18話 再開、そして奈落へ
「クロノ! まだ行けるか!」
「うん、まだ平気だよ」
とは言ったものの、少し驚いている。
エリックが言っていたように上層とは別次元だ。モンスターの強さや狡猾さもだけど、それ以上に厄介なのはこの数。
一度囲まれてしまうと対処している間にどんどんモンスターが集まってくる。
後ろのリザードマン達は僕が、前のシルバーウルフ達はエリック。僕らは互いの背を守りながら戦っている。
いい感じのピンチ。これなら、そろそろいいかもしれない。
「うふふ」
エリックには反対されたけど、ここまで温存したかいがあった。
僕は手に持つ双剣の他に、腰にも二本の双剣を差している。
これはアンドレイさんに打ってもらった品で、まだ試し斬りもしていない。
『な、なんで目を瞑ってんだ』
鍛冶屋プロメテウスで僕はぎゅっと目を瞑っていた。声色から察するにアンドレイさんは呆れているのか、引いているかの二択。
『は、早くそれをしまってください。使う時まで見たくないです』
『なんじゃそりゃ……坊主、中々の変人だな。ったく、ほらよ。目を開けていいぜ』
うっすらと目を開けると、双剣は装飾の施された立派な鞘に納刀されていた。
『見ないって事は、試し斬りもしなくていいのか? 物は間違いねぇが、馴染ませた方がいいぞ?』
試し斬り用の薪を前にアンドレイさんは呆れたように言った。
『八十万ですから薪や雑魚なんかに初めてはあげません!』
『……坊主がいいならいいけどよ』
八十万を強調させると、アンドレイさんは引き攣った顔でそう言った。
本来試し斬りや上層の雑魚で慣らした方がいいのは承知の上だ。
強敵までとは言わないが、せめて中層までは取っておきたい。
『ちゃんと使えよ? んで、またいい素材を持ってこい。坊主にゃお得意様になってもらわんとな!』
ガハハと笑っているが、ようは金を落とせと。
疑ってはいないけど、それは武器次第だ。
そしてとうとう、それを確認する時が来た。
名店の鍛冶師が太鼓判を押すくらいだ。楽しみで仕方ない。
量産品の双剣を戻し、その双剣を引き抜く。
「わあ」
片方は少し長めで刀身は光をも拒絶する漆黒の剣。
もう片方はそれより短めで、鮮やかで美しい真紅の剣。
こんな時だと言うのにテンションが上がってしまう。
「お待たせ。ようやく試し斬りだ」
とはいえ、流石に中層でオーラを使わないのは舐めプすぎる。
身体と剣にオーラを纏わせ、リザードマンの群れに向かって突っ込む。
一、二、三……八体か。結構多いな。それにリザードマンは全員武装している。
距離を詰める僕に、左右から長剣、正面から槍が同時に迫る。
上は無理、なら下に。滑り込む様にリザードマンの攻撃を掻い潜り、脚を斬りつける。
「うはっ、凄い斬れ味」
軽く撫でたつもりが、硬い鱗を切り裂き浅くない傷をつけた。
そのまま旋回し剣を振るい、リザードマンを蹴りつけ跳躍。
その際に一体の首を刎ね、確実に数を減らす。
一瞬エリックの方を見ると、剣に炎を纏わせ、動きの速いシルバーウルフを上手く牽制している。
距離が離れれば炎弾を飛ばし、近寄れば焼き切る。心配する必要はなさそうだ。
僕の方もまだ余裕がある。
リザードマンは鱗による防御性能が面倒なモンスターだけど、この双剣の前ではないも同然。
本当に、とんでもない斬れ味だ。
奥の方からもわらわらとモンスターが群がって来るのが見える。
あまり時間をかけるのは良くない。
僕は双剣を強く握り、脚にオーラを多めに纏わせ速度を上げる。
急に速度が上がり虚をつかれたリザードマンを殺し切るのは、そう難しい事じゃない。
首を斬り、胸を突き刺し、次々と撃破していく。
と、視界の揺らぎ。
「視えてるよ」
どさくさに紛れてシャドウハンターが狙っていたが、数度見れば対応出来る。
違和感のある場所を斬りつけ、僕の方は状況終了。
エリックは、
「さすが」
ほぼ同じタイミングで殲滅していた。
さっきの話を聞いた後だから少し不安はあったけど、中層は僕より慣れている。この程度では流石に問題にはならなかった。
「まだ来るぞ!」
「大丈――ん?」
第二波が近付いて来るのは確認済み。なんだけど、その先頭に見覚えのある明るい赤い髪。
「おい、あれってもしかしなくても」
