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3 魔王様、星空に笑う

2014/11/3 改稿 話のすじは変わりません。表現の追加変更と文頭の一字下げ、改行をしました。

 夕陽に照らされた畑の向こうに街の外壁が見えた時は、これでやっとゴールだ!と喜んだけど、その壁までは思ったよりもずっと遠かった。後で近付いてからわかったけれど壁が2階建ての建物よりずっと高かったから、距離感が狂っていたせいだ。

 でも、やがて街道の両脇が畑になり、日暮れの中鐘の音が聞こえてきたときには、最後はいい雰囲気だなぁなんて浮かれながら歩いた。


 結局、夜になるまでにヘイプトの街に着くことはできなかった。

 すっかり日が落ちてからやっと門の前まで来た僕は、そこで立ち尽くした。


「閉まってる・・・・」


 そう、金属で補強された木製の格子の門がシャッターの様に降ろされていて街に入れないのだ。

 格子の隙間から中の様子をうかがっていると、見張りの兵士さんが気付いてくれた。


「あ~、どうしたね」


 近付いてきた兵士さんはずいぶん大きい。僕より頭ひとつ位背が高いのだ。門の脇に置かれたかがり火に照らされた兵士さんの変な迫力に少しビビりながらも、しっかりと相手を見上げて返事をする。


「こんばんは。街に入りたいんです。門を開けてもらえませんか」

「う~ん。すまんが規則だから、日が落ちて鐘が鳴ったら、日の出の鐘が鳴るまで街の出入りはできないんだよ」


 が~ん・・・・なんてことだ。でも、このまま野宿はイヤだ。兵士さんには悪いけど粘る。


「遅くなったのにすみませんが、野営の用意も無いのでなんとか入れてもらえませんか」

「おや?鐘のことを知らないってのは、お前さんこの街の者じゃないんだよな。どこから来たんだ?」


 その辺なんも考えて無かった~~!!どうしよ~、今朝この世界に来た魔王ですって言ったら捕まっちゃうよね。


「えぇっと~・・・・この街道をあっちから歩いて来ました」


 振り返りながら来た道を指差したから、あせりまくっておかしくなった顔を見られずにすんだのはいいけど、声もうわずってて自分でも挙動不審に思う。


「街道って、まさか隣の街のアンカートホッドからじゃないよな。はっはっ、それじゃ3日はかかるもんなぁ。それより家族や連れはどうした?」

「家族はいません。僕1人です。それと、えっと」


 うぅぅ・・・・無理だ。一旦引き下がって作戦立てよう。はぁ、野宿か~。


「僕?なんだ、長い髪を結わえてるしキレイな顔だしすっかりお嬢ちゃんかと思ってたが、坊っちゃんだったか。暗いとこだからわかんなかったよ。悪かったな、って、え、1人?こん・・・・、いやで・・・・わけには・・・・」

「無理言ってごめんなさい。ちゃんと門が開いてる時に来ます!」


 困惑顔の兵士さんは何かブツブツ言ってるけど、これ以上話してたらきっとボロがでる。僕は慌てて謝ると、逃げだしたと思われないくらいの急ぎ足で立ち去ることにした。


「チョット待ちな」


 ぅう!?やっぱり不審に思われたか、呼び止められた。背中にイヤな汗が流れるのを感じながら、ゆっくりと振り返る。


「いいか、ここで少しだけ待ってろよ」


 兵士さんはそう言うと近くの建物に走って行く。

 あれ兵士の詰所とかかな。とすると、不審者が出たから応援を呼びに行ったってこと?

 だ、大ピンチ!!!でも、ここで逃げたら不審者確定で、門が開いても入れないというか、お尋ね者的な何かになるかも・・・・。


 今の僕は確かに怪しいけど、実際はまだ何もしてないんだから、捕まって調べられても平気なはず。

 この世界の取り調べとか尋問とかが、アレな感じでなければ、だけど。

 あ~もう、どうしたらいいんだかわっかんないよ!


 門の前で頭からプスプス煙が出るほど悩んでいると、さっきの兵士さんが1人で戻ってきた。


「ほら、これ使いな。朱の上月になったけど朝方はまだ冷える。その辺で夜を明かすにも、見たところ野営の用意どころかマントも無いみたいだから」


 そう言いながら、門の格子から毛布を渡してくれた。優しい人だったんだ。


「・・・・ありがとうございます」


 色々失礼な想像をしていたために、きちんと顔を見られずうつむきながらのお礼になってしまった。


 兵士さんは、中に入れてやれなくてすまん、なんて言っている。

 そもそも、時間外に門を開けてとか、こんな迷惑なヤツ相手にちゃんと話を聞いてくれたんだ。落ち着いて考えればいい人なんだよね。むしろお人好しで騙されやすいんじゃないかと心配するレベル。僕が言うことではないか。


 門の目の前で寝るのはじゃまになるだろうから控えて、外壁に沿って少し横に歩いて寝る場所を決めた。

 新月なのかそれともこの世界には月が無いのかわからないが、空には微かな星の明かりしか無いので、かがり火が届く範囲から出るのは不安だったから門と20mくらい離れた場所に腰を下ろした。


 寝る前に硬いパンの残りをかじり、残り少ない水で流し込む。塩辛い干し肉は喉が渇きそうだったからやめておいた。

 かがり火をぼ~っと眺めながら、毛布に包まり壁に背を預けて明日何をするか考える。

 宿と食事と着替えと、お風呂はあるのかなぁ。その前にお金がいるからアユフレードがくれた香木売ってこないと。どこで売れるんだろ。香木なんて見たの初めてだから、何に使うのかよくわかんないし、朝もあの親切な兵士さんがいたら聞いてみようかな。案外虫の鳴き声って気にならないなぁ。でも、寝てる間に顔に虫がくっついてたらヤダしできるだけ仮眠でごまかして、明日宿とるまでは我慢かな。あとは・・・・


 あれこれ考えてたら、いつの間にか寝てたみたいだ。1日歩き続けた割には意外にも体の疲労はそれほどでもないみたいで、さすが神様が作った体と感心した。まさか“2日後の筋肉痛”なんてことにならないだろうね?


