序章
かつてすべての世界には魔王が君臨し、世界は破壊と再生を繰り返していた。魔王は眷属である魔族と魔物を支配下に治め、その権力は人間の持つ権力よりはるかに絶対的なものだった。
魔王は魔族や魔物を生み出しては文明を滅ぼし、一定の水準にまで達するとまた滅ぼすことを繰り返す。勇者と呼ばれる人間もいるが彼らが魔王を倒すことはなかった。
魔王、魔族、そして魔物でさえも倒されない限り死ぬことはなく、世界中を文字通り制圧していたのである。
しかし、その絶対的な権力も終わりを告げる。
虚無の魔王と不死の魔王。
この二人の争いによって世界は修復不可能な傷を負ってしまう。虚無の魔王は原初の魔王と恐れられてきた存在であり、不死の魔王は未来から過去に遡行して生きるという不死が確約しあ存在である。本来魔王同士の対決は禁じられており、魔族や魔物を使った模擬戦が行われるのが定められているが、お互いに特殊な魔王だったためにそのルールは破られてしまった。
魔王が破壊と再生を繰り返していたのには理由がある。
それは文明のリセットを行うことで世界の負荷を軽減するためだ。世界には意思があり、自我があった。その負担を軽減することこそ魔王に与えられた役割だったのだ。しかし、魔王が失われた今となってはただ壊れていくだけである。
魔王が消失してから世界が壊れるまではあっという間だったという。
そんな魔王を失った世界のひとつに一匹の悪魔がいた。
名を「アルテミシア」という彼女は銀の髪を持つことから「銀の悪魔」と呼ばれ、後に「うつろう悪魔」とも呼ばれるようになるのだが。「うつろう」とはそもそも別の魔王の呼び名だったのだが魔王がいなくなったのと時を同じくしてその魔王「うつろう魔王」も消えてしまった。彼女には親しくしていた魔王がいた。しかし、アルテミシアの元にこんな情報が届いた。
「うつろう魔王はまだ生きている」
そしてそれと同時に魔王が復活したとの噂も聞かれるようになる。
アルテミシアは真相を確かめるため旅に出ることにしたのだった。