19話 臆病者は歓迎されない
すみません1話飛ばしてしまいました。
前の話が飛んでいたのでお時間あれば見ていただけると、謎展開がスッキリするかと思います
「だめね。あそこを抜けるしかないみたい」
深く落ち、何階層かも分からない。
それでも良いことは一つあり、僕らは小さな小部屋に落下した事。ここはモンスターが居らず、出入口も一つだけ。守りやすい形状だ。
「す、すまない。俺のせいで……また俺は」
エリックは俯きながら呟く。トラウマを再現してしまい、精神的にかなり参っているのかさっきからずっとこの調子だ。それに顔色も悪い。
「仕方ないよ。今はどうやって上に戻るかを考えよう」
それが問題だ。良いことが一つある代わりに悪い事も一つ。
この小部屋の出入口に繋がるのは、怪物楽園である事。
小部屋から奥に繋がる大きい空間には、大勢モンスター達が蔓延っていた。
オーガやミノタウロスが互いに威嚇しあっている。
ミノタウロスがいるということは、最低でも十四層。最悪、十八層という事になる。
ただ十五層には階層主が居るし、それ以降の階層とは考えにくい。
結局、十四層から上層を目指すしかないんだけど、怪物楽園のせいでそれもかなり難しい。
エリックもあんなだしなぁ。
「エリック、傷を抉るようで悪いんだけど、前回はどうやって十一層まだ行ったの?」
「あぁ……前は落ちた所がまだ良かったんだ。少なくとも怪物楽園には繋がってなかった」
つまり、前よりも状況が悪い。
纏装を使えば怪物楽園もどうにか出来るかもしれないけど、それで終わりじゃない。中層はまだまだつづいてる。
「怪物楽園のせいで救助は望めないし、私達三人でどうにか突破するしかないわね」
ため息をつきながらアムさんが言う。
「そうだね。この部屋にモンスターが入ってこないならまだ可能性はあるけど……」
そんな保証はどこにもない。例え入ってこなかったとて、殲滅出来るかどうか。
その後もあーでもないこーでもないと議論を続け、時間だけが過ぎていく。
時間は僕らの味方じゃない。浪費すればする程、食料が乏しくなってくる。
怪物楽園をどうにかしないといけない。これは確定事項だ。
結局、打開策という打開策はでないまま、僕らは沈黙を続けた。それを破ったのはエリックだった。
エリックは立ち上がり、神妙な面持ちで、
「俺が……何とかしてモンスターの注意を引く。だからその隙にお前らだけでも――」
「逃げろなんて言わせないわ」
続きを遮ったアムさんは呆れた顔でため息をついた。
「どの道あれを一人でなんて無理なのはエリックもわかってるでしょ? あなたはただ、責任に潰されて死のうとしてるだけ。そんなの、私達が許すとでも思ってるの?」
「ち、違う! 俺は――」
また始まる。もう何度似たような話を聞いたろうか。
面倒臭いからもういいや。
僕は二人が話しているのを無視して、立ち上がり出入口に向かい歩き始めた。
「ちょっ、クロノ!」
「お、おいクロノどこ行く気だ! 馬鹿なことはやめろ!」
「どこって、そんなの怪物楽園に決まってるじゃん。ごちゃごちゃ考えたってやる事は一つしかないんだし、餓死するよりはマシでしょ? それに、考えてみれば案外単純だと思うんだよね」
空腹が酷くなる前に、万全の今、あそこに突っ込む方がまだマシだ。
それにもう後のことはいいや。今のこの場を切り抜ける。
それだけ、ただそれだけに集中する。
「た、単純?」
「うん。殺られる前に殺ればいい。アムさん、エリック、援護は頼んだよ」
「はぁぁぁ……止めても聞かないんでしょ? あなた案外強情だもんね」
意外にもすんなり受け入れたのはアムさんだった。またギャーギャー騒ぐかな、なんて思っていたけどそれしかないって理解しているのだろう。
エリックは不服そうに押し黙っている。でも説得する必要はない。僕が行けば二人も来るしかないから。
ああ、ようやくあそこに行ける。
