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追放された支援術師、実は王国の損失を消していた件 〜勇者パーティを抜けたら、判断役として国家案件を任されました〜  作者: 鷹宮ロイド


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第19話 地図に載らない危険

 地図は、正確だ。


 少なくとも、

 描かれている範囲においては。


 俺は集落の外れで、

 王国公式の地図を広げていた。


 街道。

 検問所。

 中継地。


 どれも、

 整然と線で結ばれている。


「……だが、現実は違う」


 そう呟いて、地図を畳んだ。


「この辺りに、

 よく人が通る道はありますか?」


 俺の問いに、

 集落の若い男が首を傾げる。


「街道なら、あっちですが……」


「それ以外で」


 少し間を置いて、

 男は視線を逸らした。


「……あります」


 声が、低くなる。


「昔から使われてる近道です。

 公式には、道じゃないですけど」


 俺は、頷いた。


 こういう道は、どこにでもある。


 案内されたのは、

 森を抜ける細い踏み跡だった。


 舗装はない。

 標識もない。


 だが、足跡は多い。


「密輸路か?」


「そこまでじゃないです」


 男は、苦笑する。


「税を避けるわけでもない。

 ただ……早いんです」


 公式街道より、半日短い。


 それだけで、

 人は選ぶ。


 だが――


「判断は、ここを通らない」


 俺は、静かに言った。


 なぜなら、

 この道は、存在しないことになっているからだ。


 俺は、周囲を観察する。


 木の倒れ方。

 土の削れ具合。

 風の流れ。


「……なるほど」


 魔物の痕跡。


 公式街道から外れた場所に、

 人の匂いが集まっている。


「魔物は、

 “人が通る場所”を覚える」


 男が、はっとした顔をする。


「じゃあ……」


「ああ。

 ここは、次の通り道になる」


 被害が出た集落から、

 ほんのわずかな距離。


 だが、

 報告には一切載っていない。


 俺は、再び地図を広げた。


 だが、

 今度は線を引かない。


 代わりに、

 何もない場所に、指を置く。


「危険は、

 記録の外側に生まれる」


 それは、

 王都で仕事をしていた頃には、

 見えなかった視点だ。


「……どうします?」


 男が、不安げに聞く。


 俺は、即答しなかった。


 なぜなら――

 ここをどう扱うかは、

 俺一人で決める話じゃないからだ。


 その夜。


 俺は、簡易の報告書を書いた。


 だが、

 正式な形式は使わない。


 外縁部用の、

 簡潔なものだ。


「公式地図にない通路に、

 魔物誘導の兆候あり」


 それだけを書く。


 誰かを責めない。

 制度も批判しない。


 ただ、

 判断材料だけを残す。


 この時、

 俺ははっきりと理解した。


 判断が届かない理由は、

 距離だけじゃない。


 “見えないことになっている情報”

 それが、

 最も厄介な障害だった。


 地図を更新するより先に、

 見る目を更新しなければならない。


 それは、

 支援術師としての仕事ではない。


 判断役としての、

 次の段階だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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