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2 魔王様、大地に立つ

2014/11/3 改稿 話のすじは変わりません。表現の追加変更と文頭の一字下げ、改行をしました。

「送り先は、本当に魔族の領域ではなくて、人間領域の街の近くでいいの?」

「えぇ。できれば魔族の領域からもそれほど離れてなくて、でも人間と魔族が戦争とかしてない所にお願いします」


 だって、ただでさえいきなり見知らぬ世界に行くんだから、せめて人間っていう理解できる存在の側からスタートしたい。急に海外出張することになっても、現地に同国人がいて迎えてくれるなら少しは気楽、な心境っていえばいいのかな。

 それに、なんの力も無しで魔族の所に行ったら、いきなり食べられてしまわないか?とかいろいろ不安じゃない。

 まずは、きちんと新しい世界で生きていけるように知識を集めたい。それと新しい体に慣れる訓練もしないと。


「そういえば、僕の、というか魔王の見た目ってどうなんでしょう。今は普通に人間だけど、角が生えたり、羽根が出たり・・・人間に見つかっていきなり退治されちゃうと困るんで、変身とかなんとかできます?」


 さり気なく能力の追加希望を差し込んでみる。


「大丈夫よ。私基準で人間の姿に、と言うよりも基本的に体はガルド・デューの人間のものにしてあちらに送るから。地球の人間とは少しだけ違うけど、そこもきちんとしておくから安心して」

「同じ人間でも違うんだ」

「人間の体の違いは、世界に魔法の有る無しが大きいわね。それと、忌神が残していった邪気の影響もあるから」

「あぁ、魔法!!それって僕も使えるんですか」


 個人的にとても興味のある部分だ。しょぼい能力しかもらえなかったショックで忘れかけてたけど、一般人が魔法を使える=“特別な力”じゃないなら僕だって使えていいはずだよね。


「そうね。可能性は持ってるから勉強すれば使えるようになるわよ」

「お~。あ、人間の体って僕は慣れてて違和感無いですが、それはそれで魔族の人たちと会う時に困りませんか?一応、魔族の王様として行くんですよね。変身魔法とか・・・・」

「魔族は色々な体や外見を持つ種族だから、そこは気にする必要がないと思うわ」


 アユフレードは変わらない微笑みでさらりとかわしてきた。ちょっと変身とかしてみたかったのになぁ。残念。


 その後いくつか確認と打ち合わせをして、出発(?)となった。


「希望通りに魔族の暮らす領域に近い人間の街のそばに送るわ。でも、ある程度納得したらきちんと魔族のところに行ってちょうだいね。あなた魔王なんだから」

「わかりました」

「それじゃぁ、すぐに死なないようにしっかり生きていってね」


 あまり気持ちを励まされない言葉とともに、アユフレードが右手を軽く挙げると、僕は光の粒に包まれた。立ちくらみのように視界がぼんやり遠のく感覚に続いて、意識もハッキリしなくなる。


(なんか面倒なことになっちゃったなぁ。目が覚めたら全部夢でしたって展開でお願いします!)


 アユフレードではない、どこかの神様に祈ったところで、僕を包む光がひときわ強くなったのを閉じたまぶたに感じた。


『これでこっちは・・・・』

『ふむ・・・・ほう、偶然・・・・』

『・・・・この出会いが・・・・』

『・・・・計画通り・・・・』


 アユフレードと、もうひとり男の人の話す声が聞こえたけれど、遠ざかる意識のせいで部分的な内容しかわからなかった。

 誰と何を話してたんだろう、そんなことを思いながら僕は最後の意識のかけらを手放した。


◆◆◆


「ぅ~・・ん」


 閉じたまぶたに先ほどとは違う光を感じて目を開く。横たわっていた体を起こす。少し肌寒い。


 周囲を見回すと、僕がいるのはぽっかり空いた半径5mほどの円形に木の生えていない場所で、地面をおおう短い草の上だった。その空間の周りは木に囲まれている。充分明るくなってはいるけれど、太陽はまだ登り始めてそれほど経っていないようだ。

 顔にかかる髪を手で払い、こわばった体をほぐしながらゆっくりと立ち上がる。僕が寝ていた時の頭の上に当たる場所の地面に布の袋があるのを見つけた。


「はぁ~。この袋があるってことは、やっぱり夢じゃないのかぁ」


 麻の様な素材で作られた袋には、アユフレードの言っていた通りの物が入っていた。


「パン、干し肉、この革は・・・・水の袋か。で、この包みが香木ね」


 寝ていた体の横に木の杖も置かれていた。この杖の先端方向に進めば、歩いて半日位で都市間を結ぶ街道に出られるって話だったな。街道に出たら左の方に向かって、さらに半日で目指す街のヘイプト市にたどり着くって。