そっと広間を覗いて見ると、とんでもない数のモンスターがいる。多分、百は超えてるんじゃないかな。
全滅させる必要はない。先に進む通路にさえ行ければ、後は逃げるだけだ。
「あ、丁度対角の位置に通路っぽいのが見えるね」
「最悪ね、一番遠いじゃない」
その通りで距離にしてみると一番遠い。まぁでも、正直どこにあろうが危険度はあまり変わらないんじゃないかって思う。
大丈夫。アムさんから貰った防具もあるし、アンドレイさんの武器もある。僕だって少しは強くなってるし、エリックもアムさんもいるんだ。
「前衛は僕がやるね。アムさんは援護をお願い、エリックはアムさんを守るように動いてくれれば、多分逃げ切れると思う」
「ああ、わかった」
不安しかない。エリックは未だ落ちた事を引きづってる。責めたくはないし、気持ちもわかるけど、どうしても苛立ってしまう。
「エリック、本当に気にしないでね。だから頼むよ。じゃあ、行くよ!」
懇願するように言い残して、僕は駆け出した。怪物楽園へと一歩足を踏み入れた瞬間、無数の視線が集中するのを感じる。
直後、部屋全体に轟く雄叫び。まるで侵入者だ、と言っているような気がした。
纏装は温存しようなんて思ってたけど、これは素じゃ無理かも。入った瞬間から重圧が半端じゃない。
出来る所までやって、危なかったら纏装を使おう。
正面からオーガの拳、左右からは剣やら斧やら。
跳躍して回避する。全ての視線は僕に釘付けだ。
「今だよ」
チラと二人に目をやると、頷きで返してくれた。
着地と同時に目の前のオーガを切り伏せる。右から斧が迫るが、その腕を矢が貫いた。
アムさんは本当にいい腕をしてる。
しかし、思ったよりも厄介だな。一撃で死んでくれないのは仕方ないとはいえ、こいつら微妙に距離をとるせいで双剣が届きにくい。
ここら辺の戦闘スキルもやっぱり上層とはまるで違う。上層は基本無闇に突っ込んでくれるから対処しやすかったのにな。
「じゃあ僕が行けばいいね」
来ないならこっちから詰める。虚をつかれたリザードマンは一瞬反応が遅れ、次の瞬間には眉間を刃が貫いている。
それを引き抜き旋回。突進してくるミノタウロスを切りつける。が、さすがは十四層から出るモンスター。それなりに深く斬り込んだのに怯みもしない。
密集しているせいで上手く回避が出来ず、腕をクロスしてそれを受けたが、
「ぐっ!!」
圧倒的質量のそれを受け止めきれるはずもなく、吹っ飛ばされる。
しかし、変異種に比べれば衝撃はまだ軽い。それに、この防具はかなり性能がいいのか、僕の身体に痛みはあまりない。
モンスターの壁に叩き付けられるが、即座に体制を整えた。そうじゃないとこの無数の殺意からは逃れられない。
きっと一瞬の迷いが命取りになる。
最善じゃなくても止まらずに動き続けるんだ。止まったら、その瞬間被弾する。
全く、僕の迷宮探索はこんなんばっかりだ。
初日は何度も死にかけ、それから一人で行ったらオーガ変異種に出くわし、間を開けずにトラップに怪物楽園だって?
「だから好きなんだよね迷宮ここは」
ようやく気分が乗ってきた。ここからはガンガン行こう!
目的だけは忘れないようにしないと。殲滅じゃなくて突破。でもこれだけの数がいると、突破と殲滅はイコールに近くなってきちゃうな。
まぁ何をするにしても一つだけ懸念点があるとすれば、
「エリックの動きがよくない」
悪いとまでは行かなくとも、普段のような感じじゃない。いつもは痒い所に手が届くというか、気の利く立ち回りをしてくれてたのにな。
固いって言えばいいのか、鈍いと言えばいいのか。
まだ二人とも大きな傷はないけれど、危うくなってる気がする。
だからといって僕がそっちに行けば危険度はより高くなるし、参ったな。
いや、今は自分の事に集中しよう。とてもじゃないけど前衛一人突っ込みながら周りのフォローまでは無理。
「ふぅ……それじゃあ改めて、始めようか」




