第29話 中央からの正式要請
呼び出しは、予告なく届いた。
王都中央区。
通常の業務連絡では使われない封蝋。
「……正式、か」
俺は、それだけ呟いて書簡を閉じた。
会議室は、広かった。
装飾は控えめ。
だが、集まっている顔ぶれが示している。
――ここは、
現場の判断をする場所ではない。
「遠路、ありがとうございます」
正面に座る官僚が、丁寧に頭を下げた。
年齢は四十前後。
目つきは鋭いが、敵意はない。
「こちらこそ」
形式的に返す。
だが、
空気はすでに決まっていた。
ここでは、
俺は“呼ばれる側”だ。
「早速ですが」
官僚は、資料を差し出す。
「外縁部の安定化について、
分析をお願いしたい」
紙には、
数字と簡潔な要約。
被害件数の減少。
対応速度の改善。
どれも、事実だ。
だが――
「分析、ですか」
「はい。
個人の能力ではなく、
再現可能な仕組みとして」
言葉は丁寧だ。
だが、
その裏にある意図は分かる。
“使える形にしたい”
それだけだ。
「一つ、確認していいですか」
俺は、資料から目を上げる。
「この安定化、
中央主導だと
お考えですか?」
官僚は、一瞬だけ言葉を選んだ。
「……結果としては、
そう見えます」
正直な答えだった。
だが、
正確ではない。
「現場は、
中央の判断を待っていません」
静かに告げる。
「判断は、
現場同士で完結しています」
官僚の一人が、
驚いたように目を見開く。
「ですが、それは――
統制が取れていないのでは?」
善意の疑問。
責める口調ではない。
「統制は、
取れています」
俺は、即答する。
「ただし、
集めていないだけです」
会議室が、静まった。
「……それが、
問題なのです」
別の官僚が口を開く。
「判断が分散していると、
全体像が見えない」
正論だ。
間違ってはいない。
だが――
「全体像を見るために、
判断を集めると」
俺は、言葉を区切る。
「現場から、
時間が消えます」
誰も、すぐには反論しなかった。
沈黙の中、
最初の官僚が言った。
「だからこそ、
あなたに来ていただきました」
嫌な予感が、
確信に変わる。
「中央に、
判断役を置きたい」
続く言葉は、
穏やかだった。
「全体を俯瞰できる者を」
俺は、深く息を吸った。
怒りはない。
反感もない。
彼らは、
本気で国を良くしようとしている。
だからこそ、厄介だ。
「……俺は」
少し間を置いて、答える。
「その役割に、
向いていません」
会議室が、ざわつく。
「理由を、
お聞かせ願えますか?」
官僚の声は、真剣だった。
俺は、はっきり言う。
「判断は、
集めすぎると腐ります」
空気が、凍りついた。
これは、対立ではない。
敵対でもない。
ただ――
立場が、
ズレているだけだ。
このズレが、
どこへ向かうのか。
この時の俺は、
まだ知らない。
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