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掲示運用《Bracket Ops》

朝、仮バッジの銀糸を指でなぞる。

(軽い。――重さは自分で乗せる)

耳栓の袋を内ポケットへ。鏡の中の“最弱”に見える顔に、短く頷く。立つ。



食堂


「ツバサ、掲示出た!」

ヒナタがタブレットを掲げて滑り込んできた。

「序列戦の正式カードと、統制の補助枠の配分! 

**ブロックB統制指揮=白羽ツバサ(C)**って書いてある!」


「補助枠の権限、確認する」

クロノが腕時計を弾き、要点を読み上げる。

「動線設計の最終決定、門番配置の裁量、“凪”の申請権(監督承認必須)、合図規格の統一。

評価は『戦技/整備/通信/救護/統制』に反映。異能は微弱出力」


リクトが地図を回す。

「Bブロック会場は第二アリーナ+連絡回廊。交差一つ、片側規制一つ、観客導線の層が二重。

――掲示板周りで混雑が最大になるから、“整えの見せ場”は今日の昼」


「私は救護で見る→呼ぶ→触る。出番が無いのが満点」

アオイがコップを両手で包む。


「音は必要分だけ通す」

ユウナは短く。


「雷標信号《Bolt Beacon》、線短く/拍はっきり。門番交替《Gate Shift》は三拍で1.6〜1.8を維持」

ヒナタが指折り確認する。


(預ける。――人/場所/言葉/合図に“預け”を残す)



講堂前・掲示板周辺


昼のチャイム。掲示板の前に、人の波。

上段に対戦カード、下段に統制補助枠。

《ブロックB:一回戦 影山リク(黒刃) vs 桜庭(花園)/二回戦以降カードは勝者連動》

《ブロックB統制指揮:白羽ツバサ(C)/救護:美園アオイ(C)/通信:斎藤クロノ(C)/

先導:白石ヒナタ(C)/門番補:矢代ユウナ(C)/記録:小早川リクト(C)》


「――混む。右半維持、一列」

俺は短く言って掲示板前の面を作る。

「一列――こちら」

ユウナが肩で薄い面を添え、無音回廊《Silent Corridor》を微で通す。

クロノが二拍で拍を落とし、ヒナタが今の指で列の折り返しを示す。


「通信、短文で回す」

俺は端末に打つ。

『掲示前・混雑・右半維持・門番→ユウナ』

「受領」――東堂の点。


その時、上段右の電子掲示が一瞬文字化けした。

「ツバサ、“? ? ?”って出てる」

リクトが指差す。

(文字化け……偽掲示じゃない。フォントのエスケープ不全?)


「騒ぎにしない。証跡だけ残す」

俺は声を削って通信。

『掲示右上・文字化け・流維持・証拠保存→監査』

ユキナがすぐ来て、薄氷でスクリーンの現状保存。

「凍結ログ取得。――通せ」

東堂が補足する。

「外部校フォントの混入。運営側更新で解消予定。――流れ維持」


周囲のざわめきが一拍遅れて沈み、列は止まらない。

影山が人波の向こうで顎を引いた。

「三拍、出せ」

「預ける」

一拍:注目/二拍:右/三拍:交替――雷標信号《Bolt Beacon》。

「受けた」

影山が前へ、俺が半歩下がる。**門番交替《Gate Shift》**完了。

(1.6。――揺れが出ない)


「掲示、撮影は許可エリアのみでお願いします」

ヒナタが先導の指で撮影帯を示し、リクトがテープを引き直す。

アオイは救護位置で見る姿勢。


「統制指揮って、何するんですか?」

前列の一年が小声で問う。

「“壊さない”を人前で続ける。――塞ぐ/通す/渡す/預ける」

俺は短く答え、面の角度をわずかに変える。

(言葉でも面は作れる)



Bブロック運用ブリーフィング(第二アリーナ控室)


