第21話 支援術師では足りない
翌朝、集落は静かだった。
家畜を失った家では、
淡々と後始末が進められている。
泣き叫ぶ声も、
怒号もない。
それが、胸に刺さった。
「……慣れているんです」
現地責任者が、ぽつりと漏らす。
「被害が出るのは、
珍しいことじゃない」
その言葉に、
俺は何も返せなかった。
慣れてはいけない。
だが、現場は慣れざるを得ない。
それが、この距離の現実だ。
俺は、簡易詰所で
昨夜書き始めた紙を広げた。
そこには、いくつかの箇条書きがある。
判断が遅れる原因
中継地点の問題
非公式情報の扱い
現地判断の裁量不足
どれも、
すでに気づいていたことだ。
だが、
書き並べてみて、
はっきりした。
「……俺が、全部やる前提だな」
独り言が漏れる。
今までは、それでよかった。
王都周辺。
中央集権。
判断が届く範囲。
だが、
ここは違う。
「アルトさん」
声をかけてきたのは、
若い伝令役だった。
「報告書、まとめておきました」
「ああ、ありがとう」
受け取った紙を見て、
俺は一瞬、手を止める。
簡潔。
要点だけ。
だが、
判断理由は書かれていない。
「……なぜ、ここを危険だと思った?」
伝令役は、少し考えてから答えた。
「以前、似た被害が出たからです」
正しい。
だが、不十分だ。
「その時と、
今回の違いは?」
彼は、言葉に詰まった。
「……分かりません」
それも、正直な答えだ。
俺は、その場で理解した。
判断は、
結果だけを渡しても意味がない。
必要なのは、
「なぜそう考えたか」だ。
だが――
「それを、
全部俺がやるのは無理だな」
初めて、
はっきりと認めた。
俺は有能だ。
判断も早い。
だが、
遍在できない。
距離は、
才能では埋まらない。
現地責任者と、
改めて向き合う。
「ここで判断できる人間を、
増やす必要がある」
「ですが……
そんな専門家は――」
「専門家じゃなくていい」
俺は、即座に否定した。
「必要なのは、
俺と同じ結論を出す人間じゃない」
責任者が、首を傾げる。
「では?」
「俺と同じ考え方をする人間だ」
空気が、静まった。
支援術師。
それは、
個人としての役割だ。
だが今、
俺に求められているのは違う。
「……俺は、
支援術師で終わるつもりはない」
その言葉は、
宣言でも、野心でもなかった。
ただの現実認識だ。
「判断役は、
一人である必要はない」
そう言って、
俺は紙に新しい項目を書き足した。
判断基準の言語化
現地裁量の付与
小規模判断網の構築
それは、
個人の成長ではない。
仕組みの始まりだった。
その夜。
俺は、王都宛てとは別に、
もう一通の文書を書いた。
公式文書ではない。
提案書だ。
「判断役の育成について」
宛先は、
商会でも、ギルドでもない。
現場だ。
ここから先は、
俺一人の仕事じゃない。
だが――
俺が始めなければ、
誰も始めない。
そう、確信していた。
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