第32話 速くなるが、届かなくなる
最初の報告は、
成功だった。
中央判断室が稼働し、
情報は一元化される。
各地から届く報告は、
即座に整理され、
判断が返る。
「……速いですね」
官僚の一人が、
満足そうに言った。
「これなら、
現場の負担も減ります」
数字も、
それを裏付けている。
対応速度は向上。
判断のばらつきは減少。
制度としては、
理想に近い。
だが、
違和感は小さなところから現れた。
「……この判断、
少し遅れてます」
外縁部から届いた、
控えめな一文。
遅れている、
といっても数時間だ。
中央では、
誤差の範囲。
だが――
現場では違う。
「中央の判断を待って、
対応しました」
報告書には、
そう書かれている。
結果、
被害は最小限。
人命はない。
だが、
被害ゼロではなかった。
官僚は、
肩をすくめる。
「想定内です」
「完璧は、
求めていません」
それも、
正しい。
だが、
俺の胸の奥が、
わずかにざわついた。
次の案件。
中央の判断は、
的確だった。
だが――
返答が届いた時、
現場はすでに動いていた。
「……判断を待たずに、
対応したと?」
官僚の声が、
少し硬くなる。
「はい。
時間がなかったので」
現場の言葉は、
簡潔だ。
結果は、
被害ゼロ。
だが、
問題視された。
「手順違反です」
中央は、
そう結論づける。
善意の指摘だ。
秩序を守るため。
俺は、
そのやり取りを黙って見ていた。
判断は、
速くなっている。
だが――
届いていない。
中央は、
全体を見ている。
現場は、
“今”を見ている。
その差が、
少しずつ広がっている。
数日後。
被害が、
小さく出た。
報告書には、
こうある。
判断待機中に、
状況が変化したため。
責任は、
誰にもない。
制度は、
正しく動いている。
それでも、
失敗は起きた。
官僚の一人が、
困ったように言う。
「……速さと、
安全性は、
両立できないのでしょうか」
俺は、
静かに答えた。
「できます」
視線が集まる。
「ただし、
同じ場所では無理です」
判断は、
中央に集まるほど速くなる。
だが、
現場からは遠くなる。
それが、
今起きていることだ。
この時点では、
まだ致命傷ではない。
だが、
“前兆”は、
はっきりと現れていた。
中央の判断は、
正しい。
だが、
それだけでは足りない。
それを、
誰がどう気づくか。
次の一手が、
問われ始めていた。
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