霧谷カズマ教官が簡易図面を掲げる。

「掲示運用の次は、会場流れの初期化。交差導線は北十字、片側規制は西回廊。

整え代表(白羽)が門番を一枚保持し、必要時は預け先を宣言して交替。

非常停止『凪』は監督承認で有効。――以上」


「通信、三行以内。状況→制約→行動→引き継ぎ先」

東堂がクリップボードを叩く。

「感想は削る。合図は規格内のみ」


「救護は出番が無いのが満点。でも見る→呼ぶ→触るは崩さない」

桑原先生が微笑む。


「――新しい“型”、試す?」

神楽坂ユイ先生がこちらを見る。

「即時収束《Quick Merge》。二列→一列を三拍で収束させる整え技。声/指/光を重ねる」


「型、採用。三拍で収束、合図は雷標」

俺が頷く。


如月レイナが肩をすくめる。

「昼は光が薄い。線を短く、拍をはっきり。――“鳴らない雷”、忘れないで」


影山が壁にもたれて顎を引く。

「対面に花園が絡むなら、床の縁が滑る。面で吸え」


「塞ぐ/通す。吸収して渡す。――抱え込まない」

俺は返す。


ユウナが短く。

「音は必要分」


ヒナタは人差し指で一を切る。

「先導、今を短く。指は最小」


リクトが端末を振る。

「誤掲示/転がり物/ベビーカーは証拠保存→監査。騒ぎにしない」


(預け先を増やすほど、壊れない)



第二アリーナ・Bブロック/運用開始


アナウンス。

『これよりブロックB・運用開始。統制指揮は白羽ツバサ(C)』


観客のざわめき。

「A流、右半分で細く」

ヒナタの指が一を切る。

「B流、二拍遅れで広く」

クロノの拍が足元へ落ちる。


俺は門番の位置で面を作る。

「即時収束《Quick Merge》、三拍で――今」

一拍:注目、二拍:右、三拍:交替。

門番交替《Gate Shift》と重ね、二列→一列へ収束。

影山の声。

「受けた」

列は揺れずに細くなる。


「通信、『北十字・収束実施・右半維持・門番→影山』」

点。

(“→誰”を切る)


ステージ裏の通路で、ポスター筒がコロと転がる。

リクトの低い声。

「転がり物・西縁」

「塞ぐ/通す――右半維持。『西縁・転がり物・右半維持・回収→監査』」

点。係員が回収。


数分後、北十字の上空モニタに別ブロックのカードが誤って一瞬表示された。

「表示、混在」

クロノが即座に言う。

俺は短文。

『北十字・異掲示混入・流維持・証拠保存→監査』

ユキナが薄氷で現状保存、東堂が差替指示。

「運営側誤配信。――続行」

(騒ぎにしない。面で受ける)


観客の前列が写真のため寄り、導線が膨らむ。

「即時収束《Quick Merge》、もう一度。――今」

三拍。

ヒナタの先導の指、ユウナの薄い面、俺の雷標が重なり、列が一列へ吸い込まれる。

(合図は預けの印。――光/声/指を重ねる)


ベル。運用前半、終了。



小インシデント:外部校の視察団


通路の端に外部校の視察団が現れ、腕章を見せた。

年長の引率が、整えの動きを食い入るように見ている。

「ツバサ、視線が増える」

ヒナタが肩で合図。

「視線=負荷。規則内で続ける」

俺は頷き、短文を打つ。

『西回廊・視察団・動線維持・案内→係員』

点。

係員が見学用帯へ誘導し、視察団は指定位置で観覧。

(人に預ける)


視察の一人が小さく言う。

「“三拍で交代”……門番の型があるのか」

影山が聞こえるように短く返す。

「門番交替《Gate Shift》。壊さない速さだ」


後半運用:片側規制→救護ハンドオフ


「右側通行維持。――今」

片側規制へ転換。

俺は右側の面を広げ、影山が左で受け。

クロノの拍が落ちる。


「救護位置、見る→呼ぶ→触るで待機」

アオイの声。

「通信、『西回廊・片側規制・右半維持・門番→白羽』」

クロノが送る。

(“→誰”が残る)


