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1 魔王様、初手で悩む

「・・・・・・・・ま、まおう?」


 何か理解できない単語が耳に届いたけど、聞き違えたかな?


「ええ、魔王よ」

「え、いや、え、でも・・・・」

「どうしたの?」


 アユフレードは不思議そうに、僕が戸惑う様を見ている。

 あれ?僕がおかしいのかなぁ。いやいや、落ち着こう。魔王は無いよ。

 ・・・・無いよね?


「世界を滅亡から救うんですよね?」

「直接あなたが何かをしてってわけではないけれど、そのためにガルド・デューに来てもらうつもりでこうしてお願いをしているわ」

「えっと、魔王って、どちらかというと、世界を滅亡させる側なんじやないかと」

「あぁ、そうね。人間の中には魔王をそう考える人もいるかしら」

「?」


「魔王は、魔族や魔人から見たら自分達の王様でしょう?」

「魔族・・・・魔人?」

「そうそう、ガルド・デューには、地球と違って人間だけじゃなくて魔族や魔人も暮らしてるから」

「も、もしかして・・・・そこってド、ドラゴンとか、魔法とか、そういう世界なんですか?」


「あら、理解が早くて助かるわ。そうよ、数は少ないけど魔族の一種としてドラゴンもいるし、他にも困ったことにモンスターというのもいるわ。魔法も、さっき見せた私たちが使うものとは仕組みが違うけれど、そう呼ばれる技術がある世界よ。魔法があるせいか、あなたが生きていた地球と比べて科学技術では大きく遅れている所もあるけれど、そこは必要性の差と言えばいいのかしら」


 なんと!ガルド・デューという所はファンタジーな世界なんだ!!

 魔法にドラゴンにモンスター!!!

 目の前にアユフレードと名乗る神様が居る時点で、いまさらとも思うけど。

 おっと、そうじゃない。びっくりして思考がそれた。どんな世界で生きるのかも気になるけれど、今大切なのは押し付けられようとしている魔王のこと。だいたい、魔王の役割といったら・・・・


「じゃあ、ぼ、私は魔王として人間を、その、・・・・ほ、滅ぼすのが、役割なんですか?」

「う〜ん、そうね。そうしてくれてもかまわないわよ。それくらいすれば世界中の存在があなたを認識せざるを得ないでしょうから」


 アユフレードはにっこりと笑ってそう答えた。


 やっぱり!!

 やだ、どうしよう。ヤバイヤバイ。

 世界を救うとか言ってたけど、この美人さんいわゆる邪神様なんじゃないの?このままだと本当に人間の敵にされちゃう!!

 神様相手に拒否ってできるのかしら。で、でも、最初にお願いって言ってたはず。いや、僕も(たぶんそうじゃないかな、というぼやんとした認識があるだけだが)大人な社会人だったから、“お願い”という慇懃な言葉のオブラートに包まれた“命令”があるということは理解してるさ。けれど「はい、わかりました。人間の敵やります」とは言えない。


「あ、あの~。私、一応人間なんで、そういうのはチョット・・・」

「死んでしまったから、元人間だけどね」


 クスリとひとつ笑みをこぼし、微妙に僕の自己認識を訂正してきながらアユフレードは言葉を続ける。


「ふふ、落ち着いて。目的はあなたの魂の存在力を高めることだから、別に人間を滅ぼす必要はないの。多くの魔族を従えて国を興してもいいし、人間に対して戦争をおこしてもいいし、世界征服をしてもいいわ。少し意味合いは違うけれど、ガルド・デューであなたという存在が有名になってくれたらいいのだから」

「有名に?」


「ええ。そうして世界中の多くの人々が、これは人間だけでなく魔族や他の存在たちも含めて意思ある者たちって意味だけれど、あなたという存在を無視できない状況になってくれれば、あなたの魂はあなたを認識する魂から少しずつ力を集めて蓄えていくの。だから極端な言い方をすればこの目的を達してくれるならば、どういう手段であれ自由よ」


 よかった、別に邪神に仕える悪の大魔王を目指さなくてもいいのかぁ。そう考えると少し気が楽になったかな。

 でも、なんか簡単に有名になれって言われても、それはそれで大変じゃない?それこそ魔族の大帝国を作って世界を相手に・・・・って、これじゃ結局人間滅ぼすか支配するコースになってる。

 そうだ!いっそゲームの魔王みたいにダンジョンを作って引きこもっちゃえばいいのかも。って、ダンジョンに来た人と戦うんじゃ同じことかぁ。だいたい、ダンジョンなんて大掛かりなものどうやって作るのかな。掘るの?ムリでしょ。

 あぁ、ダメだぁ。どうしたって人間の敵になるビジョンしか浮かばない。だって魔王なんだもの!


「う・・・・んん?世界的に有名になるのが大変だっていうのもあるけど、そもそもの話、有名になるだけなら魔王なんて悪者っぽい設定(?)いらないじゃないですか!」


 危ない!気付いてよかったよ。わざわざ生きにくい背景を背負って次の人生過ごすことないよね。僕はもっと幸せになれそうな方法で有名になりたいです!