 香木の小さな包みを開くと、甘いような苦いような、どこかお寺を思い出させるなんとも言えない香りが微かに鼻に届いた。これは、街に着いてから換金するための物。

 アユフレードが言うには、神様が人間達の使うお金を生み出すのは非常にヨロシクナイことらしい。消費されて消える物・自然物なら世界への干渉が少ないとか。そう考えながら見ると、僕が着ている服も染色もボタンなどの加工も無くて麻ひものような物で締めているシンプルな物だし、杖だってただの木だ。


「神様も不自由なんだなぁ」


なんてちょっと同情してつぶやいてしまう。


「しかし、初期装備が『木の杖』『布の服』『携帯食』って、まんまゲームの勇者みたいじゃん」


 特殊能力も魔法も無しで、まさにトラディショナルな“Lv.1勇者旅立ちスタイル”だよ。

 あれ?僕は魔王様だよね。今さらだし、成りたくてやってるわけじゃないからいいけどさ!


「まだ朝だから、聞いた通りなら街道まで半日+街まで半日で今日のうちに着けるでしょ。あ~、でもこの林?森?の中で迷わないかなぁ。まさか樹海みたいなとこじやないよね。切り株の年輪見るんだっけ。って、そもそも目指す方角はどっちよ。太陽があっちだから、だいたい西?そもそも地球の基準でいけるの?・・・・ふぅ、ここで座りこんでてもしょうがないし、行きますかね。野宿とかやだし。アユフレードだっていきなりスタート地点の森で迷子になってゲームオーバーな展開にはならない場所選んでくれてるはず!だって神様だもの。あ、でも不自由な神様か。いやいや、それにしたって・・・・」


 ブツブツと独り言を口にしているうちに、諦めと、どうせ成るようにしかならないという開き直りの成分で気持ちが満たされてきた。動き出せる精神状態のうちに出発しよう。

 僕は、念のためもう一度進む方向を確認してから杖を拾い、荷物の入った袋を担ぐぎ歩き始めた。


◆◆◆


 空の高い位置に太陽がある。もう少しで天頂にかかる頃か。

 僕は歩いている。

 ずっと歩いている。


「う~ん。歩いて半日って、甘くみてたなぁ」


 見通しの甘さを悔やみながら、街道を目指してひたすら歩いている。


 スタートは順調だった。不安だった林はそれほど深いものではなかった。背中の半ばまで伸びた僕の黒い髪が時々枝に引っかかるのが面倒だった程度で、体感時間で30分もしたら木々の中から抜けることができ、目の前には緩やかな起伏がある草原が広がった。


 途中の丘が視線を遮り街道はみえないけど、樹海でさまよう心配から解放されたし、足元の草丈もスネまでないから、木の根や倒木を避けながらの林と比べてずっと歩きやすい。


 正面遠くに見える山を目印にフンフン鼻歌を歌いながら草原を歩き出した。

 時々草むらから飛び出す虫にビクッとしたり、前方の草がガサガサ動くのを見て固まって、遠くに行くまでジッと息をひそめたりの道中だったけど。


 慣れない長距離徒歩移動でペースがわからず、途中でへばってしまった。休憩をとり水袋をだして水を飲んだけど、ヌルいし革の匂いはするしでマズくてビックリした。生まれ変わってから水筒の偉大さを思い知るとは。


 そんな水分補給でも体力は回復して、また動き出せた。

 風になぶられた髪が汗をかいた顔にまとわりついてじゃまになるで、その辺に生えてた草を使って首の後ろで縛っておく。それにしても、なんで神様アユフレードが作ってくれたこの体はこんなに髪が長いんだろう。


 それが2時間位前だろうか。緩い勾配の小さな丘を越えたところで、やっと草原を切り裂く一本の線を視界の先の方に捉えた時は、気持ちが緩んで少し涙ぐんじゃったよ。

 ゴールが見えない単純作業ってホントキツイよね。


 さらに1時間くらい進んでついに街道にたどり着いた。さすがに呼吸がやや荒くなり、足もダルくなってきた。

 道のすぐ脇にドッカリと座りこんで荷物を開けて昼食にする。といっても、美味しくない水を飲んでパンと干し肉をかじるだけ。期待を裏切らない食事だった。


「はぁ~。パンは硬くてモソモソというよりゴワゴワしてるし、干し肉もカッチカチに硬いし塩気がキツい。地球の食事ってゼイタクだったんだねぇ。いや、これらは“食事”ではなく、鍋で干し肉を煮てスープを作り、パンを浸していただくための“食材”だったんじゃないの?」


 こんなことを思いつくのは、死ぬ前の僕はソコソコ料理をしてたからなのかも。

 まぁ、鍋だの調理器具だのを担いで歩かされるなんてのは全力拒否だし、何もない草原でたき火をする技術もないけどね!


