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13/20

屋外最終《Outdoor Final》

朝、仮バッジの銀糸を指で触る。


(軽い。――重さは自分で乗せる)


耳栓の袋を内ポケットへ。鏡の中の“最弱”に見える顔へ頷いた。立つ。



食堂


「ツバサ、今日が公開最終!」

ヒナタがタブレットを掲げる。

「場所はアリーナ屋外併設ステージ、観客動線は二重環状+連絡通路!」


「風と環境音が増える。

評価は昨日と同じ『戦技/整備/通信/救護/統制』だけど、今日は統制・総合の決定戦」

クロノが要点だけ落とす。


リクトが地図を回す。

「入口C→半円広場→ステージ前→連絡通路→出口Aの楕円ルート。交差点は二箇所。

片側規制区間が一つ。救護ハンドオフはステージ裏」


「私は救護で見る→呼ぶ→触る。出番が無いのが満点」

アオイが紙コップを包む。


「音、必要分だけ通す」

ユウナは短く。


「非常停止キーワードは**『凪』**。越えたら言う」

ヒナタが指折り確認。


(凪は最後。――使わずに通す)



屋外ステージ裏・ブリーフィング


霧谷カズマ教官が風の向きを見る。

「公開最終。風圧・騒音・視線は負荷だ。異能は微弱出力。越えたら『凪』。

“整える”の合図は声/手信号/視覚ビーコン。乱用しない」


東堂シノがクリップボード。

「通信規則・上級:状況→制約→行動→引き継ぎ先。

『広場西・人だまり・右半維持・門番→B』――感想は削る」


神楽坂ユイ先生が指で空を三回切る。

「雷標信号《Bolt Beacon》は三拍。一拍:注目/二拍:右/三拍:交替。光は線、音は微。壊さない」


レイナが横目で。

「昼だと光が薄い。線を短く・拍をはっきり。――できる?」

「やる。預けの合図に」

「いいね」


氷川シオン教頭が締める。

「秩序は預かるもの。預かれないなら、預け先を示せ。――以上」


アナウンスが響く。

『これより**審査会・二次公開最終「統制・総合」**を開始します』


観客の波がざわめきを上げ、風が布をはためかせた。



第一区画:入口C〜半円広場(交差導線)


先導=ヒナタ。門番A=俺。門番B=影山リク。通信=クロノ。

後衛=ユウナ。救護=アオイ。記録=リクト。


入口Cから観客の列が流れ込む。風が右から左へ。


「A流、右半分で細く」

ヒナタの指が一を切る。


「B流、二拍遅れで広く」

クロノの拍が足元へ落ちる。


俺は面を作り、肩で押さずに胸で受ける。

影山が向こうで顎を引く。

「三拍、合わせろ」

「預ける」


一拍:注目――天井フレームの線が点く。

二拍:右――右の薄線が伸びる。

三拍:交替――俺が半歩下がり、影山が前。**門番交替《Gate Shift》**完了。

「受けた」


前列の保護者が写真エリアへ寄りすぎる。

ユウナが滑って薄い面を作る。

「一列。――こちら」

声は小さいのに通る。列が自然に細る。


「通信、『広場東・人だまり・右半維持・門番→ユウナ』」

俺が打つ。

「受領」――東堂の点。


リクトが低く。

「風速、東から3m。旗が右へ倒れ気味」

「右半維持、光線短く」

クロノが拍を二度落として調整。


コロン――

広場の端から風船が飛び、導線の縁を転がる。

「転がり物・右縁」

リクトの報告。


「塞ぐ/通す。――右半維持」

俺が胸の面で吸収し、足を止めずに流す。

「通信、『広場東・転がり物・右半維持・回収→監査』」

点。係員が回収へ。


観客席のひそひそ。

「今の、止まらなかった」「門番が壁にも橋にもなるんだな」

(見せるためじゃない。壊さないために短く)


ベル。第一区画終了。



第二区画:ステージ前(片側規制+交差)


ステージ正面の幕が風でふくらむ。

係員がロープを押さえる。


「右側通行維持。――今」

ヒナタの指示。

俺は右側の面を広げ、影山は左の受けに回る。

クロノの拍が落ちる。


「光薄い」

レイナが眉を寄せる。

「線、短く。拍、はっきり」

俺が二拍で右、三拍で交替を示す。雷標信号《Bolt Beacon》は微。

「受けた」

影山の入りが速い。1.6に近い。


その時、上で「バサッ」。

ステージ脇の横断幕の端が外れて垂れる。

観客席がざわっと膨らむ。

(落ちれば危険)


