獣使いって肩書きが欲しいだけなんだよな~。仕事は探さないといけないけど、モンスターと戦うなんて危険なことをしたいわけじゃない。


「実力って、何かするんですか?」

「ヘイプト周辺でモンスターを退治してもらいます。協会職員が同行して確認します。対象モンスターは“おばけカボチャ”です」

 う~む。何か緊張感の持ちにくい名前のモンスターだなぁ。


「えっと、質問しても?」

「はい、なんでしょう」

「この子も連れて行っていいんですよね」


 と足元のガレに目線をやりながら尋ねる。まさか、僕がモンスターと戦うとかムリだよ。神様がくれた魔王の能力は健康な人間(10歳)程度しかないから!

 ・・・・しかも女の子だよ。

 相手は“おばけカボチャ”か。地球の常識が30kgもある巨大カボチャを想起させるけれど、モンスターっていう位だから、アレとは違うよね。


「もちろんです。ミュールさんは魔獣使いとしてハンター登録を希望されるのですよね。全く問題ありません」


 あ~、ところで、ガレって戦えるんだよね? という気持ちを込めて見やると、寝そべったまま目線だけこちらに向けて『狩りなら任せろ』と頼もしい返事が返ってきた。よかった。


「それから、入会後は定期的にモンスター討伐をする必要があります。協会の支援はモンスター被害を減らしてくれるハンターのためのものですから。3ヶ月以上討伐実績が無いハンターは、退会または補償金の支払いをお願いすることになります」


 なるほど、割引や訓練サービスだけ受けて、肝心のモンスター討伐をしないような不心得者は追い出されちゃうのね。会員証だけ欲しい僕としては、厳しいルールだ。


「さて、ミュールさん。ここまでのご案内で何か質問はありますか」

「大丈夫、かなぁ。思いついたらまた聞きに来てもいいし」

「では最後に、当ハンター協会に入会を希望しますか?」

「・・・・はい」


 将来にわたって本業として活動するかはともかく、よくよく考えてみると、すぐに仕事が見つからないと20日も生活していけない。だからハンターになれるなら一応なっておこう。モンスターとの戦闘がすごく危険なら、また別の仕事を探せばいい。


「でしたら入会審査をいつにしましょう。同行する職員の予定が空いているところでは・・・・明後日の午後が1番早いですね」

「わかりました。それでお願いします」

「はい。お昼の鐘までにここの受付まで来てください。必要な道具や装備があれば、その時に担当の職員が相談に乗りますが、使い慣れた物の方がよけれはご自分の物を使用していいですよ」


 説明にうなずいて理解したことを伝えた。それから気になったことを聞いてみる。


「あの、事前にモンスターの事情とか見せてもらうことはできますか?」

「あぁ、“おばけカボチャ”について、ですか?」

「はい。どうでしょう」

「そうですね・・・・では、当日の午前中に資料室に入れるようにしておきましょう」

「わぁ! ありがとうございます」


 ダメって言われるとおもったけど、頼んでみるものだね。ラッキー♪


 ハンター協会の会員証が手に入れば、ガレを連れて歩く大義名分と当面の生活のあてができる。

 よし、頑張るぞ!

 戦いはガレ頼みだけど気にしない!

ご覧いただきありがとうございました。

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