5話 危険×快感
初めて迷宮に行ってから三日後。僕はすっかり迷宮に魅了されていた。
エリックのお守り付きとはいえ、1層はほぼ単独で踏破出来るまでになった。昨日から2層の攻略中だ。
2層からはモンスターのバリエーションも増え、単調な攻略とはいかない。トラップの類もあり、1層はチュートリアルみたいな階層なのだろう。
武器も色々試したけど、何となく双剣がしっくりきたので、とりあえずはそれをメイン武器にするつもりだ。防具は駆け出し冒険者用の物を借りている。
ただ、僕はまだオーラの覚醒には至っていない。それだけが唯一、残念に思う。
エリック曰く、覚醒は個人差がかなりあり、早ければ初日、遅い人だと数週間かかるなんて事もあるみたい。因みにエリックは7日程だったらしい。
焦る必要はないと言っていたけれど、早く覚醒するに越したことはない。
なので僕は昨日から、迷宮の帰りにウィズダムの図書館に篭もっている。覚醒への手掛かりがあるかもしれないから。
「うーん、この本にも明確な答えは載ってないや」
入門書や迷宮辞典、冒険者の心得など様々な書物を手に取ってみたけれど、やはりどれも個人差や体質としか書かれていない。
「今日はもう諦めて帰ろうかな……」
そう呟いた時、
「あら、卑しいエロ猿の癖に意外と勉強熱心なのね」
聞き覚えのある鈴のような美しい声の毒舌。振り向かなくてもわかる。白いおぱんつのネリアさんだ。
「え、エロ猿!?」
もしかしなくても、あの時えっちなガーターベルトをチラ見したのを根に持ってる。
でもさ、僕は思うんだ。あれは男の子なら見ちゃうよ。見たくなくても勝手に目がいくんだもの。
いや、僕は見たかったんだけど。
なんて考えはお見通しなのか、氷のような視線を送り付けてくる。本当にすみませんでした。
「あ、あの時はありがとうございました」
僕としては試験官を引き受けてくれた礼を言っただけなのだが、彼女の顔は引き攣っている。
「い、嫌味かしら。それで、熱心に何を調べていたの?」
自分から刺されに行ったのを多分キモがられてる気がする。
「実は、オーラの覚醒について調べてました。毎日迷宮に行ってるんですけど……まだ使えなくって」
「ふーん……雑魚なりに懸命なのね。いい事だわ」
多少強くなった実感はあるが、この人からしたら誤差。ネリアさんはほぼ人外だし、そう思うのも無理はない。
「少しでも早く、強くなりたいんです」
「……ああ、あの女たらしを殴りたいとか言ってたわね」
女たらしとはラインハルト君の事だろうか。確かに彼のパーティは彼意外、全員美少女で構成されている。勿論、実力も折り紙付きだ。
綺麗事ばかり言う癖に、そう言うパーティを作るところも僕は好きじゃない。
「はい! ネリアさんも彼が嫌いなんですか?」
言ってから気がついたけど、逆にネリアさんは好意的な人が居るのかどうか。親族含め人類全て嫌っていても不思議ではない程、刺々しいからこの人。
「なんでそんな目をキラキラさせてるのかしらね……あの女たらし、私にギルドを移籍して自分のパーティに入れとかほざいていたのよ。うっかり玉無しにする所だったわ」
「……」
この人は本当にやりそうで怖い。僕に向けてでは無いはずなのに、ブラブラしているアレがひゅっと上がった気がした。緊急脱出訓練だ。
僕としては、ネリアさんがうっかりしてくれる日を願うばかりである。
そんな恐ろしいことを平気で言うネリアさんは、軽く溜息をつき「今回だけよ」と念を押し、
「オーラの覚醒の条件は人それぞれだけれど……多分、あなたは今のやり方じゃ時間がかかるわね」
「えっ、ど、どういう事ですか?」
「試しに1人で行って来なさい。迷宮は勇敢な人間には寛大よ。そして、臆病者は決して歓迎されない。あそこは、そういう場所よ」
まるで迷宮に意志があるような、そんなニュアンスだ。しかし、ふざけているようにも、嘘をついているようにも見えない。
「それってどういう――」
「助言はここまで。ま、雑魚なりに足掻いてごらんなさい」
僕の言葉を遮り、それだけ言うとネリアさんは去ってしまった。相変わらずの毒舌だけど、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。
「臆病者は歓迎されない、か」
◆
と言う訳で、初めて迷宮に1人で来てしまいました。
まさかその日に出戻るとは思わなかった。
でも、ネリアさんの助言を聞いたらいても立ってもいられなくって。
いつもは早朝から夕方にかけてだけど、今はもう夜も遅い。帰りの冒険者達とすれ違う事も多い。
「それじゃ、行ってみよう」
いつもはエリックが居てくれるけど、今は1人だ。同じ場所なのに、それだけで感覚が違う。