観客席から紙パックが落ち、足元を滑る。

リクトの報告。

「落下物・右縁」

「塞ぐ/通す。――右半維持」

俺は胸の面で吸収。

「『右縁・落下物・右半維持・回収→監査』」

点。回収。


先頭で児童連れの保護者が立ち止まり、後列の圧が来る。

(戻り道が消える)

「後衛→門番。――預ける」

ユウナが前へ滑り、肩で面。

「一列。――こちら」

列が細くなり、戻り道が生きる。

**門番交替《Gate Shift》**完了、三拍。


終端で一人が足をひねり、しゃがみ込んだ。

アオイが即座に。

「見る→呼ぶ→触る。――軽度、固定」

「『西回廊・軽度捻挫・固定済・搬送待機・救護→保健』」

俺が送る。

桑原先生が受けに入り、担架の取っ手が同じ高さで上がる。

(背で持ち、腕で支える。崩さない)


ベル。Bブロック運用、完了。



控え通路


紙コップの水が喉を冷やす。

影山が壁にもたれて口角を上げる。

「即時収束《Quick Merge》、気に入った。三拍で吸い込むの、見栄えがいい」

「見栄えじゃない。壊さない形が三拍だった」

「分かってるよ、“不倒くん”。

――数字、どうだ」

クロノがタブレットを傾ける。

「交代平均1.7/収束三拍の成功率98%/最大揺れ-25%/誤掲示・落下物=加点/視察団誘導=加点」

アオイが息を抜く。

「出番が少ない救護、満点に近い音」

「音は必要分」

ユウナは短く。


レイナがこちらに目だけ寄せる。

「昼でも線が見えてた。夜の雨でどうするか、次で試す」

「線を短く、拍を確かに。――倒れない合図にする」

「それでいい」


東堂がクリップボードを閉じる。

「Bブロック統制:適正。序列カード確定掲示(最終)は夕刻。

白羽、補助枠の指揮は上位挑戦にも継続。“騒ぎにしない”を人前で続けること」

「はい」


氷川シオン教頭が一度だけ風を見る。

「秩序は、預かった者の沈黙で立つ。――見えないままでいい」

(見えない秩序。――壊さなかった証拠)


通路の先で、皇城カイが立ち止まり、短く言う。

「基礎は充分だ。次は戦技が上に立つ。――壊すな」

背中は、相変わらず真っすぐだ。


夕刻・掲示再確認


掲示板に最終カードが貼られる。

《Bブロック準決勝:影山リク(黒刃) vs 南条(機械研)/勝者は**上位挑戦(S帯予備)**へ》

《統制補助枠:白羽ツバサ(C)=会場整え指揮続投/合図規格:雷標信号《Bolt Beacon》/

整え型:門番交替《Gate Shift》/即時収束《Quick Merge》》


「――次、夜かもしれない」

ヒナタが空を見上げる。

「雨もありえる」

クロノが雲量を指で弾く。

「線、短く。拍、確かに」

レイナが頷く。

「鳴らない雷を、遠くまで」

「救護は出番が無いのが満点」

アオイは笑う。

「音は必要分」

ユウナは目を細める。

「係員も預け先」

リクトが指で“→”を描く。

「“→誰”、切るの忘れないで」


(預ける。渡すで終わらず、合図を残す。

人/場所/言葉/光――四つで壊さない)


夜雲の端で、雷が三拍だけ遠くに光る。

一拍:注目/二拍:右/三拍:交替。

合図は届く。

次は――準決勝の運用へ。

壊さずに、前へ進む。


明日も立つ。

明後日も立つ。

千度でも、万度でも。

立ち続ける。

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