第16話 それぞれの、その後
季節が、一つ巡った。
王都の街道は整備され、
物流は安定し、
物資の滞りは、ほとんど聞かれなくなった。
それを「奇跡」と呼ぶ者もいる。
だが、記録上は違う。
“判断役の常設”
ただ、それだけだ。
俺は今も、前線には立たない。
剣を振ることも、
魔法を撃つこともない。
だが、地図と報告書に目を通し、
危険が芽吹く前に、進路を変える。
「判断役は?」
「アルトで」
それが、当たり前になった。
商会だけでなく、
王国の部署でも、
このやり取りが繰り返されている。
名声は、特に求めていない。
だが、
必要とされる場所にいる
それだけで、十分だった。
勇者パーティの名を、
最近はほとんど聞かなくなった。
完全に消えたわけではない。
地方の依頼を、
堅実にこなしていると聞く。
「勇者、ですか?」
ある役人が、そう首を傾げた。
「ええ、確かに強い。
ですが……今は、
判断役付きの一部隊、ですね」
それ以上の評価は、なかった。
英雄であることと、
信頼されることは、
別物だ。
それを、
彼らは遅れて学んだ。
ある日、
仕事の合間に、商会の責任者が言った。
「後悔はないか?」
「何について?」
「……あのパーティに戻らなかったことだ」
俺は、少しだけ考えた。
そして、首を振る。
「戻らなかった、んじゃない」
静かに、言い直す。
「最初から、
戻る場所じゃなかった」
それだけだ。
恨みはない。
怒りもない。
ただ、
選択の結果が、
今の立場を作った。
夕暮れ時。
倉庫の外で、
俺は一人、街道を眺めていた。
行き交う馬車。
笑顔の商人。
無事に届く物資。
それらは、
誰かが剣を振ることで守られている。
そして同時に、
誰かが「振らせない」ことで守られている。
俺は、後者でいい。
それが、
俺の選んだ役割だ。
王国の記録には、
今日も淡々と書き足されていく。
《判断役:アルト》
結果:問題なし
損失:なし
派手さはない。
だが、
その行に、
誰も異議を唱えない。
それが、
この物語の結末だった。