孤独感、とでも言えばいいのか。まだ1層なのに、心臓がやたらとうるさい。
いつも以上に慎重に。エリックは何時いかなる時も油断するなと口酸っぱく言っていた。メインは1層にして、2層は顔を出すくらいにしておこうかな。
進んでいくと早速、ゴブリン先輩が3匹群れているのが見えた。
まずは奇襲の利を取る為、岩の影に身を潜める。
「珍しいな……あれは、弓の……つもりなのかな」
こん棒持ちが2匹と、もう1匹は多分弓。後衛だ。
ただ弓と言うにはお粗末極まりなく、木の棒に弦が張ってあるだけだ。
あれでは狙いも定まらないだろうし、威力もかなり低い。
「まずは前衛を確実に殺そう」
3匹の視線が完全に後ろを向いたタイミングを見計らい駆け出す。格下相手には勢いが大事。これは油断とは違う。
走った勢いでそのまま跳躍し、前衛の1人に飛び蹴りをプレゼント。狙い通り、後衛に突っ込んでくれた。
「げぎゃ!?」
もう1匹が反応したと同時に、逆手に持った左の剣を思い切り頭部に突き刺す。確かな手応え。
派手に転んだ前衛ゴブリンを踏みつけ、そのまま弓ゴブリンの首筋を斬り裂く。鮮血が舞うが気にしている場合ではない。
踏みつけられたゴブリンは、逃れようと必死に足掻いている。僕はその無防備な背中に剣を突き立て、無事戦闘を終えた。
「……僕こんなに動けたっけ。あ、魔石忘れるところだった。危ない危ない」
魔石を回収しないと生活出来ない。回収はちゃんと癖付けとかないと。
結局、それから数時間くらいは1層でゴブリン狩りを行った。
1層はもう1人でも大丈夫かな? あれこれ本を読んでいる内に知識も身についたし、戦闘にもだいぶ慣れてきた。
それ所か、戦いを経てどんどん身体が軽くなっていくのを感じる。
「オーラの予兆? そうだといいな。よし、少しだけ2層に行ってみよう」
2層は1層とほとんど変わらない仄暗い洞窟。ただここからはゴブリン以外のモンスターもいるし、ゴブリンも少し強くなっている。
「危なくなったら引き返そ……あ、ホーンラビット」
早速2層のモンスターのお出ましだ。
ただこいつは昨日既に倒している。動きこそ素早いけど攻撃は直線的で、避けるのは容易い。
普通のウサギに角が生え、凶暴になったってだけだ。
対処はゴブリンよりもずっと簡単。僕目掛けて飛んでくるその位置に、タイミングを合わせて剣を振るえば、後は勝手に両断されてくれる。
「よっ、と」
難なく撃破した。うん、良い調子だ。
その後もどんどんモンスターを倒していき、2層の攻略は順調過ぎるくらい順調に進んでいる。
やっぱり気の所為なんかじゃない。戦えば戦うほど身体が軽くなってる。
それを実感すると気分が高揚する。
危険と分かっているのに、視界の先にいるゴブリンの群れに、情景にも似た感情を抱いているくらいだ。
数は十数匹、まるで負ける気がしない。
僕は嬉々として死地に突っ込む。多分口角が上がっている。
「げぎゃぎゃ!」
そうだ、僕はここだ。さあ、来いよ。
迫るナタや弓、なんて遅いんだろう。いや違う、僕が視え過ぎてるんだ。
身体の感覚が冴え渡ってる。最高のタイミングで、完璧に四肢を操れる。
まるで俯瞰で操作しているように、思い描いた通りに動ける。
まずは一匹、右の剣を投擲し脳天直撃。そこに飛びかかり、引き抜きながら旋回。はは、もう二匹殺した。
左右から矢が二本、いやこれは当たらない。バックステップで矢とほぼ同時に迫るナタを躱し、がら空きの首に一閃。
当然他のゴブリン達も襲いかかる。駄目だよ突進なんて、それじゃ丁度いい踏み台だ。
右膝を限界まで上げ、後頭部を踏みつける。そのまま群れのど真ん中目掛けて飛び込んだ。呆気に取られている隙に、旋回しながら双剣を振るう。
次々とモンスターが霧散していく。
頬を槍が掠めた。大丈夫、視えてる。その槍を掴み、引き込みながら、右の切っ先を突き出す。
完璧! こんな動きも出来るんだ。
「はは、やっばい。この快感、癖になりそう」
多分、脳内麻薬全快だ。
今だけはラインハルト君も、オーラの覚醒もどうでもいい。ただこの、刺激的な命のやり取りに没頭したい。
気を抜けばすぐ死ぬ。このスリルが堪らなく楽しい。
今まで僕は何をしていたんだろう。何でこんなにも楽しい事に手を出さず、惰性に生きてきたのか。
これが生きてるって事なのか。
「――やばい。帰りたくない。もっと……もっと戦いたい」
返り血に塗れて嗤う僕は、はたから見たらやばい奴に見えるかな? 見えるだろうなぁ。
結局この日は衝動に身を任せ、倒れる寸前まで戦いに身を投じた。
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