「証拠保存→監査。――頭上注意」

俺は声を削って通信。

『ステ前西・幕弛み・頭上注意・維持→監査』


ユキナがすぐ来て、薄氷で弛みを仮固定。

「落下防止・現状保存。――通せ」

声は冷たいが、通る。


「右三・左二の比率で緩め」

クロノの拍が細くなる。

列は止まらない。


アオイが救護位置で見る姿勢。

「危険域、通過。救護、待機」


ベル。第二区画終了。



第三区画:連絡通路〜出口A(救護ハンドオフ/通信試験)


連絡通路は狭く、風が通り抜ける。

観客の声が重なり、ざわめきが増幅する。


「音、通す」

ユウナが無音回廊《Silent Corridor》を微で通し、ざわめきの毛羽を丸める。


通路中央、見学の一年がしゃがみ込みかける。

「怖い……」

声が震える。


「ここに立つ。――通れる」

俺は半歩前へ。面で塞ぎ、通す。

「通信、『連絡通路・一時詰・右半維持・門番→影山』」

「受けた」

影山が半歩前。**門番交替《Gate Shift》**完了。三拍。


その瞬間、上空ビジョンの通信バーが砂嵐。

観客の声が一段上がる。

(ノイズ。――試験だ)


「凪?」

ヒナタが小声。


「不要。右半、維持。――預けを残す」

俺は短文を打つ。

『連絡通路・通信不調・右半維持・連絡→生徒会』

東堂の点。回復。


通路終端で、ベビーカーが係員と重なり、導線が膨らむ。

「後衛→門番」

俺は後方へ預けを宣言。

ユウナが前へ、肩で薄い面を作る。

「一列。――こちら」

ベビーカーが係員に預けられ、側道に誘導。

「通信、『出口手前・ベビーカー誘導・側道通過・誘導→係員』」

点。

(人/場所/言葉に預ける)


ベル。統制・総合(屋外)終了。



控えテント


紙コップの水が、喉を冷たく通る。

影山が壁にもたれ、口角で笑う。

「昼の光でも三拍が読めた。交代1.6、維持したな」

「受けが速い」

「謙遜じゃなく、預け方がはっきりなんだよ。『→誰』って切ってくる」

クロノがタブレットをちょんと叩く。

「交代平均1.7/最大揺れ-24%/幕弛み“騒ぎにしない”加点/

転がり物・ベビーカー対応加点/通信不調時維持加点」

アオイが目を細める。

「出番が無い救護って、満点に近い音がするね」

「音は必要分」

ユウナの一言は、今日も短い。


神楽坂が笑う。

「雷標信号《Bolt Beacon》、線がきれい。――鳴らない雷は上品」

レイナが肩をすくめる。

「壊さない雷って、じつは一番難しいのよ」

こちらを見て、指で小さく弧を描く。

「三拍、崩さなかった。次は距離を伸ばしても崩さないこと」


東堂がクリップボードを閉じ、こちらへ。

「白羽。預けの宣言、明確。人/場所/言葉に加え、合図が機能していた。

――公開最終、統制・総合:通過。評価結果は後刻掲示。騒ぎにしないを人前でやれた。以上」


「……はい」

胸の奥で何かが着地する。


背後で、氷川教頭が風を一度だけ見る。

「風が見えなかった。それでいい」

(見えない秩序。――壊さなかった証拠)


テントの外、皇城カイが横目だけ寄こす。

「整えが基礎を作る。――勝利はその上に立つ」

短く言って去った。



退場導線


「ツバサ、決定戦、通過だよ!」

ヒナタが跳ねる。

「次は序列戦のカード発表。統制の評価が、出場枠に響くって」

「数値は提出済み」

クロノが表示する。

「門番交替《Gate Shift》1.6〜1.8/揺れ-24%/“→誰”の明示率**100%」


「今日の“預け”、きれいだった」

ユウナが小さく頷く。

「救護は出番が無くてよかった」

アオイが息を抜く。

「ベビーカー、良い預け先だったね」

リクトが笑う。

「係員も“人”だもの。預け先」


(預ける。――渡すで終わらず、合図を残す。“整える”は、目立たない光で十分だ)


雲の切れ間で雷が三拍だけ、遠くで光る。

一拍:注目/二拍:右/三拍:交替。

合図は届く。

次は――序列戦のカードへ。


明日も立つ。

明後日も立つ。

千度でも、万度でも。

立ち続ける。

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