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雑用係の下克上~百年に一人の逸材……をぶん殴る為に冒険者になりましたけど、何か?~  作者: 吉良千尋


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15話 虫さんが走るぜ!!!!

「えぇ、そぉんな安いんですかぁ?」


「ちょっと稼いだからって露骨に態度に出すタイプだったのかお前」


次の日、僕はエリックと一緒にプロメテウスという鍛冶屋に来ている。


オーガとの戦闘で使っていた駆け出し双剣はダメになってしまった。

それを知った髭ベテランのガッツさんから「武器は良いのを使え」と言われたのだ。


ガッツさんは特別強い訳ではないみたいだけど、冒険者歴二十年の大ベテラン。


僕としては既製品でいいかなって思ってたんだけど、あの日ドロップした二本の角を鍛冶屋に持ってけってさ。

なんでも、死闘を制した僕へ迷宮からの贈り物だそうだ。そういう素材を使った武器は自身によく馴染むらしい。


と、まあそんな経緯で鍛冶屋さんに来ているのだ。


因みにあの日の魔石を換金した所、五十万ガルドになった。それに加えアムさん救助の報奨金が騎士団ギルドから入り、そっちも五十万ガルド。


雑用係だった僕の年収を一日で稼いだ訳だ。


「うふふ……僕は今お金持ちだよ。エリック、お腹は空いてない? なんでもご馳走様するよ」


「お前は多分すぐ破産するぞ」


なんて軽口を叩きあっていると、プロメテウスの主人であるドワーフ族のアンドレイさんがすっとぼけた顔でこちらを見ていた。


ドワーフ族の特徴は低い身長で筋肉質。小さな筋肉髭だるまみたいだ、なんて言うと怒られそう。


「なに寝ぼけた事言ってんだ? さっきのは普通の武器……金属のみの鍛造価格だぞ。モンスターの素材を使いんたいんだったら、その価格じゃ無理だ」


「アンドレイさん、いくらでも構いませんよ。何せ僕、お金持ちですから」


エリックの冷たい視線を感じるが、この際構いやしない。クロノ財閥にとってエリックなんて小物小物。


「お、そうか。それなら安心だな! んじゃ、その素材を見せてくれ」


僕の言葉にニッコリ微笑むアンドレイさん。僕は早速懐から赤黒い角を二本差し出した。

するとアンドレイさんはそれを手に取り「ほぉ〜」とか「はぁ〜」とか、いいながら色んな角度から観察している。


「ふふ、それでおいくらですかぁ?」


「……通常のオーガの角なら大してかからんのだが、こいつは変異種だな? それに、オーラの痕跡がある。こういうのは加工がかなり難しくてな……んー、ざっと八十万ガルドってとこだな!」


ん? 何を言ってるのだろう。聞き間違えかな。


「八十ガルドですか?」


「万」


「十万ガルドですか?」


「八十万」


とても正気の沙汰とは思えない! 僕の総資産のほぼ八割を一瞬で奪い取るつもりか。この悪魔!


「あの、本当に?」


「俺は客に嘘は言わん。鍛冶師の魂に誓ってもいい」


八十万……八十万かぁ。


ちょっと真剣に悩むな。武器の性能は冒険者にとって生命線。だから先行投資として必要な範疇だ。

あのオーガだって、武器さえ良いものを使っていればあれほど苦労はしなかったし。


ただ、八十万もの大金を支払うなら、一旦断って既製品で繋ぐのもありだと思う。

ポーションも必要だし、防具も少し整えたい。


難しいところだ。


エリックに助言を貰おうと思い、ちらと目をやると、


「ぶはははは!! 僕はお金持ちですから!キリッ!だってよ。 早速貧乏じゃねーか、あひゃひゃひゃ」


顔と声が腹立つ。僕の真似までして、こんな煽り性能が高かったなんて。

腹を抱えて爆笑するエリックは心底楽しそう。


「あ、そうだ。今日は高級レストランでディナーと決め込むか! ぶふっ……だってご馳走様してくれるんだもんなぁぁぁ??」


いちいち顔を覗き込むあたり悪意を感じる。


くそ、エリックめ。恐らくこうなる事を最初から知ってたんだ。エリックの武器もここで打って貰ったみたいだし、嵌められた。


「んで? どうすんだ? これは鍛冶師としての助言だが、この素材の性能を完全に引き出すのはかなり骨だ。他所に持ち込むってんなら、そうだな……ヘパイストスっつー鍛冶屋なら信頼出来る。他はやめとけ」


