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外部受入《Open Gate》

搬入口のシャッターが上がるたび、冷たい朝気が床を撫でた。

養生テープの青、案内矢印の白、反射帯の銀。俺はチョークで右半の目印を増やし、拍を心の中で刻む。



「ツバサ、受入プラン最終版。外部交流戦の視察団と、異能犯罪対策連絡会の見学班が別導線だって」

クロノがタブレットを差し出す。


「二重楕円ね。外部校は内側、連絡会は外側。交差一箇所、片側規制一箇所」

リクトが図面を回す。


「救護は出番が無いのが満点。見る→呼ぶ→触る」

アオイは救護帯を整える。


「音、増える。必要分だけ通す」

ユウナが短く言い、無線の音量を一目盛り下げた。


「雷標信号《Bolt Beacon》は線短く。**双拍信号《Twin Beat》**で補助。

**門番交替《Gate Shift》と即時収束《Quick Merge》**は三拍」

ヒナタが指を三度、一拍強/二拍明/三拍交替で切って見せる。


「白羽」

東堂シノがクリップボードを掲げる。

「“観客の風”も負荷。右半維持、預け先の明示。感想は削る」


霧谷カズマ教官が結界柱を一つ叩く。

「秩序の上で迎えろ。――騒ぎにしないを人前で続ける」


如月レイナが横で小さく弧を描く。

「昼は反射光が強い。線二割短、拍は静かに強く。――鳴らない雷で縫いなさい」


「了解。以静制動《Stillness Reins》で受ける。預けは人/場所/言葉/合図」

俺はうなずいた。



入構


アナウンスが響く。

『外部交流戦・事前視察、入構開始。異能犯罪対策連絡会・見学班は外周導線へ』


黒い識別バンドの大人たちが先頭。

「外側帯でお願いします。写真は監査許可エリアのみ」

ヒナタが先導の指を短く出す。


「通信、『北口・二重楕円運用開始・右半維持・門番→ユウナ』」

俺が送る。点。


外部校の生徒団が内側帯へ。

先頭の少年が、青いスカーフを指でさわった。

「城東の斑鳩ノゾム。今日は見学。……だけど、“不倒”が本当か見たい」

影山が耳の後ろを掻く。

「列のまま言え。規則内なら相手する」


斑鳩は肩をすくめた。

「九十秒、抑制環境、リング外干渉なし。攻撃可。君(白羽)が“倒れず”ならそれでいい」


東堂がこちらを見る。

「条件適正。――白羽、外周統制を影山に預け、短試合を受理するか」


「受ける。預け先:外周統制→影山。門番交替《Gate Shift》、三拍で」

一拍強/二拍明/三拍交替――双拍+雷標。

「受けた」

影山が外周の面を取る。列の揺れは出ない。



短試合:白羽ツバサ vs 斑鳩ノゾム


主審の旗が落ちる。

「――始め」


斑鳩は風走。

「旋歩穿突《Pierce Step》!」

足音が消え、肩口の突きが空気だけを押す。


(一で止まる)

泰山不動《Immovable Peak》。

胸で面を立て、衝撃の芯だけを逃がす。

「……抜ける?」

斑鳩の眉が跳ねる。


「角を外す」

以静制動。

半歩の遅れで斜に流し、足元の摩擦へ分散。

結界の光が薄く震え、斑鳩の靴底がきゅと鳴った。


「攻撃の絵が出ないなら――纏いで押す!」

斑鳩の足元に青帯が巻き、流風纏脚《Gale Wrap》で圧が増える。

(膝が来る)

堅忍不抜《Adamant Will》。

膝を抜かず、腰で受け、肩で面を戻す。

呼吸は乱れない。


「……っ、不利だ。安全に降りる」

斑鳩が両手を上げ、一歩下がる。

主審の旗。終了。


斑鳩は息を整え、素直に笑った。

「最弱だと聞いた。嘘だった。

倒せないのに、負けが見える……変な感じだ」

「順番で受けただけ」

「順番?」

「見る→呼ぶ→触る。状況→制約→行動→引き継ぎ先。――戦いの中でも同じ」

斑鳩は小さくうなずく。

「交流戦で、また」


俺は外周統制を影山から受け戻す。

「門番交替、三拍」

一拍強/二拍明/三拍交替――「受けた」



小さな歪み


掲示板下段で、リクトが指を止める。

「偽掲示。――連絡会フォーマット風だけど差し込み箇所が違う」

「騒ぎにしない。『南掲示・偽掲示・流維持・証拠保存→監査』」

俺が送る。点。

ユキナが薄氷で現状保存、東堂が差替指示。


黒い識別バンドの女が一歩前に出る。

「対策連絡会・監察官、御門みかど

――偽掲示の検体、提供を」

東堂がうなずく。

「監査経由で写しを。現物は証拠保全」

御門は目線だけで導線を追い、俺に視線を置く。

「預け先の言語化。――よく訓練されている」


そこへ、掲示上段が一瞬だけ全消灯。

観客がざわっと膨らむ。

「即時収束、双拍で――今」

一拍強/二拍明/三拍交替。

ヒナタの指、ユウナの薄い面、俺の合図が重なり、楕円が一列に吸い込まれる。

「通信、『北掲示・一時消灯・右半維持・連絡→生徒会』」

クロノが送る。点。

御門が低く囁く。

「落としは外からでも内からでも来る。――騒ぎにしないが先」


霧谷が短く告げる。

「運営の再点灯確認。続行」



連絡会の“試問”