 商売で成功するとか、ガルド・デューにあるか知らないけけど、アイドルとか、ミュージシャンとかさ。歌も作曲も全然ピンとこないから才能なんて無いっぽいけど、神様の力で人気集めるか、すっごい能力もらえたらいけるんじゃないかな。


「私達にも力を行使する際のルールがあって、あまり直接的な影響を及ぼすことや、ガルド・デューのバランスを壊すような才能や加護を与えることはできないのよ。色々考えたのだけど、必要な存在力を集められるほど世界に認識されるには他にアイディアが無かったの」

「・・・・それで魔王ですか」

「もちろん、ルールの範囲内で援助はするわ。でも、超常の力を授けて無理矢理有名にするようなことはできないから、がんばってほしいの」


 つまり、特別な力が無いのに魔王として生きていけと?


「えぇ~!!魔王は、すごい能力とか無いんですか!?肩書きだけ魔王の一般人とか、ただのイタイ人じゃないですか!!ムリムリ、ぜ~~ったいムリですよ。やっぱり何か別の方法考えましょう。私も考えますから」


 相手が神様なのも忘れて、僕は顔をブンブン音がするほど左右に振り精一杯抗議する。

 何の力も無しに自分は魔王ですとか、思春期にかかる子がいる一過性の精神状態か、妄想癖の危ない人にしかならない。その上、人間の敵として有名になって生きていくなんて、いっそ世界を救うよりハードルが高いよ!


「落ち着いて。もちろん魔王になってもらうために必要な能力は授けるわ」


 なんだ、ちゃんと用意してくれてるんだ。だったら思わせぶりなことを言わないでほしかったね。あせりまくって損した気分だよ。

 まぁ、魔王がスゴイ能力を持ってるなんて当たり前といえばその通りだけど。

 とにかくこれで助かった。神様が世界を救うことを考えてるのに、達成不可能な条件のわけが無かった。取り乱してしまったのを思い出して恥ずかしくなり頬がやや熱を持っているのを感じる。見てわかるほど赤くなっていないといいんだけど。


「今からその能力について説明するけれどいいかしら。よく聞いてね」


 アユフレードは少し間を開けてから話し始めたけど、僕が落ち着くのを待ってくれたのだろう。さりげない配慮に感謝しながら聞き漏らさないように集中する。


「まず、一つ目。健康な体を授けます」


 おぉ!有名になる前に病気でリタイアするわけにいかないものね。人間は体が資本。・・・魔王だけど。

 狙われながら生き抜くためにも必須だよね~。熱出して寝込んでるところを退治される魔王とかコメディだけど、我が身で実践したくない。


「・・・・」


 でもさ、魔王に授かる力が“健康な体”・・・・ワクワクした気持ちを返して欲しい。


「それから、もう一つの能力ね」


 そうだよね。さっきのはあって当然、とりあえずビールで乾杯、ファミレスのお冷みたいなものだよね。

 ふふふ、ここからが本番。さぁ、どんな能力だろう。魔法かな?スゴイ魔法の才能とか、かっこいいよね~!

 いや、何でも見通せる魔眼とか?未来が見える目で、無敵の剣士なんてね!・・・・なんか楽しくなっきた。


 僕、こういうのが結構好きなヤツだったのかな。周りの人に変な目で見られてなければいいけど、ってもう死んじゃったんだし、今さらか。

 さてさて、どんな能力をもらえるのかな~?


「生き物に少し好かれやすいという特性を授けます」

「・・・・・・・・」

「どうしました?」

「・・・・好かれやすい、ですか」

「えぇ、そうよ」


 だいぶ予想外の能力だった。それ以外の感想がとっさに出てこない。

 それ、魔王の能力なんだよね?魔族の王様にして人間の敵である魔王の。魔王ってそんな感じだったの?神様。

 僕の目の前で、顔の横にピンっと右手の人差し指を立てて、神妙な表情で話し始めるアユフレード。


「あなたは魔族の王様になるのだから、少しの違いでもとても大切なことなのよ?」


 いや、「わかってる?」みたいに言われても、困るわ!

 しかも、“少し”だけっていう中途半端さは何!?


 ま、まぁ、考えてみれば、あって困るわけじゃない。嫌われ者になるより好かれた方がいいはず。

 いや、むしろ王様なんだし、これはハーレムへの布石と思えばロマンあふれる力かも!!相手は魔族と魔人だけどね・・・・


「わ、わかりました。人気大事ですよね。・・・・次の能力にいきましょう」


 なんとか気を取り直して、続きを促す。


「この2つだけです」

「・・・・は?」


 一瞬理解が追いつかなかった。思わず出てしまった素の言葉は、神様相手に失礼だったかもしれないが、この瞬間の僕はそんなこと気にしていられなかった。


 アユフレードは少し困った顔で、もう一度ゆっくりと告げた。


「あなたに授けるのは、“健康な体”と“生き物に少し好かれやすい特性”の二つです」

「な、な、な、・・・・なにそれ~~~!?」



 僕の魔王ライフは、始まる前から詰み気味だった。

ご覧いただきありがとうございました。

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