腕組をして淡々と話すアンドレイさんだが、まさか他所に持ってく事に対してもアドバイスをくれるなんて。

この人は鍛冶師として、この素材を活かすことをしっかり考えくれてるんだ。


それならこの人だって信頼出来る。お金はまた稼げばいいや。決めた。


「いえ、アンドレイさんにお願いしたいです」


「おう、ありがとよ! 任せろ坊主。絶対に損はさせねぇぜ。仕上がりはそうだな……七日は見といてくれ」


「わかりました。それじゃあ七日後に」


僕らはアンドレイさんに頭を下げ鍛冶屋プロメテウスを後にした。







「おむっ、あむっ! ふろろ、これうへえぞ!」


あれだけの出費が確定したので高級レストランでディナーと決め込む訳もなく、大衆食堂【タソガレ】で夕飯をご馳走様する事にした。


大衆食堂ならなんて思ってたけど、エリックの食いっぷりに遠慮なんて微塵もない。

あれこれ頼んでバクバク食べている。


まぁ、いいさ。エリックには迷宮でお世話になってるし、ご馳走様するって言ったのも僕だしね。


「うん、何言ってるか分からないよ」


それにしてもやっぱりこのお店のソーセージは絶品だな。

パリッと焼けた皮に、ジューシーなお肉。噛めば肉汁が溢れ出す。幸せの味だ。


と、気持ち良く食を楽しんでいると、僕らのテーブルに誰かがやってきた。


「よー、クロノじゃん! 久しぶり、奇遇だな!」


「うわ」


見上げると金髪イケメンこと、ラインハルト君だ。


「お、おい、露骨に嫌そうな顔すんなよ」


「ああ、ごめん。僕顔に出やすいタイプなんだ。久しぶりだね」


「元気か――てお前、まだ懲りてないのかよ」


言いかけてエリックに気がつく。


ラインハルト君に敵意剥き出しの僕と、エリックに敵意剥き出しのラインハルト君。

彼の中ではエリックはいじめっ子のままなんだろうな。


うーん、これは盛大に勘違いしているな。


「あのね、これは僕がエリックにお世話になってるからご馳走しようと思って」


「おい、クロノに奢らせた飯は美味いかよ」


火に油をぶっかけてしまった。でもそれ以外に説明しようもないしなぁ。


面倒くさい人だな本当に。


「飯が不味くなるから後にしてくんね?」


おお、エリックよ。この間はビビり散らかしていたのに、この成長っぷり。

でも、あんまりお店でバチバチしないで欲しい。


「なんだと!? おいクロノ、こっちで一緒に食べよう。大丈夫、俺が守っ――」


手を引こうとするラインハルト君の右手を僕は遠慮なくはたいた。


「ラインハルト君、ごめんね。君は勘違いしてるし僕はもう冒険者だ。君に守られるほど、弱くないよ」


そう言うとエリックはニヤニヤした顔で援護射撃を放つ。


「そういうこった。ほら帰れ帰れ。しっしっ」


追い払う仕草をした所で、今度はラインハルト軍から援軍が到着。精鋭部隊だ。


「ちょっとラインハルト、何揉めてんの? ていうかモブがラインハルトと話さないでくれる? モブが伝染ったらどうしてくれんのよ」


この黒髪の美少女は確かステ、すて……なんだっけ。


「モブは否定しませんけど、病気じゃないので人には感染りませんよス……ステ……ファニーさん」


「ステラよ!! 勘で名前言うな!!」


違ったみたい。惜しかった。


「ステラもハルトも、こんなのほっといて早く戻ろう」


小さい青髪の子はこの間、負傷しておぶられてた子か。無事だったんだ。


「2人とも、そういう言い方は良くないんじゃ……ご、ごめんなさい。悪気はないんですけど……」


おお、ここに来てまともなお姉様。明るい金髪が綺麗ですね。


それにしても、なんと言うか美形で固めすぎでは?


あと僕らは悪くないのに攻撃的過ぎてイライラする。

どうやらそう思ってたのはエリックも同じで、こめかみがピクピクしてる。


「はっ、さすがラインハルト様! パーティメンバーは容姿採用か?」


これはボロカス言われたからじゃなくて、多分シンプルに僻みだ。エリック、それは僻みだよ!


「俺の事をなんて言おうが構わないけどな、仲間の悪口は許さないぞ」


さすが、百年に以下略。物語の主人公っぽい怒り方だ。でも先に仕掛けてきたのは君なんだよね。逆ギレだよそれ。


「女の前だからってカッコつけんなよ。クロノの話も聞かねーで暴走しやがって。お前みたいに自分勝手な奴見てるとな、虫さんが走るんだよ!!」


机をバンっと叩き、叫ぶように言い放った。


「……ん?」


ものすごく恥ずかしい間違いをしてるよエリック。共感性羞恥がすごい。

怒ってたラインハルト君も考え込んじゃってるじゃん。


「えっ、なに? 何が走るって?」


「虫? 虫さん? なんでさん付け……?」


「スターダストさんを見てると、虫が走るのですか?」


ほら、御三家も混乱しちゃってる。


「……エリックごめんね。それは多分虫さんじゃなくて虫ズって言うんだよ」


訂正してしまった時の罪悪感が凄い。

エリックの顔はみるみる真っ赤になっていく。無理もない。馬鹿丸出しだもん。


「ら、ラインハルト、行きましょ。なんて言うか次元が違うわ」


ステリーヌさんはドン引きした顔でそう言うと、ほかの二人を連れて戻って行った。

お姉様だけ「ごめんなさい」と言っていてくれた。


「あ……ああ、そうだな。クロノ、またな! 冒険者稼業頑張れよ!」


「うん、ありがとう」


出来れば僕に殴られるまで絡んでこないでね。なんて、言えないんだけど。


それから食事を終えた僕らが店を出る際、エリックが全部払ってくれた。

冒険者として、壁を乗り越えたお祝いだってさ。こういう所があるから嫌いになれないんだよね。


「なぁクロノ」


帰り道、ふとエリックが呟いた。


「うん?」


「なーんか腹の虫が治まらねーの、俺だけか?」


まだ虫さんがトコトコ走ってるのかな。


「いや、僕もだよ」


そうして僕らは目を合わせると、互いにニヤリと笑う。


「迷宮行こうぜ! このストレスをモンスターで発散だ!」


「うん! 行こう!」


月明かりが照らす中、僕らは迷宮に向かって走り出した。

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