第4話 確かめるために、俺は一人で潜る
王都を出てから、しばらく歩いた。
目的地は決めていない。
ただ、人の多い方角を避けていただけだ。
今は、誰とも話したくなかった。
頭の中では、あの言葉が何度も反芻されている。
――「お前がいなくても回る」
否定する気力は、もう残っていなかった。
だが同時に、どうしても拭えない違和感があった。
本当に、そうだったのか?
俺の支援は、無意味だったのか。
俺の判断は、間違っていたのか。
もしそうなら、
あの追放は正しかったということになる。
――それだけは、はっきりさせたかった。
足を止めた先に、小規模なダンジョンの入口が見えた。
討伐依頼は出ていない。
人の出入りも少ない。
だが、内部構造は把握している。
難度も、無謀と呼ばれるほどではない。
「……ちょうどいいな」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
失うものは、ほとんどない。
だが、無駄に命を捨てるつもりもない。
ここなら――
誰の指示もなく、誰の評価もなく、
自分一人で通用するかを確かめられる。
俺は深く息を吸い、支援術の準備を整える。
味方はいない。
だが、支援術師が支援できる対象は、他人だけじゃない。
「……行くか」
そう呟いて、俺はダンジョンへ足を踏み入れた。
この一歩が、
俺の価値を否定する証明になるのか。
それとも――
彼らが捨てたものの正体を、
俺自身が知るための答えになるのか。
それは、まだ分からない。
ダンジョン内部は、思ったより静かだった。
湿った空気。
足元の砂利が、わずかに音を立てる。
俺は歩きながら、常に周囲へ意識を張り巡らせていた。
――右側、壁の向こうに魔力反応。
――前方、分岐点。罠の可能性あり。
これまでなら、俺は後方で報告するだけの役目だった。
判断するのは、いつも前に立つ人間。
だが今は違う。
「……ここは通らない」
誰に言うでもなく、進路を変える。
数分後、背後から微かな爆音が響いた。
崩落系の罠が作動した音だ。
もし、あのまま進んでいたら――
結果は考えるまでもない。
俺は足を止めず、淡々と奥へ進む。
魔物との遭遇もあった。
数は少ないが、油断できる相手じゃない。
だが、不思議なことに――
「……動きが、見える」
相手の踏み込み、重心の移動。
攻撃に移る前の、ほんの一瞬の癖。
それらが、やけにはっきり分かった。
支援術で強化しているのは、身体能力だけじゃない。
判断速度。
予測精度。
戦況全体を「読む」ために磨いてきた感覚が、
そのまま自分に返ってきている。
必要以上に戦わない。
無理に倒さない。
避けられるなら避け、
通れるなら通る。
結果として、戦闘は最小限だった。
気づけば、想定していたエリアを抜け、
引き返すには十分すぎる成果を得ていた。
「……生きてるな」
出口の光を見たとき、
俺はようやくそう呟いた。
息は乱れていない。
怪我もない。
失敗は、一度もなかった。
――仮に、俺が本当に役立たずなら。
ここまで来られるはずがない。
ダンジョンを出た俺は、
しばらくその場で立ち尽くした。
胸の奥で、何かが静かに形を変えていく。
自信――と呼ぶには、まだ小さい。
だが、確かな手応えだった。
少なくとも、俺は「何もできない存在」じゃない。
それだけ分かっただけでも、
ここに来た意味はあった。
そして、この時の俺はまだ知らない。
この小さな確信が、
やがて勇者パーティの崩壊と、
俺自身の評価を決定的に分けることになるということを。
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