6話 痴女2号
「なるほどな……クロノ、それがオーラってやつだ」
「えっ、そうなんですか?」
昨日の出来事をそのままヴォルフガングさんに伝えると、そんな言葉が返ってきた。
あの身体の軽さや全能感は、やはりオーラによるものだったみたい。
嬉しいんだけど、なんかこう、もっとあると思ってた。可視化できるエネルギーとか? 力の象徴的な? そんな感じの。
「思ってたよりも早かったな。本来俺が教えてやりたい所だが……オーラに関しちゃあいつが適任か」
「あいつ?」
ヴォルフガングさんに教えてもらえると思ったら、どうやらそうでは無いらしい。仮にもギルドマスターだし、そんな暇はないのかな。
「先に裏庭で待ってろ。すぐ呼んでくる」
◆
「おっす! クロっち、もうオーラ覚醒したんだって? やるじゃんこのこの〜」
このやたらと距離が近い、黒髪ショートが良く似合うお姉さんは、Bランク冒険者のアリシャさん。
雑用係の時からよくしてくれて、ちょっと癖はあるけど面倒見のいい人だ。
手足は華奢なのに、胸にそびえる2つの山はそれはそれはご立派でございます。
いつも思うが、露出度が高すぎて目のやり場に困る。ほとんど布切れじゃないか! けしからん。
「なんて言うか、気付いたらって感じですね」
全く、今更ながら破剣ギルドは痴女ばかり。本当にここに入って良かった。
「ま、オーラなんてそんなもんだよ。 クロっち、系統もまだ分からないよね? オーラってのはさ、大きくわけて三つの系統があるんだ」
そう言うとアリシャさんは分かりやすく説明してくれた。
一つは強化系。
割合はこれが一番多く、汎用性は低いが身体能力の底上げ出来る近接タイプ。
純粋な身体強化や、武器等にもオーラを纏わせ、威力を上げる事が出来る。
この時、何故かは不明だが、アリシャさんは右メロンを持ち上げ、たゆんたゆんと揺らした。
もう一つは魔法系。文字通りオーラを体外に射出する中遠距離タイプ。
炎や水、それからバリアなど想像力次第でなんでも出来るが、燃費が悪くソロ攻略には不向き。
高火力な分扱いも難しく、一つの魔法に慣れるまで相応の時間を要する。
そしてこの時もやはり、左メロンは揺れている。
最後は特殊系。端的に言えばその他全部。
変身やら、念力やら、召喚なんて事も出来るらしい。個性的な能力も多く、独学になりがちとの事。
特殊系は両メロンを寄せてばいんばいん! 一緒に僕の脳も震えそうだ。
一体なぜ揺らしたり寄せたりしたのかは、よく分からない。痴女の思考を理解しようと言うのが、そもそも無謀だった。
補足で、昨日の僕みたいに、軽い身体強化だけならどの系統でも可能との事。
「と、言う訳だけど理解できた?」
「強化系が右のおっ〇いで、魔法系が左お〇ぱい! 特殊系は両方ですよね!」
「きゃーーー! クロっちのえっちー! へんたーい!」
わざとらしい甲高い声で、さっきまで見せびらかしてたメロンを隠すように腕を交差させてるアリシャさん。
……なんだか楽しそうだなこの人。
「……ノってあげたのに、なんで僕は変態呼ばわりされてるんですかね」
誠に遺憾である。
「はぁ、因みにアリシャさんはどれなんですか?」
呆れたようにそう言うと、彼女は待ってましたと言わんばかりのニヤケ顔で、
「ふっふっふ、聞いて驚け! 私は世にも珍しい――」
「まさか、特殊系?」
「違うよ?」
この人を小馬鹿にした顔が憎らしい。まんまと引っかかった自分が恥ずかしい。
ケタケタと笑うアリシャさんは、完全に僕をおちょくっている。
僕が眉間に皺を寄せていると「ごめんごめん」と軽く笑い、
「私はね、強化系と魔法系の二つなんだよ」
「二系統……?」
それは特殊系に該当するのでは? と思うけど本人が違うと言ってるから違うのだろう。
ヴォルフガングさんがアリシャさんを適任だと言っていたのは、多分これが理由だ。
特殊系はかなり珍しいみたいだし、大半は強化系か魔法系。そのどちらにも精通しているのがアリシャさんって訳だ。
しかし、なんていうか、それはちょっとずるい気がする。
でっかいおっぱ〇を前に、器が小さい僕の妬み嫉みは顔に出てしまう。それを見たアリシャさんは僕の額を、ちょん、と小突いた。
「ふふ、器が小さい男はモテないぞ〜。ま、お喋りはこれくらいして本題にうつろっか!」
「本題?」
「ほら、これにオーラを込めてみて!」
差し出されたのは魔水晶と呼ばれる半透明な石。確か、込められたオーラの属性によって色が変わるんだっけ。
赤なら強化系、青なら魔法系、その他の色は特殊系だった気がする。
さて、この水晶は何色に光ってくれるんだろう?
