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怖い想像。  作者: 逃げ水
11/15

鏡の住人

 「あっ、ごめーん!」


私の投げたボールは制球が乱れ、友人の美樹のグラブを弾いて後方へと飛んでいった。


「もぉー!」


不満を叫びながら美樹はボールを取りに走った。


学校の昼休み、校庭の隅っこでキャッチボールをして過ごすのがソフトボール部である私たちの日課だ。


脇には一緒にお弁当を食べる仲であるサキとヨウコがおしゃべりしながら座っている。2人は部活も違ったが、私たちは気が合い、お昼の後はこうやって私と美樹のキャッチボールを見ながら4人でワイワイおしゃべりをしていた。


「いくよー!」


奥にボールを取りに行った美樹が遠くから叫んで右腕を目一杯振り下ろした。


「ナイスー!」


見事な返球が私の元へ返ってきた。


「ねえ、なんか最近面白いことないのー?」


ヨウコが切り出した。


「あったら話してるって。」


私はキャッチボールを続けながら答えた。


「毎日一緒にいるもんねー。」


サキも同調した。


「じゃあ、みなさん。ここらでこの学校の怖い噂とかどうっすか?」

ニヤニヤしながら美樹が軽い調子で入ってきた。


「えっ、そんなんあんの?」

「うち怖い話ムリー。」

「聞きたいような聞きたくないようなだわ。」

私たち3人はまちまちな反応をした。


「ま、もうすぐ夏ですし。」

美樹は楽しそうな表情を浮かべた。


「で、なんなん?」

ヨウコが追求した。


「鏡の住人って聞いたことある?」

美樹が話し始めた。


『いや?』

3人は質問に答えながら聞き入った。


「実は鏡の中には鏡の住人たちがいるらしいのよ。その住人たちは鏡に映った者の姿をしているの。つまり私たちと鏡に映っている私たちは実は別人で、鏡に映ってるのは私たちの姿をした鏡の住人ってことなんだけど。」


「鏡の中はパラレルワールドってこと?」

私が挟んだ。


「まあそんな感じよ。」

美樹が続けた。


「鏡に霊が映ったとかって言うじゃない?あれも鏡の住人が映り込んだんじゃないかってゆう話もあるのよ?」


「マジ?で?この学校との繋がりは?」

ヨウコが先を聞きたがった。


「でね。鏡の住人はこっちの世界の自分と鏡の世界の自分を入れ替えることを狙ってるんだって。それでね。18時ごろにこの学校の鏡を使って合わせ鏡をすると異変が起こって入れ替えられちゃうことがあるらしいよ。」

美樹が話終えた。


「えー、なにその話。」

サキはあんまり興味を持ってなさそうだった。


「入れ替えられたらどうなんの?鏡の世界ってどうなってんの?」

私は少し踏み込んだ質問をした。


「さあ?狭いんじゃない?良くはなさそうだよね、入れ替わろうとするぐらいだし。」

美樹は適当に返してきた。


「学校のどの鏡でもいいの?18時ってまだ残ってる人もいる時間よね?」

ヨウコは食いつき気味だった。


「その時間帯だったら被害者が出てもおかしくないよね?所詮噂って感じね。」

サキはこの手の話にありがちな信憑性のなさを指摘した。


「どこの鏡かってゆうのは特に聞いてないわね、どこでもいいんじゃん?でももしかしたらもう被害に遭ってる人が結構いたりして。もしかしたらこの中にすでに入れ替わった鏡の住人がいるかもよ〜?」相変わらずのイタズラな表情で美樹がおどけた。


「ほんとにあんたって子は。」

私は美樹のお調子者ぐあいに笑った。


「ねえ、今日の部活終わりちょっと試してみようよ。」

美樹が言った。


「えー、やるのはなんかやだなぁ。」

私はこういった類のものをやるのはちょっと苦手だった。


「私はパス。その時間まで待ってるのめんどうだし。」

サキは部活をやってないので断った。


「うちも何時まで部活あるかわからんし今日は辞めとくー。」

ヨウコも部が違うこともあって食いついてはこなかった。


「なあんだ、ちょっとやってみたかったんだけどなー。」

美樹はつまらなそうにそんなことを言っていた。


すると学校の予鈴が鳴ったので、私たちは教室へと戻っていった。


その日の放課後だった。

部活が終わって制服に着替えて帰る時だった。


「帰ったら英文の宿題やんなきゃ、めんどうだわー。」

と私が愚痴をこぼすと


「えっ?そんなんあったっけ。うち教科書とか置き勉してきちゃった。」

美樹が反応した。


「うわー。橋口に怒られるよお?」

私は美樹を茶化した。


「他の教科ならほっとくんだけどな〜、ねえ取り行くから着いてきてよ。」

美樹がそう言うので、私たちは教室に取りに行くことにした。


夕方になると校舎はガランとしている。まだ部活をやっている生徒がいたり先生方がいるが、特定の教室や職員室にいるため、普段の教室はそんなものなのだ。これはこれで独特の雰囲気がある。


