22話 九死に一生
モンスターの悲鳴や呻き声が絶えず響いている。
それもそのはず、僕の周囲は死にかけのモンスター達が沢山いる。
エリックから殺さずに動きを止めるように言われた。なんでもこの怪物楽園は一定数を保つらしく、殺しても意味無いらしい。
ずっと殺しまくってたのに数が減らない理由はそれだったみたいだ。
殺さないように脚中心に斬りつけ、しばらくすると目に見えて包囲の数が減っているのがわかる。
エリックは凄いな。こんな状況で、ちゃんと思考して最適解を導き出したんだ。僕なんか全員ぶっ殺せばいいや位にしか思ってなかったのになぁ。
これが経験の差ってやつなのかな。やっぱりエリックは頼りになる。
アムさんの援護も凄いし、冒険者ってただ強いだけじゃだめなんだ。僕なんかまだまだなんだなぁ。
だからこんな所で終わらせたりなんかしない。
三人でしばらくの間、動きを封じる事に専念しているとかなり動きやすくなっていることに気が付いた。
これならこの部屋を脱出出来そうだ。
「出口はあっちか。急がない――くそ、もう時間切れなのか」
周囲のモンスターを片付け、出口に向かおうとすると急に全身の力が抜け、僕はその場で膝を突いた。
纏装の時間切れ。副作用だ。
せめてあと数秒でも持ってくれれば、脱出出来たのに。
身体が重い。頭が痛い。それに視界もボヤけてる。
――眠たい。
「く……あと少し、なのに」
気を抜くと瞼が落ちてきそうだ。モンスターはほとんど動けないとはいえ、倒れながらもにじり寄っている。この場で気を失ったら多分死ぬ。
頼むから動いてくれ。頑張れよ僕。
よろめきながら一歩踏み出す。が、それがとんでもなくしんどい。出来ることなら今すぐ目を閉じて眠りたい。膝が言うことをきかない。
副作用には抗えず、僕の身体は意志とは別に、重力を受け入れ身体が地面はと向かう。
「えっ」
倒れる直前になって、それは阻止された。
「寝るのはもう少し後にとっとけよ?」
エリックはニヤリと笑いそう言うと、そのまま僕を担いで走り出した。
「無茶しないでって言ったのに……でも、そのおかげで何とかなっちゃったから、強く言えないのよね」
すぐ後ろにはアムさんもいる。二人とも傷だらけだけど、無事でよかった。
「あ……ありがとう。ごめん、もう少し粘れるかと思ったんだけど、ちょっと動けそうにないや」
「任せろよ。お前のおかげで出口まで走り抜けれそうだ」
それからエリックは動けない僕を担いだまま走り、なんとか出口に辿り着くことができた。
幸いな事にモンスター達はあの部屋から出てこない。出てこないのか、出れないのかはわからないけど、おかげで一息つくことができる。
部屋を抜け、少し行ったところでエリックは僕を降ろしてくれた。
「ま、まさか生きてあそこを抜けれるのは思わなかったぜ」
「私も、今だから言うけど絶対無理だと思ったわ」
「え、二人ともそうだったの? 僕は何とかなるかなって思ってたけど」
というか、なんとかしなきゃって。
それを聞くと二人は呆れたように笑った。
「行くしかなかったんだが、あそこを三人で何とかってのは正気の沙汰じゃねぇな」
「ふふ、私の人生で一番無茶したわ」
「あの、こんな時に申し訳ないんだけど……少し眠ってもいいかな。ちょっと起きてられそうにないんだよね」
副作用もだけど、死地を抜けてほっとしたのもあるのかな。この睡魔には抗えそうにない。
まだ迷宮で、ここはセーブポイントでもないのに眠るなんて、本当はかなり危険だ。
「ああ、いいぜ。てか俺らももう限界だ。俺が見張ってるから、順番に仮眠をとろう」
「それじゃお言葉に甘えて私も少し休むわ」
「ありがとうエリック。少ししたら起こしてね。エリックも休まないと倒れちゃうから」
「おう、その時は頼むぜ」
そう言うとエリックはそこら辺にある燃えそうなものを集めて、休む僕らの近くに火を起こしてくれた。
暖かい。ゴツゴツした地面で寝心地は悪いけど、火があるだけで全然違う。
まだ迷宮から抜けた訳じゃないんだ。少しでも休んで備えないと。
そんなことを思いながら目を瞑ると、僕はすぐに意識を手放した。
「あ……」
やばい、寝すぎた。目を覚ますと身体の回復具合でわかる。割と快調。つまりそれなりに休んだって事。
ここは迷宮で、エリックとアムさんだって休みたいはずなのに。
目を開ける前に半分覚醒した意識でぐるぐると考え出すと、焦燥感が襲ってくる。
「おはよう。少しは休めた?」
目を開けるとやや疲れた顔のアムさんがいた。
「ご、ごめん。多分、僕結構寝ちゃったんじゃ……」
多分というか確実にそう。こんな時だって言うのに、惰眠を貪りすぎた気がしてならない。
「クロノが一番頑張ったんだから長く休んで当然よ?」
なんて真顔で言うもんだから、言い返しにくい。僕なりに頑張ったつもりだけど、二人だってそれは同じだ。
この優しさはありがたく受け入れて、二人を休ませる事で返そう。
「そうかな、ありがとう。今度は僕が見張りをするから、アムさんも休んでね」
そう言うとアムさんは頷き横になった。
エリックはよほど疲れているのか、死んだように眠っている。
なんだか、本当に怪物楽園を抜けたのか疑いたくなるほど、終わってみればあっけない。
この場所は静かで、あれだけやかましかった雄叫びも聞こえない。
僕らはちゃんと生きている。偶然ではあるけど、それでも奈落の底に落ちた蜘蛛の糸を辿れたんだ。
でも、その糸は途中までしか繋がっていない。
怪物楽園を抜けたとはいえここはまだ迷宮であり、僕にとっては未知な十四層。
転がってる小瓶を見るに二人もポーションを飲んだみたいだし、状況がいいとは言えない。
「……」
寝息を聞きながらあれこれ考えていると、ふとある事に気が付いた。
エリックはこの階層に来たことがあるけれど、アムさんと僕は初めて。そのエリックも十四層は恐らく一度きりで、随分前の事だしあまり覚えていないはず。
僕らは正規ルートで潜ってきた訳じゃない。トラップにかかり、落ちたんだ。
つまり、多分だけど……誰一人としてここが何処で、何処が正規ルートに繋がるか把握していない。
まだ分かれ道はないけど、極端な話、片方は上にもう片方はさらに下の階層に繋がることになる。
確率は50パーセント。下の階層に行かなければいいと言う単純な話ではあるのだが、体力や物資に限りがあるので、出来れば間違わない方がいい。
「というか、間違ったら多分……厳しいよなぁ」
回復したとはいえ、万全には程遠い。ここから上層まではかなりの距離があるはずだし、道草を食ってる余裕なんてない。
十三層への道に辿り着くか、十五層に辿り着くか。
ただ、十五層を超えれば生存率は大きく跳ね上がる。その先の十六層は安全地帯であり、モンスターが出現しない特殊な階層だからだ。
「十六層……ありっちゃありなのかな? いや、でも……十五層が問題しかないんだよなぁ」
十五層は通常の階層じゃない。階層主がいる場所だから。




