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朝の寒空

お題「朝の寒空」 時間:4時間

 目が覚めた時、部屋の中がまだ薄暗かった。

 パチパチと瞬きをしてから、ゆっくりと起き上がる。ひやりとした空気が流れ込んできて、思わず布団を被ってもう一度横になった。

 顔が冷たくて、頭まですっぽりと布団に潜る。しばらくそうして布団の中に温かさが戻ってきてから、顔だけを出して時計を見れば、まだ夜明け前を指していた。

 どうしてこんな時間に起きてしまったんだろう、と考えて、寒さのせいかもしれないと思い至った。

 最近、どんどん気温が下がって寒い日が多くなってきていたけれど、今朝の冷え込みは一段と厳しいらしい。

 私は名残惜しく思いながら布団を出て、彼にもらった半纏を着てから部屋を出た。

 廊下は冷たく、裸足の足からどんどん熱が奪われていく。夜の家に閉めていた雨戸を開けて縁側へ出て空を見上げる。

 薄っすらとまだ昇ってきていない朝日の光で、夜空と朝日のグラデーションが綺麗だった。まだちらほらと星が瞬いている。

 冬の空は空気が澄んでいるから、よく星が見えるのだそうだ。

 しばしそんな朝の寒空を見上げていたら、小さく身体が震える。

 雨戸を閉めて、彼の部屋へ向かった。音を立てないように襖をあけて覗き込むと、彼はまだ起きていないようで、布団が盛り上がっているのが見えた。

 足音をたてないようにゆっくりと畳を踏む。廊下ほどではないものの、畳も朝の冷え込みのせいでひやりとしていた。

 布団まで近づいて、彼の寝顔が見える位置に座り込む。

 いつも見ている彼の寝顔。

 不思議と温かい気持ちになれる気がして、寒さもちょっと和らいだような気がした。

 彼は今日お仕事は休みのはず。彼が起きた時に寒い思いをしないよう、ストーブを点けておいた方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、


「……っくしゅん!」


 くしゃみが出てしまった。

 寝顔を見つめている間にすっかり身体は冷えてしまっていたらしい。自分の身体を抱くようにして腕を摩る。


「……どうかしたかい?」


 声が聞こえてハッと顔を上げると、眠そうに片目を擦っている彼と目が合った。


「あ……ごめんなさい」

「うん……?」

「……起こしてしまいました」


 折角ゆっくり眠れたはずの休日に、こんな早くに起こしてしまったことが申し訳なくて俯く。彼は何も言わずに、布団から手を出して私の手を握った。驚いて思わず肩が跳ねる。

 触れてくる彼の手はとても大きくて温かい。

 彼の手の温かさに、私の手が思っていたよりも冷え切っていたことがわかった。

 彼は痛まし気に眉尻を下げる。


「……冷えてしまっているね。ずっとここにいたのかい?」

「いえ……さっき、です」

「風邪をひいてしまうよ」


 そう言って布団を押し上げた彼に、私は意味がわからなくて首を傾げていると手を引かれた。


「おいで、まだ起きるには早いし、もう少しゆっくりしてもバチは当たらないよ」

「でも……」

「日が昇ってきたら、もう少し温かくなるだろうし、それまではここにいるといいよ。きっともう君の布団は冷えてしまっているだろうからね」


 そう言って彼は欠伸をした。

 このままでは彼の布団まで冷えてしまうと思って、私はおずおずと布団の中に潜りこむ。彼が布団の位置を直してくれて、冷えた身体に彼の温もりがしみ込んでくる気がした。


「寒くないかい?」

「……あったかいです」

「それはよかった」


 彼は笑って私の頭を撫でてくれる。彼の大きな手の感触が心地よくて、そっと目を閉じた。


「寒かったから早く目が覚めてしまったのかな」

「……そうかもしれません」

「起きてすぐここに来たのかい?」

「いえ……窓から空を見ていました」

「空?」

「遠くに朝日の光があって、色がだんだん変わっていて、綺麗でした」

「そうかい。でも、身体を冷やしてしまってはいけないから、今度見る時はもっと温かい格好をするんだよ」

「はい」


 頷くと彼は小さく欠伸をして、ゆっくりと私の背中を撫でてくれる。


「今日は何をしようか」

「……晴れる予報だったのでお洗濯します」

「うーん、そうだね。その後はどうしたい?」

「えっと……ご飯のお買い物に」

「……君は働き者だなぁ」


 彼は苦笑して、ポンポンと私の背中を叩く。


「働き者は先生の方です」

「そんなことはないよ」

「そうですか?」

「私が君くらいの年の頃、家のことなんてほとんどしていなかったからね」


 彼の幼い頃。一体どんな人だったのだろう。

 少し興味が湧いた。

 記憶のない私にはない過去を彼は持っているのだ。


「……お写真とか、ないんですか?」

「え?」

「小さい頃のお写真です」


 彼は困ったような顔で視線を明後日の方向に向けた。


「たぶんアルバムが残っていると思うけど、どこにしまったかな。折角だし、後で探してみようか。楽しいかはわからないけど」

「私にはないものなので、見てみたいんです」


 そう答えると、彼はハッとした様子で動きを止めたかと思ったら、遠慮がちな腕に抱き寄せられる。


「うん、朝ご飯を食べたら探そう。ついでに、今日は物置の整理をしようか」

「はい、お手伝いします」

「うん、ありがとう」


 彼が笑ってくれたので、私も笑って彼の広い胸に顔を埋める。寝る前に焚いていた香の残り香が感じられた。

 彼の腕の中はとても温かい。

 さっきまで冷えていたのが嘘のようにポカポカする身体に安心感を覚えて、私はそっと目を閉じた。

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