そんなことを思いつつ、美樹の用を済ませると、私たちはトイレに寄った。


するとそこで美樹が

「ねえ、今日昼休み話したやつちょっとやってみない?」

と誘ってきた。多分トイレの鏡を見て思い出したのだろう。時刻は18時を10分ほど過ぎたぐらいだった。時間もちょうど良いってゆうのもあったのかもしれない。


「ええ〜やるのお?」

怖いとゆうか、私はそうゆうのをやるタイプではないのだ。


「ちょっと雰囲気味わってみようよ。」

「ほんとに好きねえ。」


私は呆れながらも付き合うことにした。


「で、どうやってやるの?」


「ちょっと待って、鏡待ってくる。」


女子高生ってゆうのは持ち歩く用の手鏡の他に、ロッカーにも手鏡より少し大きいサイズ鏡を入れておくものなのだ。自分のかわいさチェックに余念がない生き物なのである。


「お待たせ。あとはこの鏡を使って合わせ鏡をするだけ。これを何回か繰り返すの。」

そう言って美樹は持ってきた鏡とトイレの鏡を合わせ始めた。


「異変って何が起こるの?」

私が美樹に尋ねた。


「さあ。」

美樹が鏡を覗き込みながら返事した。


「そこわかんないの?」

私はこの類の話のツメの甘さを感じた。


「ま、なんか不思議が起こるんじゃない?」

美樹は美樹で適当だな、そう思った。


「ちょっとやってみる?」

美樹がそうゆうので私もやってみることにした。


合わせ鏡には何人もの自分が映っている。扉式の鏡などで見たことはあるがそれと同じ光景である。しかしそれだけで特別不思議なことはない。


私は美樹と交代で2〜3回やってみたが、何かが起こることはなかった。トイレの雰囲気も特に変わったことはない。ま、噂なんてゆうのはそんなものだ。


「ま、そうそうなんか起こるなんてないよね。」

私はそう言って誰もいない個室を覗いたりした。もちろん何かを期待したわけではない。美樹が試している最中の暇つぶしだ。


「まあそうだよね〜。」

美樹も強く期待してたわけじゃないんだろう。ただやってみるってゆうのが彼女なのだ。




 美樹は合わせ鏡に映った自分、奥の方に見える自分、その他鏡にうつる部分を色んな角度から見るようにしていた。


特別期待していたわけではない。ただ色々試してそれを終えると満足するのだ。何か起こったら面白おかしく報告する、何も起こらないならその結果を報告するだけである。ただ、何か起こったら楽しいな〜、そんなふうに思っていた。


「そろそろ帰る〜?」

友人がそんなことを言うが、


「もうちょっとだけ。」

と美樹は再び鏡を覗いた。相変わらず何重にも重なった自分が見える。そろそろこのぐらいでやめとくか、そんなふうに考えた時だった。何人目の部分の自分だろうか、少し奥の方に映った自分がゆらっと動いたように見えた。えっ?と思ってそこを注視すると、他に映る自分と違う動きをするはずのないのにその自分だけが動いた。そしてこっちを見てその子はニヤッと笑った。


「あっ。」


美樹が間の抜けた声をあげた。


 「ん?何か起こった?」

美樹の声に反応して私は美樹に聞いたが、その時だった。


廊下から足音が聞こえて、

「誰かいるのかー?」

男の人の声が聞こえた。


「あっ、やべっ田口だ。」

声の主は隣のクラスの担任の先生だった。


怒られるようなことはしてないのだが、遅い時間の校舎で見つかるとなんか言われそうな気がしてヤベっと思った。


「あっ、私たちでーす。」


「なんだぁ、まだいたのか。そろそろ教室閉めるぞぉ?」


「あっ、はーい。忘れ物取りにきただけなんで。」


「じゃもう一回りしてきたら閉めちゃうからなぁ。」

そう言って田口先生は歩いてった。


「だってさ、美樹。そろそろ行こうか。」

私は美樹に促した。


「あっ、うん。そうだね。」

美樹は一瞬ほうけていたが、すぐに私の声に反応し、カバンを持った。


「やっぱ噂はこんなもんだよねー。まあなんか起きても困るけど。」

と私たちは笑いながら帰っていった。




次の日、昼休みにまたいつもの校庭の隅に向かった。


「昨日ね、美樹が話してた鏡のやつ試してみたんだよ。」

と私がサキとヨウコに話した。


「えっ?マジでやったの?どうだった?」

ヨウコが聞いてきた。


「特になんも起こらんかった。」

と私。


「あんたらもよくやるよー。」

とサキが笑った。


「あっ、ごめん。今日うちグローブ忘れた。」

美樹が言った。


「マジ?部活どうすんの?」


「部活は学校にあるやつ貸してもらうわ。今はいい感じにワンバンさせて投げて。」


「しょーがないなー。」

そんな会話を交わして我々はいつもの配置に落ち着いた。


「じゃあ、いくよー。」

私はワンバンさせて、美樹にボールを投げた。


「オッケー。」

美樹はボールを両手でキャッチすると左手に握り直して、私に投げ返した。


そうしてまた私たちはいつも通りの時間を過ごした。




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