 結局、パンと干し肉は3分の1も食べるとアゴが疲れてきたので、今日街に着けなかった場合に食べることにして残しておいた。そんな食事でも食べて、草原を渡る爽やかな風に顔をなでられながら少し休憩すると、息も楽になり足のダルさも消えていた。


「途中の休憩でも思ったけど、ひょっとしたらこの新しい体って疲労回復がスゴく速い?アユフレードが健康な体をくれるって言ってたのはこういうことなのかな。健康って範囲をずいぶん超えてる気がするけど、もしそうならばラッキーだったねぇ」


 アユフレードが神様として司るものには、サービス精神というのは含まれていないと思っていたけど、少し評価を上げておこう。ホントにチョットだけね。


「さて、もうひと頑張りしますか」


 つぶやいて自分を励ましていると、風向きが変わって背中を押すようにやや強い風が背後から吹いてきた。


 ドキッ


 もちろん風に驚いたわけじゃない。風に乗って耳に届いた音、いやそれも不正確。


グルガァッ!ガガァッ!


 まるで犬がケンカしてるような吠え声に怖々振り返る。


 まだ200m位は離れているが暗い灰色の毛並みをした犬みたいな生き物が4匹、ケンカしてるのかじゃれているのか、でもだんだんこちらの方に近づいてきてる。


「なにあれ、ヤバイ」


 慌てて荷物を肩に担ぎ杖を拾うと、後ろを気にしてチラチラ見ながら早足で逃げだす。


「あれ、イジメられてるのかな」


 見ていると4匹のうち1匹が、他の3匹に追い立てられているような感じがする。


「って言っても、助けてあげられないよなぁ。野犬怖いし。今のうちに離れさせてもらうよ」


 ごめんなさい、とさらに足を早めて逃げていると、野犬達のケンカは街道にたどり着いた辺りで終わったようだ。もしかしたら、やられてたのは“はぐれ”かな。3匹のナワバリに入って追い出されてたんじゃないかと予想する。


 なんにせよ、僕は距離もとれたし風向きも横からだから匂いで追われることもないだろうと、歩くペースを落とした。


 野犬のケンカから1時間ほど経った。ここまで街道を通る人がほとんどいない。一度だけ後方からヘイプト方面へ走る騎乗の兵士っぽい人が僕を追い越して駆けて行っただけだ。

 結構しっかりした街道なのに、何でこんなに人が通らないんだろう。街道にはわだちもついていて、それなりの通行があったように思えるけれど。


 そして今、僕は道端で休憩しながら思わず口にする。


「う~む。どうしよ」


 うなりながら振り返ると30mくらい後ろに、たぶんさっき追われてた野犬が座ってこっちを見ている。なんだかみすぼらしいというか、やつれた感じというか、負け犬オーラがただよっている。実際に負け犬なんだろうけど。


「犬君は、僕を獲物としてロックオンしてるのかな~。でも、襲ってこないのはなんでだろ。隙を見せるのを待ってるの?あ~、これ街に着ければいいけど、野宿だと寝られないじゃん。てか、犬君けっこうでっかいし」


 気付いたら後ろをずーっと着いて来ていた。こっちが止まると向こうも止まる。兵士っぽい人が通った時は姿が見えなかったから、道から草原に避けて草の中に伏せていたんだと思う。

 追い払おうかとも考えたけど、刺激して噛まれたらやだし、様子を見ることにした。


「そうだ。野生の動物はお腹減ってなければ、むやみに他の生き物を襲わないんじゃなかったっけ」


 荷物から残しておいたパンと干し肉を半分ずつ出して地面に置くと、休憩を終えて出発する。少し歩いてから振り返ると、犬君はパンと干し肉の匂いをかいでいた。


「犬君、これで満足して帰ってくれるといいんだけど・・・・」


 しばらくして振り返ると犬君の姿は見えなかった。


「ふぅ。これで一安心。でも、道行きの連れがいなくなったみたいで、ちょっぴりさびしいかも」


 我ながら独り言が多いと気付き、苦笑いした。

ご覧いただきありがとうございました。


改稿で、旅立ち前の会話を多少変更していますが、話の流れは以前のままです。

変更になりましたことはお詫びしたします。

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