エリックも気がついたみたいだ。
「うん、アムさんだね」
あの人、毎回何にかから逃げてるの? 無視するつもりは毛頭ないけれど、なんだかトラブルメーカーな気がしてならない。
僕みたいな駆け出しが言うのもあれだが、よく今まで生きてこれたなぁ。
なんて思っていると、どうやらただ逃げているだけではないらしい。
タイミングを見計らい、振り向き、矢を放っている。
走りながらで中々難しいはずなのに、すばしっこいシルバーウルフの眉間を貫いた。
弓士としての腕はかなり高いのかな。他の人を知らないからわからないけど、あれは一朝一夕で出来るとは思えない。
そろそろ僕らに気が付くかな。
手でもふっておこう。
エリックと一緒になってアムさんに手を振っていると、ようやく僕らに気が付いたらしい。
何か叫んでいるに気がするけど、あまりよく聞こえない。
「行く?」
「あー……そうだな。放っといても倒し切りそうだが、俺らでやっちまった方が早いだろ」
「うん、じゃあそうしよう」
防具のお礼もあるしね。
二人同時に駆け出すと、僕らの動きを見ていたアムさんはすれ違いざまに「ありがと! 合わせるわ」と言ってくれた。
乱戦の中、アムさんは僕らと共闘するのが初めてにも関わらず、長年共にしたパーティの如く、的確に矢を放ってくれた。
そうなると殲滅するのは容易く、危なげない勝利を手にした。
「ふぅ、また助けられちゃったわね。二人ともありがとう」
「いえ、援護ありがとうございました」
「それより一人か? パーティはどうしたんだ?」
確かに。上層ならまだしも、弓士のアムさんが一人で中層まで来たとは考えにくい。
「うん……実は――」
「即席パーティとはいえ、酷いですね」
「ああ、最低だな。冒険者の風上にも置けねぇ」
話を聞くと、元々組んでいたパーティを方向性の違いにより脱退。その後、即席で組んだはいいが、中層のモンスター相手には実力が足らず、アムさん一人に押し付けて逃げてしまったらしい。
「まあ十一層なら私一人でもなんとかなるから、まだ良かったわ。二人はまだ潜るの?」
「一応そのつもりですよ」
「なんなら一緒にどうだ? 即席パーティにいい思いはしてないだろうけど」
「い、いいの!? 実はもう少し稼ぎたかったのよ。助かるわ」
それはもしかして、僕の付けている防具のせいじゃないだろうか。
「それじゃあ行ける所までよろしくお願いしますねアムさん」
そう言うと彼女は微笑んで、
「アムでいいわ。敬語もいらない! 勿論、エリックもね! 二人とも、改めてよろしくね」
こうしてギルドを越えた即席パーティが出来上がった。
前衛の僕、後衛のアムさん、そして両方出来るエリック。三人パーティとしては一番バランスがいいのではないだろうか。
その後の戦闘はたった一人加わっただけで、安定性は抜群に上がった。十一層ではほとんど苦戦する事はなく、僕らは満場一致で十二層を目指す事にした。
「ふふ、なんだか私達、結構上手く連携取れてるよね」
と言うよりアムさんの順応性が高すぎるだけな気がする。エリックと僕はちょこちょこ一緒に行ってるし、連携がとれるのは当たり前。
それを初見から違和感なくやってのけるのは、シンプルにアムさんの力だ。
「アムさんが合わせてくれるからだよ」
敬語は辞めれるけど、呼び捨てにはどうも抵抗がある。
「そうだな。アムの援護は正直すげーよ。今日初めて組んだとは」
カチっと聞きなれない音が響く。
「なんでまた――」
エリックの悲痛な声。
直後の浮遊感。
そして身体が引っ張られるように、下へ下へと落下していく。
余程馬鹿じゃない限り、エリックが何を踏み抜き、自分達がどういう状況にあるかは理解出来るはず。
強制移動。多くの冒険者を葬ってきたトラップだ。
アムさんの絶叫が穴に反響する。
エリックの表情は歪み切っている。トラウマを再現してしまったのだから当然か。
そうか、トラップってこんな突然襲い来るものだったのか。
モンスターから逃げる時でも、戦闘の最中でもなく、あんな他愛もない会話をしている時に突然やってくるものだったんだ。
落ちていく中、僕は呑気にそんな事を考えていた。
何階層に落ちるのか分からないけれど恐くはなかった。だって僕は――




