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二次公開《Public Stage》

朝、仮バッジを指でなぞる。銀糸の「仮」は軽い。


(重さは、自分で乗せる)


耳栓の袋を内ポケットへ。鏡の中の“最弱”に見える顔へ、短く頷いた。



食堂。


Cテーブルに集合すると、ヒナタがタブレットを高く掲げた。

「ツバサ、審査会・二次は“公開評価”だって! 講堂じゃなくてアリーナ!」


「観客は生徒・教職員・一部保護者。立見エリアあり、写真は監査許可エリアのみ」

クロノが要点を淡々と読み上げる。


リクトが地図を拡大する。

「導線は二重環状。外側が観客、内側が出場者。

“統制・総合”は交差導線+片側規制+救護ハンドオフの複合だって。タイムは十五分」


アオイは紙コップを両手で包み、

「救護は“見る→呼ぶ→触る”。出番が無いのが満点だからね」と笑った。


ユウナは短く、「音、通す。必要分だけ」。


「あと、非常停止キーワードは今日も**『凪』**ね」

ヒナタが指折り確認する。


(凪は最後の手段。――使わずに通す)



アリーナ側通路。

白いテープで導線が描かれ、上空のビジョンに審査レイアウトが出ている。


「開始前ブリーフィング。全員、前へ」

霧谷カズマ教官の低い声。


「二次は公開。観客のざわめきと視線は負荷と見なす。異能は微弱出力。越えたら『凪』。

――“整える”の合図は、声/手信号/視覚ビーコンを使え」


東堂シノがクリップボードを掲げる。

「通信規則・上級を再確認。状況→制約→行動→引き継ぎ先。

今日は“引き継ぎ先”の明示を厳しく見る。『門番→B』『救護→保健』のように。感想は削る」

「了解」

声が揃う。


「最後に合図の統一」

神楽坂ユイ先生が指先で空をなぞる。

「雷標信号《Bolt Beacon》は三拍。

一拍:注目/二拍:右/三拍:交替。――光は線で、音は微。壊さない」


如月レイナが隣で小さく顎を引く。

「“鳴らさない雷”、ちゃんと練習した?」

「使う。預けの合図に」

「いい答え」


氷川シオン教頭が締める。

「秩序は誰のものでもない。守る者が、その瞬間に預かる。――以上」


観客席がざわつき、開会チャイム。

アナウンスが響く。

『これより、**審査会・二次公開評価「統制・総合」**を開始します』



第一区画:交差導線(公開)


先導=ヒナタ。門番A=俺。門番B=影山リク。通信=クロノ。

後衛=ユウナ。救護=アオイ。記録=リクト。


観客のざわめきが、床を細かく震わせる。


「A流、右半分で細く」

ヒナタの指が一を切る。


「B流、二拍遅れで広め」

クロノの拍が足元へ落ちる。

俺は面を作り、押さずに受ける。


影山が向こう側で顎を引いた。

「交代の三拍、合わせろ」

「預ける」


一拍:注目――視覚ビーコンが天井で細く点る。

二拍:右――右側の光線が細く伸びる。

三拍:交替――俺が半歩下がり、影山が前へ。門番交替《Gate Shift》完了。


「受けた」

影山の声は短く、揺れない。列は揺れずに入れ替わる。


客席の前列から、ひそひそ声。

「今のって合図だけで交代した?」

「速っ……」


(見せるためじゃない。壊さないために短く)


十字の角で、立ち見の一年が導線に寄りすぎる。

ユウナがすっと前に滑って、肩で薄い面を作る。


「一列。――こちら」

声は小さいのに、列が自然に細る。


「通信、『北十字・人だまり・右半維持・門番→ユウナ』」

俺が短文を送る。


「受領」東堂の点が灯る。


(人に預ける)


その時――


「矢印、左を指してる」

リクトが素早く指差す。


(誤向……また混ざったか)


「証拠保存」

ユキナが氷の薄刃で矢印を凍らせ現状固定。


俺はすぐ打つ。

『北十字・矢印誤向・右半維持・監査→生徒会』


観客席のさざめきが一段上がるが、すぐ落ちる。


(騒ぎにしない。預けて、面で受ける)


ベル。第一区画終了。


影山が横目で笑う。

「三拍、1.6。維持してんな」

「受けが速いから」

「口が減らねぇ」



第二区画:片側規制+救護ハンドオフ(公開)


