06
七月に入り、暑さもいよいよ夏という感じになってきた。
本日、件のデブスは学校を休んでいる。
といっても、気にしている生徒はほとんどいないようだが。
「ねえねえ、ひーくん」
昼休み、例によって読書に耽っていると、桜が話しかけてきた。
「んー?」
「原さんのこと、どう思う?」
「原?」
ああ、デブスか。
「あっ、別にそういう意味じゃないよ?」
そういう意味であってたまるか。
「たた、あの娘いまだにクラスに馴染めてない気がするじゃない?友達の一人でもいていいはずなのに、あの娘が他の娘と話してるのを見たことないし」
ふむ、確かに。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「彼女にクラスにとけこんでほしい!」
なるほどな。
こいつの根っからの優しさは、昔から称賛に値するレベルだ。俺も何度も助けられた。
だが、
「それが彼女にとって良いこととは限らないんじゃないか?」
「え?」
「お前はすでに何度もあいつに話しかけているだろう」
しかし、その行為はことごとく無視という形で避けられている。
つまり彼女は自ら望んで周りから距離をとっているのかもしれない。
「だから下手に首を突っ込んだら逆に迷惑だろう」
「でも……」
それでも何かしらしないと腑に落ちないようである。
――優しいな、やっぱり。
姫百合の生まれかわりではないだろうか。
「なにもするなとは言わないが、今は様子を見ておいた方がいいだろう」
「……わかった」
つい今までシリアスだった顔がすぐに笑顔に戻る。これもこいつのいいところだ。
えへへー、と笑う桜。
「それにしても、流石わかってるねー。ひーくんも昔は――」
本で頭を軽くひっぱたいてやった。
「いたーい」
「昔の話を出さんでよろしい」
うらめしく訴えると、彼女は頭をさすりながらぺろっと舌を出した。