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「ある人」の、その後

 ある日の片田舎の中都市。

 建物の外は、何やかや忙しなく映る。


 ハローワークの職業訓練室は、いつも少しだけ空気が重い。

 暖房が効きすぎているせいなのか、それとも皆、行き先が仮置きのまま集められているせいなのか。


 私は窓際の席で、マウスを握ったまま画面を眺めていた。

 Excelの練習問題。関数。初歩。眠くなるほど簡単なはずなのに、頭に入らない。


 派遣は、切られるときは一瞬だ。

 更新なし。業務整理。先方の都合。

 理由はいつも柔らかく、こちらの居場所だけがきれいに消える。


 前の職場でも、私は“うまくやっていた”ほうだと思う。

 空気を読む。上の人の顔色を見る。誰と組めば安全かも分かっていた。


 あの人が変わるまでは。


 ベテラン側の人。

 前は、何かと助けてくれた。仕事の癖も、誰が地雷かも、言葉にせずに示してくれた。

 だから私は、あの人の隣にいるのが楽だった。


 でも、ある日から違った。

 頼んでも、すぐに動かない。

 笑うけど、前みたいに間に入らない。


 正直、焦った。


 それで私は、「最近忙しくて」と言うようになった。

 本当は忙しくなんてなかった。ただ、別の人のところへ行っただけだ。

 声が大きくて、決定権に近くて、場を仕切る人たち。


 笑っていれば、ここにいていいと思った。

 そういうやり方しか、知らなかった。


 更新が切られたのは、その数ヶ月後だ。

 理由はやっぱり、曖昧だった。


 職業訓練の休憩時間、周りの人たちはもうグループを作っている。

 誰が前職で何をしていたか。どこを目指しているか。

 私は、その輪に入るタイミングを探して、結局入らない。


 声をかけられないわけじゃない。

 でも、あのとき職場でやっていたみたいに、自然に入れない。


 ふと、思い出す。

 あの人が、静かに席を立つようになった昼休みのこと。

 私が「忙しくて」と言いながら、別の誰かと笑っていた光景。


 あの人は、私をハブらなかった。

 ただ、離れただけだった。


 今になって分かる。

 私は、近いほうに付いていただけだ。

 立場が強いほう、安全そうなほうへ。


 訓練室のチャイムが鳴る。

 私はマウスを握り直す。


 次は、どこに行けばいいんだろう。

 そう考えたとき、初めて、誰の隣にも行かずに立つしかないことに気づいた。

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