理科棟側の渡り廊下。中央に工事コーン、片側規制の想定。

アナウンスが被さる。

『本区画では救護のハンドオフ評価を行います』


「右三、左二で流す。――今」

ヒナタの指示。


俺は右側に面を広げ、アオイは端で見る→呼ぶ→触るの待機。

クロノの拍が短く落ちる。


コロン――。

観客席の端からポスター筒が転がり、導線の縁で止まった。


「転がり物・右縁」

リクトの報告に、俺が短く。

「塞ぐ/通す。――右半維持」


ユウナが無音回廊《Silent Corridor》を微で通し、ざわめきの毛羽を丸める。

俺は屈まず胸で面を作って列を流しつつ、ヒナタが指で迂回の幅を示す。

「通信、『理科前・転がり物・右半維持・回収→監査』」

東堂の点。係員が許可エリアから回収に入る。


(預け先=場所(右半)/人(監査))


先頭列の一人が足元を取られてしゃがみ込む。

アオイがすぐ寄る。

「見る→呼ぶ→触る。――軽度、固定」

「通信、『理科前・軽度捻挫・固定済・搬送待機・救護→保健』」

俺が打つと同時に、桑原先生が保健腕章で前に。

「受けます」

預けが滑らかに決まる。


「門番交替、後衛→前」

列の末端が膨らむ気配に、俺は後方へ預けを宣言。

ユウナが滑るように前へ肩を入れ、俺は一歩下がって受けに回る。

門番交替《Gate Shift》、三拍内。

観客席のざわめきが小さく波打って、また沈んだ。


ビジョンの隅で通信バーが一瞬、砂嵐。

クロノが即時に落とす。

「通信不調・右半維持・連絡→生徒会」

点。回復。


(凪は使わない。騒ぎにしない)


ベル。第二区画終了。



第三区画:交差→片側→救護の短縮連結(公開)


「最後、連結パート。三分で三手」

神楽坂の声がスピーカーから落ちる。


俺は呼吸を一つ整え、レイナに目で合図。

彼女は指先で小さく弧を描く。


雷標信号《Bolt Beacon》――一拍注目/二拍右/三拍交替。

光の線だけが天井を走り、観客のざわめきが一拍遅れで静まる。


(合図は預けの印。――遠距離にも届く)


「A流細く/B流広く。――交代」

三拍。

俺と影山が入れ替わり、列の揺れが出ない。

「右側通行維持。――今」

片側規制へ転換。

「救護→保健。――ハンドオフ」

固定具が締まり、担架の取っ手が同じ高さで上がる。


(背で持ち、腕で支える。崩さない)


ベル。統制・総合、終了。

アナウンスが重なる。

『「統制・総合」公開評価を終了します。観客の皆さまは誘導に従い退場してください』



控え通路。

紙コップの水が喉を流れる音まで、今日は静かに感じる。


影山が壁にもたれて、口角だけ動かした。

「三手、滑りよかったな。“交代→右→救護”」

「合図が届いた」

「雷女の線は反則気味だが、微ならセーフだ」


レイナが肩をすくめる。

「壊さない線は反則じゃないでしょ。鳴らしてないし」


クロノがタブレットを傾けた。

「交代タイム平均1.7/最大揺れ-23%/誤掲示対応=加点/転がり物=加点/

通信不調時の維持=加点。数字は出てる」


「数字、安心する」

アオイが小さく笑う。


ユウナは短く、「面、きれい」。


通路の奥、氷川教頭と東堂が短く言葉を交わし、こちらに歩いてくる。


東堂がクリップボードを閉じた。


「白羽。預けの宣言、明確。合図も短い。――二次・統制総合、通過。公開最終(決定戦)に招集する」

「……はい」

喉の奥で、何かが静かに着地した。


氷川教頭が視線を一度だけ巡らせる。

「秩序は、守ったときだけ見えなくなる。――今は、見えなくていい」


(見えない秩序。――壊さなかった証拠)


通路の端、皇城カイが立ち止まり、こちらを一瞥する。

「“整える”は前座ではない。勝利の基礎だ」

それだけ言って去った。


(基礎。――土台でなら、いくらでも立てる)



夕刻、アリーナ外の風。


ヒナタが弾む声で肩を突く。

「ツバサ、公開最終だよ! 次は屋外併設ステージだって!」


「屋外……風と音が増える」

クロノが短く分析する。


「雷標信号、距離調整が必要」

レイナが頷く。


「線を短く、拍を確かに。倒れない合図を、もっと遠くへ」

「通信は状況→制約→行動→引き継ぎ先、忘れない」

リクトが指で順番を描く。


「救護は出番が無いのが満点」

アオイが手のひらで空のコップを温める仕草。


「音は必要分だけ」

ユウナの一言は、今日も短い。


(預ける。渡すで終わらず、合図を残す。“整える”は、目立たない光で十分だ)


夜の雲が低く、遠くで雷が三拍だけ鳴る。

一拍:注目/二拍:右/三拍:交替。

合図は届いた。

次は――屋外でも、壊さない。


明日も立つ。

明後日も立つ。

千度でも、万度でも。

立ち続ける。

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