御門が名札の裏から小さなカードを取り出した。

「試問。規則内よ。

“赤帯を見た者は、左側通行に切り替えよ”。――視界混入型の偽ルールタグが二枚、どこかに」

リクトが眉を上げる。

「逆指示……右半維持と衝突する」

東堂が頷く。

「見破り→証拠保存→監査。流維持が第一」


「分担」

俺は短く切る。

「ヒナタ、先導で視線誘導。――掲示上は無視の合図を拍で」

「双拍了解」

「ユウナ、音で右半の輪郭だけ通す」

「必要分」

「クロノ、『位置・数・向き』の短文準備」

「三行で」

「アオイ、赤帯の近傍で**救護“見る”**のみ。――触らない」

「出番が無いのが満点」

「リクト、撮影→監査へ。証拠保存」

「やる」


一拍強/二拍明/三拍交替。

俺は雷標+双拍を短く打ち、無視合図を天井に細い線で残す。

観客の視線が右へ寄り、赤帯は目立たない。


「通信、『西回廊・偽赤帯1・流維持・証拠保存→監査』」

クロノ。点。

「『東渡廊・偽赤帯2・流維持・証拠保存→監査』」

点。

ユキナが薄氷で現状保存、東堂が差替を通す。

御門が息を一つだけ吐く。

「正解。――騒ぎにしないは最優先」


「面、戻す」

俺は即時収束で二列→一列を三拍、門番交替で厚みを戻す。

揺れは出ない。



ささやき


レイナが肩で寄り、耳元で小さく。

「“赤”は連絡会の試問でも使うけど、笑う赤は別よ」

「別?」

彼女は上段の横断幕の裏を指先でなぞる。

薄い赤の丸。内側に、小さな口角が笑っている。

「道化の印。――“ルール”で遊ぶ方」

(狂気のゲームマスター。ここまで、来た)


「通信、『上段裏・赤印・現状保存・情報提供→監査』」

俺は感想を削り、短文だけ残す。

御門が即座に反応した。

「持ち帰る。記録は監査経由で共有」


霧谷が目だけで合図。

「騒ぎにしない。続行」

俺はうなずき、拍をもう一度、静かに強く刻んだ。



外部校の“申し出”


斑鳩が列の端から手を上げる。

「白羽、整えの“型”を少し、うちにも教えてくれない?

雷標と双拍、門番交替と即時収束……名前だけじゃ再現できない」


影山が肩で笑う。

「三行通信と三拍だけ覚えろ。――状況→制約→行動→引き継ぎ先。

一拍強/二拍明/三拍交替。

それだけで、半分はできる」


「面は胸で立てる。押さずに受ける。戻り道は消さない」

俺は短く足幅を示す。

斑鳩は目を細めてうなずく。

「順番だね。交流戦で試す」



退場運用


最終案内のチャイム。

人波が一度膨らみ、すぐ細くなる。

「即時収束、双拍で――今」

一拍強/二拍明/三拍交替。

ヒナタの指、ユウナの面、俺の合図。

クロノの短文が落ちる。

「『南出口・混雑・右半維持・門番→影山』」

点。

アオイは空の担架を軽く持ち上げ、桑原先生に預けて戻す。

リクトは最後尾の撮影帯を剥がし、ケースへ戻す。


御門が足を止め、こちらへ。

「報告。

――偽掲示・偽赤帯・赤印、いずれも現状保存→監査で正しく処理。

“騒ぎにしない”が貫徹されていた。

交流戦では、外でも同じことをやりなさい」

東堂が軽く会釈する。

「規格化文書はこちらで整備。共有は許可範囲で」


霧谷が最後に一言。

「秩序は、預かった者の沈黙で立つ。

――見えないままでいい」


夕刻。

横断幕の裏に残った笑う赤を、ユキナの薄氷が封じ、御門のケースに収まる。

レイナが低く言う。

「“彼ら”は、ルールを置き去りにしない。遊びに変える。

――次は、あっちから**“ゲーム”を持ってくる**」


影山が手を鳴らした。

「来いよ。受けの速さで前に出る。

白羽、整える速さ、落とすな」

「鳴る前に届かせる。右半維持、三拍で預ける」

俺は雷標の線をさらに短く想像し、拍を静かに強く刻む。


(預ける。人/場所/言葉/合図――四つで壊さない。

笑う赤が来ても、騒ぎにしないで受け切る)


明日も立つ。

明後日も立つ。

千度でも、万度でも。

立ち続ける。

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