第2話 私と師匠は何者か
ここで少し説明しておかなければならない。
私は一体何者で、師匠とは一体何者なのか、を。
はじめに説明するが、私は「私」であり、師匠は「師匠」だ。
無論、名前や性別などという些細なことはどうでもいいので、そこはあえて説明を省く。
さて、まずは「私」について説明をしたい。
「私」とは職を持たない、ただの社会を憎む若者だ。
親のすねをかじって日々生きている私だが、そんな迷惑極まりない私は小説家を目指し、一次選考も突破しない小説を書いては日々暮らしている。
小説家を目指そうと決意したきっかけ、それは私の両親の言葉だった。
父は言った。
「お前のつらい過去、嫌な現在、先が見えない未来はな、すべて物語を書くために存在したんだよ。
……うん、俺はお前が書く物語、面白くて好きだし、そんな小説をこれからも読み続けたいな」
母は言った。
「あなたが楽しそうに小説を書いていると、私まで嬉しくなるの。
……そうね、あなたが書く物語内での描写、私は好きよ」
そんなわけだから、私は小説家を目指すと、本気で誓ったのだ。
小説を書くことは、私の生きる意味であり、生きるための希望だった。
それに小説を書くことは、何よりも楽しかった。
新しい世界の歴史をこの手で作り上げていく作業は、どんな娯楽よりも面白かったし、これ以上の楽しみは存在しないと断言できるほど、この私に合っていた。
それが「私」だ。
そんな「私」の師匠こと、「師匠」の説明をしよう。
「師匠」とは元小説家の独特の思想を持つ、風変わりな包容力のある中年だ。
すでに小説家としては引退し、隠居の身の師匠。
実を言うと、私は師匠の作家名を今でも知らずにいた。
なので、師匠がどんな物語を書いていたか、どのような文体であるか、どういう言い回しの表現をするのか、まるで知らないため、そこは説明しようにもできない。
ただ、師匠は独特の思想を――人情味あふれる思想をしていた。
それは少数派や弱者といったものに理解を示し、けれど多数派や強者にも理解ある、まさに誰にでも優しい思想の持ち主。独特な思想家。
私はそんな師匠に憧れ、ひょんなことから知り合って以来、私はあの人のことを「師匠」と呼び始めたのだ。
なぜ師匠が小説家を引退し、隠居の身になったのか、私は知らない。
だが、師匠はいつも口癖のように言っていた。
「物語は時に、人を惑わす」――そう言っていたのだ。
それが師匠の引退理由となったことには間違いないのだろうが、それにしたって師匠は自身の小説がどんな内容か、まるで口を開こうとしない。
そのため、師匠が私に小説についてのアドバイスをすることは、ただの一度もない。
その代わり、師匠は仏も真っ青な穏やかな思想をいくつも語り聞かせてくれた。
私からすれば、師匠の思想をひとつ知るだけで一作の短編が書けるため、師匠の口から思想を聞かせてくれるだけで、充分創作についてのアドバイスをもらっていた。……とまあ、これはここだけの話だ。
今の内容を師匠に一度話したら、師匠は一週間ほど、思想といったものを私に話すことをやめたので、それ以来、私はこのことを言わないようにしている。
……長くなったが、それが「師匠」だ。
そんな私と師匠には、ある約束があった。
「小説を書き続け、必ず小説家になること」
それが私と師匠のあいだで取り交わされた約束――プロミスだ。
その約束だけは破りたくない。何がなんでも。
何が……なんでも。
…………。




