第22話 判断役の分身
集落に滞在して、五日目。
俺は、現地責任者と数名を集めた。
顔ぶれは地味だ。
伝令役の若者
見回り担当の中年兵
商会の補佐員
いずれも、
戦力としては並。
「今日は、
魔物の話はしない」
俺の一言に、
全員が少し戸惑った。
「代わりに、
“判断の話”をする」
静かな空気が落ちる。
「最初に、これを見てほしい」
俺は、簡単な地図を広げた。
公式地図ではない。
集落周辺だけを描いた、
粗いものだ。
「この中で、
今、一番危険な場所はどこだと思う?」
即答は、なかった。
しばらくして、
中年兵が口を開く。
「……森の奥でしょうか。
魔物が出ましたし」
正解ではない。
だが、間違いでもない。
「理由は?」
「……数が多いから?」
俺は、頷いた。
「その考え方は、
“起きたこと”を見る判断だ」
次に、若い伝令役が言う。
「街道の分岐点です。
人が集まるので」
「理由は?」
「被害が出やすいから」
これも、
悪くない。
俺は、最後に補佐員を見る。
「君は?」
「……分かりません」
正直な答えだった。
だが、
俺はそれを否定しない。
「分からない時に、
どうする?」
少し考えてから、
彼は答えた。
「……誰かに聞きます」
俺は、そこで初めて微笑んだ。
「それが、正解だ」
一瞬、全員が驚く。
「判断役に必要なのは、
正解を出す力じゃない」
俺は、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「“分からない”を、
放置しない力だ」
地図を指でなぞる。
「危険は、
分からない場所に生まれる」
これは、
俺が経験で学んだことだ。
次に、俺は条件を出した。
「今日から、
ここで起きる小さな異変を、
全部集める」
量は問わない。
確証も要らない。
「重要なのは、
“違和感”だ」
全員が、真剣な顔になる。
夕方。
集められた情報は、
雑多だった。
風向きの変化
獣の減少
人通りの偏り
どれも、
単体では意味を持たない。
だが――
「……繋がるな」
俺は、静かに言った。
彼らが、息を呑む。
「いいか」
俺は、全員を見る。
「俺は、
ここに居続けるわけじゃない」
空気が、張り詰める。
「だが、
俺がいなくなっても、
判断は止まらせない」
それが、
今日の目的だ。
夜。
焚き火を囲みながら、
若い伝令役が聞いてきた。
「……俺たち、
判断役になれるんですか?」
俺は、首を横に振る。
「ならなくていい」
少し間を置いて、続ける。
「判断役“みたいなこと”が、
できれば十分だ」
彼は、少し笑った。
緊張が、和らいだ。
この日から、
集落の空気が変わった。
誰かが命令を待つのではなく、
誰かが“考える”。
俺は、それを見て確信する。
分身は、
能力のコピーじゃない。
考え方が、
広がることだ。
それが、
判断役の分身だった。
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