 とはいえ、やっぱり毛布1枚の野宿でのうたた寝はあまり休めず、まぶたの重い目をこすりながら辺りを見回し、まだあまり時間が経っていなさそうだと判断してもう少しだけ仮眠をとろうと目を閉じたとき、


 ガサッ


「!?」


 街の外壁に寄りかかる僕から見て門と反対側から聞こえた音に、ひぇっというような声にならない小さな息を吐き出した。

 心の中で、そこに何があるのか確かめたくない気持ちと戦いながら視線を音のした方へと巡らす。

 門のかがり火が届く範囲の外、暗闇に目を凝らすとわずかな明かりを反射して金色に光る1対の瞳がこちらをじっと見つめている。

 一気に眠気が吹き飛ぶ。全身に震えが走り、驚きに開いたままの口はカラカラに乾いて声が出ず、毛布に包まれた体はうまく力が入らず、立ち上がることもできない。


 ガサッ ザッ


 “ソレ”はゆっくりと動き出した。金色の瞳はまっすぐ僕を見据えて、ゆっくりと近付いてくる。

 のそりっと明かりの中にその姿を現した“ソレ”は、頭が僕の肩まであるような大型で、暗さではっきりとはわからないが黒っぽい灰色の毛並をした犬の様な獣・・・・って、あれ?


「お前、ひょっとして昼間の追われてた犬君かい?」


 5mほどの距離で止まった犬君っぽい“ソレ”は、後足を折り“お座り”の姿勢でじっとこちらを見ている。昼間は距離もあったからもしれないが、そのときの印象よりずいぶん大きい気がする。それに昼はもっとやられた感じというか、ボロい感じというか、とにかく負け犬だった。今は堂々として見えるし人違い、もとい犬違いかもしれない。


 唯一の武器・木の杖を固く握りしめながら、お互い動かずにしばらく見つめあっていたけど、とりあえず襲いかかってくる様子はないのでホッと息をつく。

 しかし、このままではとにかく落ち着かない。なんとかならないかな。


「そうだ、確かまだ・・・・」


 犬君から視線を外さずに、それでも刺激しないように、静かにゆっくりとした動作で荷袋から残りの干し肉を出す。

 干し肉を見た犬君が小さく1度左右に尻尾を振るのを見て、これはいけそうだと判断する。


「でも、野生動物は人の手からエサ食べないよね。投げるのは刺激したらヤダし、う~ん」


 考えた末、干し肉を置いて自分が離れることにした。足元に残りの干し肉を置くと5mほど門の方へと移動する。


「どうぞ。食べていいよ」


 というと、犬君はまるでその言葉を理解したように立ち上がり干し肉の所にやってきて、地面に寝そべり前足で干し肉を押えながらかじりつく。


 しばらく干し肉をかじる犬君を眺めてつぶやく。


「犬君、さっきはまるで言葉がわかるみたいだったね。君は頭いいんだなぁ」

『オレあたまよくなる。“オサ“のエサ』

「え!?」


 急に聞こえた声に、慌ててキョロキョロ周囲を見回すが、誰もいない。


『オレはイヌちがう。オオカミ。オレつよい』


 ・・・・は!?

 目を見開き、犬君をみる。草原を吹き抜ける風の様な爽やかな男性の心配そうな声が、思考を停止した僕の頭に響く。


『“オサ”なにした。びょうきか』

「犬君がしゃべった~~~~~~~~~!!!」


◆◆◆


 いまだに衝撃から立ち直れない僕は、しばらく黙って食事をする犬君改めオオカミ君を見ていた。

 オオカミ君は干し肉を食べ終わると寝そべったまま目をつぶった。


「あ~ビックリしたぁなぁ。アユフレードが魔法のある世界だって言ってたし、犬君、じゃなかった、オオカミ君がしゃべったっておかしくないのかもしれないけど、いきなりはあせるよね」


 だが、狼というのも自己申告だ。しゃべる、僕の肩までの大きさがあるコレを、これまでの僕の常識は狼とは認めない。

 けれどここは地球の常識とは違うルールで成り立つ世界。

 この世界の狼は普通にしゃべるのか、それともこのオオカミ君が特別なのか。


 月が無い星空を見上げて過去の自分の常識を色々諦めながらため息をつく。視線を戻すと目をつぶって寝そべるオオカミ君が薄っすら光っている。


「んな!?」


 光は数秒で収まる。発光が収まった後のオオカミ君は明らかにその前と比べて一回り大きくなっていた。


「ははっ。もうなんて言っていいか・・・・ファンタジーすげ~?わけわかんないよ!」


 完全に常識が崩壊した僕は引きつったように笑うことしかできなかった。

ご覧いただきありがとうございました。

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