第8話 取り返しのつかない判断
その依頼は、本来なら問題なく終わるはずだった。
中規模ダンジョンの踏破。
目新しさはないが、実績を積むにはちょうどいい案件だ。
「評価を戻すには、こういう堅実な仕事が一番だ」
レオンはそう言って、依頼書を叩いた。
王国からの評価が一段下がったとはいえ、
まだ勇者パーティの名は通用する。
――ここで失敗するわけがない。
そう、思っていた。
「このルートで行く」
レオンは、最短距離を示した。
だが、ミレイアが眉をひそめる。
「……前も思ったけど、
この辺り、魔力の流れが不安定よ」
「気にしすぎだ」
レオンは即座に切り捨てる。
「余計な遠回りをする必要はない。
時間をかければ、それだけ評価が下がる」
ゴルドは一瞬迷ったが、最終的に何も言わなかった。
かつてなら、
ここで「別案」が出ていたはずだった。
誰かが、
“進まない判断”を提示していた。
だが今は、いない。
問題は、戦闘そのものではなかった。
前半は順調だった。
魔物の数も、想定通り。
だが――
「……静かすぎないか?」
ミレイアが足を止める。
返事はなかった。
その瞬間、天井が崩れた。
「っ、罠!?」
落下。
分断。
三人は別々の通路に投げ出された。
「レオン!」
「ゴルド!」
叫び声が、反響して消える。
索敵も、合流の目処も立たない。
焦りが、判断を鈍らせた。
レオンは、最悪の選択をした。
「……突っ切る」
合流を待たず、
単独で進むという判断。
時間をかければ、
さらに状況が悪化する――
そう自分に言い聞かせて。
結果は、想像以上だった。
予想外の増援。
消耗。
撤退不能。
レオンは、辛うじて脱出した。
だが――
装備を一部失い、
負傷し、
ダンジョン攻略は失敗。
治療院で、重い沈黙が落ちる。
「……報告、どうする?」
ミレイアの声は震えていた。
ゴルドは、何も言えない。
レオンは、天井を睨みながら言った。
「……想定外だった」
だが、その言葉に誰も頷かなかった。
かつてなら、
想定外は「想定内」だった。
起こらないように、
回避する役割が、確かに存在していたからだ。
「……なぁ」
ゴルドが、ぽつりと呟く。
「アルトがいた頃、
こういう状況……あったか?」
沈黙。
それが、答えだった。
レオンは、何も言わなかった。
言えなかった。
否定するには、
あまりにも状況が一致しすぎていたからだ。
この日、勇者パーティは
正式に“失敗案件”を記録された。
王国の評価は、もう一段、落ちる。
そして彼らは、まだ知らない。
この判断ミスが、
「取り返しのつかない分岐点」だったことを。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




