9話 迷宮で人助け?
あれから僕はひたすらオーラの修行に励んだ。
最初こそおぼつかないオーラ操作も、中々様になってきたんじゃないかと思ってる。
強化系のオーラは、操作技術に全てが詰まっているとアリシャさんは言っていた。
魔法系や特殊系のような汎用性がないからこそ、修行もシンプルになる。
慣れてくれば多少は魔法も使えるみたいだけど、色々手を出すと成長の阻害になるからと、その修行はお預けとなってしまった。
迷宮病の症状はかなり緩和され、三日間の修行が終わる頃には、アリシャさんから迷宮へ行く許可が出た。
でも僕はそれから三ヶ月程、迷宮には行かずに修行に没頭した。
理由は二つ、あの日二層で戦えはしたけどそれ以降の階層はオーラが必要になる可能性がある。
パーティを組んでない僕は、推奨レベル以上の技術を覚えていた方がいいと思う。
もう一つは知識が不足しているから。それは迷宮やオーラについてもそうだけど、人体に関する知識もだ。
骨格や筋肉、臓器から血管や神経にいたるまで、僕は人並みの知識しかなかった。
強化系は己を強化する訳だから、そこら辺の知識はきっと役に立つはず。これは独断でアリシャさんにも、誰も相談していない。
そうして三ヶ月もの間、人体の基礎知識やオーラについてを詰め込みと、オーラ操作の向上に没頭していた。
勿論その間、基礎トレーニングも怠ってない。純粋な筋力や体力が不足しているのは明白だったから。
「うん、結構筋肉ついてきたかも」
家の鏡で自分の身体を見ると、かなり変化があるのが分かる。
胸筋や腹筋、腕や肩周りもいい感じだ。
「よし、迷宮に行って試してみようかな」
本音を言えばそろそろお金を稼がないと、貯金が底をつきそうなんです。
嘘です。もうほとんどありません。
◆
迷宮の入口にて、何やら人集りが出来ている。
なんだろうと、覗いて見るとそこには見覚えのある、見たくない顔があった。
金髪イケメン、ラインハルト君。それにパーティメンバーの美少女も揃っている。
パーティ名はなんだっけな。確か、蒼穹の翼とか、そんなんだった気がする。
迷宮には空なんてないし、あんた翼もないでしょなんて、そんな野暮ったい事は言わない。本人達が気に入っているのであれば、それでいいからね。
「あれ……珍しいな」
この前Aランク冒険者になったラインハルト君率いる蒼穹の翼は、飛ぶ鳥を落とす勢いであり、自他ともに認める程の実力派パーティ。
剣士のラインハルト君、弓使いのなんとかさん。魔法系のなんとかさんと、回復役のなんとかさんだ。
彼以外興味がないので、聞いたことはあるんだけど忘れてしまった。
とにかく、そんな実力者で固められた彼らが、ボロボロの姿になっている。
ラインハルト君は傷だらけで女の子を背負っている。その子に意識はなく、同じように傷だらけだった。
「どいてくれ……急ぎなんだ」
ラインハルト君は視線を落とし、苛立ちを隠すでもなく他者をかけ分ける。
僕ともほんの一瞬目が合ったけれど、話しかけては来なかった。
状況が状況だし、僕としてもなんて声をかけていいのか分からないから有難い。
「ステラ、一体何があったんだ」
恰幅の良いおじさんがパーティの一人、黒髪の魔法使いっぽい格好をした女の子、ステラさんに話しかける。
「……冥府の使者よ」
ステラさんは苦虫を噛み潰したような顔で、それだけ呟くとそそくさと行ってしまった。
今まで彼らが負けたという話は聞いた事がない。よっぽど悔しかったのだろう。
出来れば彼を最初に倒すのは僕でありたかったけど、モンスターだからノーカンでいいよね。
それにしても冥府の使者か。
深層で極稀に発見報告があり、未だに討伐報告がない謎に包まれた特殊なモンスターだ。
ヴォルフガングさんも一度遭遇したことがあるらしく、その時は逃げるのがやっとだったって言ってたな。
まぁその時ヴォルフガングさんはSランクではなかったらしいから、今ならまた少し違うのかもしれないけど。
あれ、つまり、ラインハルト君達は深層まで足を踏み入れたのかな。
いや、それはどうも考えにくい。彼が如何に天才だからと言って一年と少しで深層は無理だ。
