秋の木
お題:秋の木 時間:4時間
照りつける太陽の光が少し和らぎ始め、秋を感じさせる風が吹く頃。
庭先に花が咲いた。
オレンジ色の小さな花はとても綺麗で、いい香りが縁側まで届く。
何という花なのかを彼に尋ねたら、金木犀だよと教えてもらった。
「とてもいい匂いです」
「そうだね。私の母がずっと世話をしていたらしいんだけど、毎年この時期に咲いてくれるんだ」
「秋の花、なんですね」
秋は、草花がどんどん枯れていくイメージが強い。その中でも咲く花があるんだと思うと、なんだか少し嬉しい気持ちになる。
「咲いている期間は短いのは残念だけど」
「そうなんですか?」
「一週間くらいで散ってしまうんだ。秋雨でも散ってしまうそうだけれど」
「そうなんですね……」
たった一週間。それはとても短い期間だ。
「なんだか、寂しいですね。もっと見ていたいです」
「そうだね」
彼と一緒に、庭の金木犀を眺める。時々深呼吸をしながら香りも楽しんだ。
「あぁ、そうだ」
彼が思い出したように声を上げたので、なんだろうと思って顔を上げる。
「金木犀の花そのままは無理だけれど、押し花にしてみるのはどうだい?」
「押し花?」
「やったことないかい? 花を重い物で挟んで乾燥させるんだ。栞にしたり、手紙に添えたりするんだけれど」
「やったことは……ないと思います」
私が首を横に振ると、彼は微笑んだ。
「じゃあ、一緒にやってみようか。厚い本がたくさんあるから、重しには困らないし」
「大事な本、使ってもいいんですか?」
尋ねると、彼は微笑んだまま私の頭を撫でてくれた。
「構わないよ。といっても私も初めてやるから、失敗してしまうかもしれないけどね。綺麗にできたら、栞にしてみようか」
「はい……! やってみたいです」
「そうかい。あ、そういえばお隣の奥さんから頂いた紅茶に、金木犀のお茶があったね」
「金木犀は、お茶にもなるんですか?」
「そうみたいだね。とてもいい香りがするから是非にと言われたよ。ちょうどいい時間だし、病院でもらったお菓子と一緒におやつにしようか」
「はい! 私、お茶入れます」
「うん、お願いするよ」
台所へ向かう彼の後を追おうと立ち上がったところで、ふわりと風に乗って金木犀の香りが届いて振り返る。
鮮やかなオレンジ色の花を目に焼き付けるように見つめてから、彼の声に呼ばれて台所へ向かった。