期待に胸を膨らませ水晶に手をかざしてみると――
「……あれ?」
全く光らない。いや、もう一度試してみよう。
「……んん?」
光る気配を微塵も感じない。僕はなにか間違てるのか?
「クロっち、ふざけてるの? 全然面白くないよ?」
くっ、なんて女だ。さっきまで茶番に付き合ってあげたのに、この言い草。
「早くオーラ込めなぁ?」
魔水晶を手に取り、必死に力を込める僕を覗こみながら、アリシャさんは煽るように言った。
「ふんぎいいいいい……!」
この痴女に煽られると腹が立つ。しかし、全神経を集中させ、魔水晶を砕くつもりで握っているのにピクリとも動かない。
そんな中、「ぶはっ」とアリシャさんが吹き出す。
「ぎゃははは! 顔おもろーっ! 必死すぎ! あはは、ひぃ、お腹痛いっ!あははははは、げほっごほっ! おえっ」
これ見よがしに足をばたつかせ、腹を抱え爆笑するアリシャさん。嗚咽ついでにそのまま窒息死してしまえばいいのに。
でも、なんでなにも反応がないんだろう。あの時のあれは、オーラじゃなかったのか……?
そんな不安が脳裏を過ぎる。そんな時アリシャさんはと言うと、
「げぇぇぇっほ、ぎゃは、ぎゃははははっ」
この始末である。
あーうるさいなこの人! いつまで笑ってるんだ。
おっさんみたいな下品な笑い方。せっかくの美人なのに、これで男関係は損をしてきたに違いない。
ざまあみろ!
「ひー……お腹痛い。笑った笑った」
「気が済んだようでなによりです……」
アリシャさんは涙の浮かんだ目を擦り、悪びれては……なさそうだ。
「ごめんごめん、そう怒るなよクロっち。君は頭が良いのに、まさか物理的に力を入れるとは思わなかったんだ」
物理的……?
つまり、身体に力を入れるとのは違うのか。ますます分からなくなってきた。
きょとんとした僕を見て、
「ふふ、可愛いなあクロっちは。安心しなよ、お姉さんがちゃぁんと、教えてあげ――ほ、本当だよ! 信じてよ!」
胡散臭いなぁ、なんて思っていると僕の思考はあっさりと見破られた。
「ええと、感覚的な事だから、あくまで私の感覚を教えるね。まず、目を瞑って心臓を意識してごらん」
急に真面目。こちらとしては最初からやって欲しいかったところだ。
「わかりました」
目を瞑って心臓……不思議な感じがする。いつも動いているのに鼓動に意識を向けてみると、それを鮮明に感じられる。
「次は心臓から流れる血。君の身体を絶えず巡る、その血だ」
四肢の末端まで血液が送り出され、また返ってくるのを感じる。
「そうしたら、その血を水晶に送り込む感覚……血はオーラだと思い込んでね」
血はオーラ、この血は僕の力。
ああ、ほんのり身体が暖かい。これか、これなんだ。
右手に触れる水晶に、この暖かさを送る感じでいいのかな。
「ふふ、飲み込み早いねクロっち。さあ、目を開けてごらん?」
口振りから察するに、ちゃんと出来ているみたい。何色かな? なんだか少し緊張する。
僕が恐る恐る目を開ると、
「あ――」
さっきまで半透明を貫いていた水晶は、ほんのり淡い赤色に変化していた。
「おめでとうクロっち、君は強化系のオーラだよ!」
アリシャさんは眩しい笑顔を見せ、「頑張ったね」と呟き、僕の頭をそっと撫でる。それは僕の成長を心から喜んでくれていると伝わるには、十分すぎた。
ずるいよね美人は。こんな顔見せられたら、さっきまでの事を水に流すしかないじゃないか。
「アリシャさん、ありがとうございます」
ああ、遂にちゃんとオーラを使えるようになった。それと同時に迷宮が脳裏を過ぎる。
すぐだ。今すぐ行こう。あの苛烈で甘美な世界に身を投じたい。出来ることならずっとあそこで――
「はぁ……クロっち、今すぐ迷宮に潜ろうとしてるでしょ」
呆れたようにため息をつくアリシャさん。彼女は何だかんだ察しがいい。
「えっ、と……ははは」
「駄目だよ。オーラだってまだ知覚出来ただけだし、大人しくお姉さんと修行に励め、少年」
提案は有難い。アリシャさんが教えてくれるなら、きっと知識や技術も身に付くだろう。
でも違う。そうじゃなくて、僕は――
「自覚なし、か」
彼女はやれやれと言った様子で呟く。そして僕の両肩に手を置き、今までないくらい真面目な顔付きで、
「君、迷宮病だよ? だから絶対に行かせない。それは最悪、力付くでも止めるって意味ね」
「迷宮、病――?」