となると、下層に現れたのか。それも微妙だ。
基本的にモンスターは階層を大きくはまたげないはず。いくら冥府の使者と言っても深層から下層へ、なんてそれは異常すぎる。
まあでも考えた所でわからないし、上層の僕にはあまり関係のないことだ。
「それより久しぶりだから、ちゃんと戦えるかな?」
◆
結論から言うと腕は落ちていなかった。そもそも、落ちるほどの腕もないんだけども。
一層と二層には相手になるモンスターはおらず、三層とてそれは同じだ。
目の前には四層へと続く通路。まだオーラも使ってないし、行っても問題はなさそうだ。
四層も同じような洞窟エリア。というか上層はそこら辺の変化はあまりない。
警戒しながらしばらく歩いていると、岩の隅っこがぼんやり光っている。
見ると白い花が咲いている。
「これは……アスピオ草か。ラッキー、摘んでこっと」
アスピオ草はポーションの原料の一つで、迷宮にしか生えていない。
この状態でもすり潰して傷口に塗ればそれなりの効果は得られたりする。
ポーションなんて高くて買えないから、駆け出し冒険者からしたら、非常にありがたい薬草だ。
仮に使わなかったとしてもギルドで買取りしてくれる。この量じゃ二束三文にしかならないけど、絶賛金欠中の僕にとってはかなり助かる。
アスピオ草を懐にしまうと、奥から足音が響いてくる。
「ホブゴブリン……まじかで見ると大きいなあ」
ヴォルフガングさんくらいあるんじゃないだろうか。どうやったらゴブリンが一夜にして、この筋肉ダルマになるのか不思議で仕方ない。
ホブゴブリンは力こそパワーなタイプで、一撃が重い。俊敏さこそないが、厚い筋肉の鎧を着ているので多少の攻撃なら無視して突っ込んでくる。
まさに力こそパワー。
「グオオオオ!」
ホブゴブリンは僕を見つけるなり雄叫びを上げ、ドシドシと音を鳴らし距離を詰めてくる。
「せっかくだし、オーラ使おうかな。実戦でも慣れてかないと」
まずは満遍なく全身を強化。よしよし、問題ないね。
後はこのちっこい双剣の刃が、あの分厚い筋肉を斬り裂けるかどうか。
迫る拳を軽く避ける。
あれ、思ったより遅いな。
避けると同時にオーラを右の剣に纏わせる。無駄な消費を省く為、刃だけに集中させた。
これは最近出来るようになった技術で、覚えるのにかなり苦労した。
そして、無防備に伸びた腕を右手で切り上げ――
すぱっと空を斬ったような手応え。
「……ん?」
直後、噴き出す血流とホブゴブリンの悲痛な呻き声。ぼとりと落ちるぶっとい腕。
どうやら腕を切断したらしい。そんな感覚なかったんだけど。とりあえず考えるのは後でいいか。
腕を落とされジタバタするホブゴブリンにトドメを刺すのは容易く、脳天に剣を突き刺すと霧となって消えた。
「……たまたま? なんか手応えがなさすぎて……もう一体倒せばわかるかなぁ」
見掛けだし過ぎるホブゴブさんの魔石を回収し、先に向かった。
さっきのは、たまたま運が良かっただけかもしれない。四層のモンスターがこんなにあっさりと倒せるはずがないもの。
とりあえずそういう事にして次のモンスターを探すべく、四層攻略を再開した。
迷宮に求める物を間違っている気がするが、気のせいだろう。
道中、ホブゴブコンビと出会したが、全く相手にならなかった。
二対一とはいえ、初動が遅いパンチばかり。避けてカウンターを決めるだけで倒せてしまった。
「えへ、僕結構強くなってるのかも」
この三ヶ月、四時間の睡眠以外、ほとんどをオーラ操作や、知識の詰め込みに費やした甲斐があったというもの。
努力が実っているのがたまらなく嬉しい。僕は誰も見ていないのをいい事に、にんまりと笑顔で歩を進めた。
なんて呑気に歩いていると、遠くの方から誰かが歩いてくるのが見えて急いで真顔に戻す。
「あれ……? なんかヨロヨロしてるけど、大丈夫かな」
足を引きずり、フラついている。これは多分、大丈夫じゃないなあ。
「あ、倒れた――じゃなくて、助けないと!」
急いで駆け寄ると、倒れているのは炎のような赤髪の女の子だった。




