第14話 条件の合わない交渉
正式な場は、三日後に用意された。
商会の会議室。
同席者は、商会側の責任者と、ギルドの立会人。
そして、勇者パーティ。
俺は、資料に目を通しながら席に着いた。
「……時間を取ってくれて、感謝する」
最初に口を開いたのは、レオンだった。
以前のような、上からの態度はない。
慎重で、探るような口調。
「要件は?」
俺は、端的に聞いた。
感情論に入る余地は、最初からなかった。
「……アルト。
俺たちは、お前を必要としている」
その言葉に、
商会の責任者が一瞬だけ眉を動かした。
「それで?」
俺は、続きを促す。
「戻ってほしい」
レオンは、はっきり言った。
「勇者パーティの支援術師として」
立会人が、静かに記録を取る。
俺は、資料から目を上げた。
「待遇は?」
即座に聞いた。
ミレイアが、少し慌てて口を挟む。
「今より……悪くはしないわ。
報酬も、話し合える」
「具体的に」
俺の声は、変わらなかった。
レオンは、一瞬だけ言葉を探す。
「……今の倍は出す」
商会側が、静かに息を吐いた。
「それで、業務内容は?」
今度は、俺が続ける。
「索敵、進路判断、危険予測。
それを、最優先事項として扱うか?」
沈黙。
レオンは、答えなかった。
ミレイアが、苦しそうに言う。
「戦闘の最中は……
どうしても前衛の判断が――」
「つまり」
俺は、静かに遮った。
「最終判断権は、
今まで通り勇者にある、ということだな?」
誰も否定しなかった。
それが、すべてだった。
俺は、書類を閉じる。
「条件が合わない」
短い結論。
立会人が、顔を上げる。
「確認します。
拒否、ということでよろしいですね?」
「ああ」
即答だった。
「俺は、
判断が尊重される場所でしか働かない」
その言葉に、
勇者パーティの三人は、何も言えなかった。
否定できなかったからだ。
かつて、
何度も俺の判断を切り捨ててきたのは、
彼ら自身だった。
「……謝罪は?」
ミレイアが、絞り出すように言う。
俺は、一瞬だけ考えてから答えた。
「受け取った」
それ以上は、何も付け加えない。
過去を掘り返す必要はない。
「だが」
俺は、はっきり言った。
「それで関係が戻ると思うなら、
認識が甘い」
レオンは、目を伏せた。
初めて、
言い返す言葉を失ったように見えた。
会議は、十分も経たずに終わった。
交渉不成立。
それ以上でも、それ以下でもない。
廊下に出たあと、
商会の責任者が、ぽつりと呟く。
「……冷静だな」
「条件の話をしただけだ」
「勇者を相手に?」
「立場の違いだ」
それだけで、説明は終わる。
その夜。
勇者パーティは、
正式に“補助役同行必須”の条件を飲むことになった。
だが、
それは「元に戻った」ことを意味しない。
戻る場所は、もう存在しない。
彼らは、
それをようやく理解し始めていた。
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