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雑用係の下克上~百年に一人の逸材……をぶん殴る為に冒険者になりましたけど、何か?~  作者: 吉良千尋


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5/12

5話 危険×快感


 初めて迷宮に行ってから三日後。僕はすっかり迷宮に魅了されていた。

 エリックのお守り付きとはいえ、1層はほぼ単独で踏破出来るまでになった。昨日から2層の攻略中だ。


 2層からはモンスターのバリエーションも増え、単調な攻略とはいかない。トラップの類もあり、1層はチュートリアルみたいな階層なのだろう。


 武器も色々試したけど、何となく双剣がしっくりきたので、とりあえずはそれをメイン武器にするつもりだ。防具は駆け出し冒険者用の物を借りている。


 ただ、僕はまだオーラの覚醒には至っていない。それだけが唯一、残念に思う。


 エリック曰く、覚醒は個人差がかなりあり、早ければ初日、遅い人だと数週間かかるなんて事もあるみたい。因みにエリックは7日程だったらしい。


 焦る必要はないと言っていたけれど、早く覚醒するに越したことはない。

 なので僕は昨日から、迷宮の帰りにウィズダムの図書館に篭もっている。覚醒への手掛かりがあるかもしれないから。


「うーん、この本にも明確な答えは載ってないや」


 入門書や迷宮辞典、冒険者の心得など様々な書物を手に取ってみたけれど、やはりどれも個人差や体質としか書かれていない。


「今日はもう諦めて帰ろうかな……」


 そう呟いた時、


「あら、卑しいエロ猿の癖に意外と勉強熱心なのね」


 聞き覚えのある鈴のような美しい声の毒舌。振り向かなくてもわかる。白いおぱんつのネリアさんだ。


「え、エロ猿!?」


 もしかしなくても、あの時えっちなガーターベルトをチラ見したのを根に持ってる。


 でもさ、僕は思うんだ。あれは男の子なら見ちゃうよ。見たくなくても勝手に目がいくんだもの。

 いや、僕は見たかったんだけど。


 なんて考えはお見通しなのか、氷のような視線を送り付けてくる。本当にすみませんでした。


「あ、あの時はありがとうございました」


 僕としては試験官を引き受けてくれた礼を言っただけなのだが、彼女の顔は引き攣っている。


「い、嫌味かしら。それで、熱心に何を調べていたの?」


 自分から刺されに行ったのを多分キモがられてる気がする。


「実は、オーラの覚醒について調べてました。毎日迷宮に行ってるんですけど……まだ使えなくって」


「ふーん……雑魚なりに懸命なのね。いい事だわ」


 多少強くなった実感はあるが、この人からしたら誤差。ネリアさんはほぼ人外だし、そう思うのも無理はない。


「少しでも早く、強くなりたいんです」


「……ああ、あの女たらしを殴りたいとか言ってたわね」


 女たらしとはラインハルト君の事だろうか。確かに彼のパーティは彼意外、全員美少女で構成されている。勿論、実力も折り紙付きだ。


 綺麗事ばかり言う癖に、そう言うパーティを作るところも僕は好きじゃない。


「はい! ネリアさんも彼が嫌いなんですか?」


 言ってから気がついたけど、逆にネリアさんは好意的な人が居るのかどうか。親族含め人類全て嫌っていても不思議ではない程、刺々しいからこの人。


「なんでそんな目をキラキラさせてるのかしらね……あの女たらし、私にギルドを移籍して自分のパーティに入れとかほざいていたのよ。うっかり玉無しにする所だったわ」


「……」


 この人は本当にやりそうで怖い。僕に向けてでは無いはずなのに、ブラブラしているアレがひゅっと上がった気がした。緊急脱出訓練だ。


 僕としては、ネリアさんがうっかりしてくれる日を願うばかりである。


 そんな恐ろしいことを平気で言うネリアさんは、軽く溜息をつき「今回だけよ」と念を押し、


「オーラの覚醒の条件は人それぞれだけれど……多分、あなたは今のやり方じゃ時間がかかるわね」


「えっ、ど、どういう事ですか?」


「試しに1人で行って来なさい。迷宮は勇敢な人間には寛大よ。そして、臆病者は決して歓迎されない。あそこは、そういう場所よ」


 まるで迷宮に意志があるような、そんなニュアンスだ。しかし、ふざけているようにも、嘘をついているようにも見えない。


「それってどういう――」


「助言はここまで。ま、雑魚なりに足掻いてごらんなさい」


 僕の言葉を遮り、それだけ言うとネリアさんは去ってしまった。相変わらずの毒舌だけど、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。


