第11話 名前が先に歩いていく
王都のギルド本部は、地方とは空気が違う。
情報が集まり、
評価が更新され、
人の価値が静かに並べ替えられる場所だ。
その日、定例の報告会が行われていた。
「次に、物流関連の案件について」
議長役の男が書類をめくる。
「先月、医療物資の王都搬入において、
損失ゼロ・想定外事象ゼロという結果が出ています」
ざわめきが起きた。
この規模で、
何も起きないというのは異例だ。
「担当したのは、
商会所属の支援術師――アルト」
その名が出た瞬間、
何人かが小さく頷いた。
「やはり、あの判断役か」
「最近、名前をよく見るな」
「前線に出ないのに、
結果だけ残すタイプだ」
議長は淡々と続ける。
「当該案件において、
彼は複数の“未報告リスク”を回避しています」
資料が配られる。
崩落予測。
魔力滞留。
進路変更。
どれも、
起きてからでは遅い類のものだった。
「結論として」
議長は、短く言った。
「彼の判断は、
勇者級戦力一個分に相当する」
会議室が、一瞬だけ静まり返った。
勇者級。
それは、王国で使われる
最上位の評価指標の一つだ。
「戦力としてではない」
議長が補足する。
「“損失を出さない能力”として、だ」
誰も反論しなかった。
それが事実だと、
全員が理解していたからだ。
同じ頃、
地方ギルドの掲示板の前で、
レオンは立ち尽くしていた。
「……これ」
貼り出された報告要約。
《王国物流・評価更新》
判断役:アルト
結果:損失ゼロ
推奨:今後の高難度非戦闘案件に優先起用
ミレイアが、声を失った。
「……判断役、って」
ゴルドは、ゆっくり息を吐く。
「俺たちが、
“付けろ”って言われた役だな」
レオンは、何も言えなかった。
その名前を、
初めて“他人の評価”として突きつけられたからだ。
俺たちが切り捨てた支援術師。
その存在が、
勇者と同列に並べられている。
いや――
状況によっては、
勇者以上に。
「……探すか」
沈黙を破ったのは、レオンだった。
「アルトを」
ミレイアが、ゆっくりと頷く。
「このままじゃ……
取り返しがつかない」
ゴルドは、何も言わなかった。
だが、その表情が
すべてを物語っていた。
一方その頃。
俺は、商会の倉庫で
次の案件の地図を広げていた。
「判断役は?」
「アルトで」
「問題ない」
それだけで、話は進む。
自分の名が、
どこまで広がっているのか。
俺は、まだ正確には知らない。
だが――
名前が、
俺より先に歩き始めていることだけは、
確かだった。
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