「臆病者は歓迎されない、か」



 ◆



 と言う訳で、初めて迷宮に1人で来てしまいました。

 まさかその日に出戻るとは思わなかった。

 でも、ネリアさんの助言を聞いたらいても立ってもいられなくって。


 いつもは早朝から夕方にかけてだけど、今はもう夜も遅い。帰りの冒険者達とすれ違う事も多い。


「それじゃ、行ってみよう」


 いつもはエリックが居てくれるけど、今は1人だ。同じ場所なのに、それだけで感覚が違う。

 孤独感、とでも言えばいいのか。まだ1層なのに、心臓がやたらとうるさい。


 いつも以上に慎重に。エリックは何時いかなる時も油断するなと口酸っぱく言っていた。メインは1層にして、2層は顔を出すくらいにしておこうかな。


 進んでいくと早速、ゴブリン先輩が3匹群れているのが見えた。

 まずは奇襲の利を取る為、岩の影に身を潜める。


「珍しいな……あれは、弓の……つもりなのかな」


 こん棒持ちが2匹と、もう1匹は多分弓。後衛だ。

 ただ弓と言うにはお粗末極まりなく、木の棒に弦が張ってあるだけだ。


 あれでは狙いも定まらないだろうし、威力もかなり低い。


「まずは前衛を確実に殺そう」


 3匹の視線が完全に後ろを向いたタイミングを見計らい駆け出す。格下相手には勢いが大事。これは油断とは違う。


 走った勢いでそのまま跳躍し、前衛の1人に飛び蹴りをプレゼント。狙い通り、後衛に突っ込んでくれた。


「げぎゃ!?」


 もう1匹が反応したと同時に、逆手に持った左の剣を思い切り頭部に突き刺す。確かな手応え。


 派手に転んだ前衛ゴブリンを踏みつけ、そのまま弓ゴブリンの首筋を斬り裂く。鮮血が舞うが気にしている場合ではない。


 踏みつけられたゴブリンは、逃れようと必死に足掻いている。僕はその無防備な背中に剣を突き立て、無事戦闘を終えた。


「……僕こんなに動けたっけ。あ、魔石忘れるところだった。危ない危ない」


 魔石を回収しないと生活出来ない。回収はちゃんと癖付けとかないと。


 結局、それから数時間くらいは1層でゴブリン狩りを行った。

 1層はもう1人でも大丈夫かな? あれこれ本を読んでいる内に知識も身についたし、戦闘にもだいぶ慣れてきた。


 それ所か、戦いを経てどんどん身体が軽くなっていくのを感じる。


「オーラの予兆? そうだといいな。よし、少しだけ2層に行ってみよう」




 2層は1層とほとんど変わらない仄暗い洞窟。ただここからはゴブリン以外のモンスターもいるし、ゴブリンも少し強くなっている。


「危なくなったら引き返そ……あ、ホーンラビット」


 早速2層のモンスターのお出ましだ。

 ただこいつは昨日既に倒している。動きこそ素早いけど攻撃は直線的で、避けるのは容易い。


 普通のウサギに角が生え、凶暴になったってだけだ。


 対処はゴブリンよりもずっと簡単。僕目掛けて飛んでくるその位置に、タイミングを合わせて剣を振るえば、後は勝手に両断されてくれる。


「よっ、と」


 難なく撃破した。うん、良い調子だ。


 その後もどんどんモンスターを倒していき、2層の攻略は順調過ぎるくらい順調に進んでいる。


 やっぱり気の所為なんかじゃない。戦えば戦うほど身体が軽くなってる。

 それを実感すると気分が高揚する。


 危険と分かっているのに、視界の先にいるゴブリンの群れに、情景にも似た感情を抱いているくらいだ。


 数は十数匹、まるで負ける気がしない。

 僕は嬉々として死地に突っ込む。多分口角が上がっている。


「げぎゃぎゃ!」


 そうだ、僕はここだ。さあ、来いよ。


 迫るナタや弓、なんて遅いんだろう。いや違う、僕が視え過ぎてるんだ。

 身体の感覚が冴え渡ってる。最高のタイミングで、完璧に四肢を操れる。


 まるで俯瞰で操作しているように、思い描いた通りに動ける。


 まずは一匹、右の剣を投擲し脳天直撃。そこに飛びかかり、引き抜きながら旋回。はは、もう二匹殺した。


 左右から矢が二本、いやこれは当たらない。バックステップで矢とほぼ同時に迫るナタを躱し、がら空きの首に一閃。

 当然他のゴブリン達も襲いかかる。駄目だよ突進なんて、それじゃ丁度いい踏み台だ。


 右膝を限界まで上げ、後頭部を踏みつける。そのまま群れのど真ん中目掛けて飛び込んだ。呆気に取られている隙に、旋回しながら双剣を振るう。


次々とモンスターが霧散していく。


 頬を槍が掠めた。大丈夫、視えてる。その槍を掴み、引き込みながら、右の切っ先を突き出す。


 完璧! こんな動きも出来るんだ。


「はは、やっばい。この快感、癖になりそう」


 多分、脳内麻薬全快だ。

 今だけはラインハルト君も、オーラの覚醒もどうでもいい。ただこの、刺激的な命のやり取りに没頭したい。


 気を抜けばすぐ死ぬ。このスリルが堪らなく楽しい。

 今まで僕は何をしていたんだろう。何でこんなにも楽しい事に手を出さず、惰性に生きてきたのか。


 これが生きてるって事なのか。


「――やばい。帰りたくない。もっと……もっと戦いたい」


 返り血に塗れて(まみれて)嗤う僕は、はたから見たらやばい奴に見えるかな? 見えるだろうなぁ。



 結局この日は衝動に身を任せ、倒れる寸前まで戦いに身を投じた。



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