第5話
○田舎新聞社の駐車場
<主要登場人物>
・渡辺=新聞記者
・助八=運転手
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真夏の炎天下、駐車場で待機している取材車に駆け込む渡辺。
渡辺「暑い暑い暑い!」
車に座る渡辺。
渡辺「うわっ! 寒い、寒いよ。」
助八「そーすかー。だって外、暑いじゃないですか。
今年一番の暑さっていいますからねー。」
渡辺「って、お前が一番暑苦しいんだよ。」
助八「なんかいいましたかー?」
渡辺「いいから、早く車だして。」
助八「へいへい。」
しばし無言。
渡辺「って、何やってんだよ? 早く出してよ。」
助八「そんな事言ったって、ナベちゃん、行く場所言ってないじゃないすかー。」
渡辺「ナベちゃん、ってお前気安いよ! 運転手のくせに!」
助八「あー、職業差別だー。いけないんだー、新聞記者のくせに!」
渡辺「お前、いや、あなたにそんな事言われる筋合いないよ!」
助八「だって、ほらー。本当はあっしは、カメラマン希望だったんすよー。
採用されてたら、ナベちゃんといっしょに現場に飛んでたかも
しれないのにー。」
渡辺「飛んでんのは、お前の頭だ。」
助八「なんか、いいましたかー?」
渡辺「ううん、ううん。言ってない。何も言ってない。って言うか早く出してよ!」
助八「だーかーらー、どこ?」
渡辺「県警! 県警本部だよ!」
助八「おおっ! 県警本部! それじゃあ、凶悪な殺人事件か、凶悪な誘拐事件か、
凶悪な恐喝事件か、凶悪な汚職事件かなんかすっかー?
何かわくわくするなー。」
渡辺「ちがうよ。横断歩道で転んだ80才のおばあさんを95才のおじいさんが
助けたって言う時事ネタの取材。」
助八「やだなー、ナベちゃん。それシャレのつもりー? つまらないよー、
そのギャグー。」
渡辺「......何が?」
助八「95才のおじいさんのジジネタって、じじいに引っ掛けたネタなんでしょー?
つまらないなー。」
間。
渡辺「いいや、俺、チャリで行くわ。その方が地球にやさしいし。」
車を出る渡辺。
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○国道沿いの一角
<主要登場人物>
・渡辺=新聞記者
・鷺宮=<元>陸上自衛隊からの選抜ユニットメンバー
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国道沿いの一角にいかにも不審車風の車両が停まっている。
その横道を炎天下の中、汗をかきながら自転車を漕ぎ、通りすぎる渡辺。
車内には黒装束の一団。
主犯格と思われる首領風の人物が口を開く。
鷺宮「我々が集めた情報を分析して判明した、収集すべきターゲットは、あと2名。
両方ともこの街にいる。手抜かりなく、素早く、迷わず、実行する。」
その言葉に全員うなずく黒装束の一団。
鷺宮「我々の行いは世界のため、世の中のためだ。」
悟りを開いたような、固い意志で自分にも語りかける鷺宮。
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○県警受付
<主要登場人物>
・渡辺=新聞記者
・婦警の神子
・婦警のミサ
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汗をふきながら渡辺入ってくる。
渡辺「何でこんな蒸し暑いのに、自転車で移動しなきゃいけないんだ。
失敗したー。......自転車での移動って、結構身体につらいなあ。
たしかに地球にやさしいけれど、俺の身体にはやさしくない。」
受付に座る婦警の神子。その奥に婦警のミサ。
渡辺「すみません。田舎日報の記者の渡辺ですけど、取材に来ました。」
神子「あっ、はいはい。田舎日報さんですねー。何の取材ですか?」
渡辺、奥に座る婦警のミサの事が気になり、チラチラのぞく。
神子「田舎日報さん、何の取材ですか?」
渡辺「えっ? あっ、はい。80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた
ニュースの取材です。」
渡辺、相変わらず婦警のミサの事が気になる。
神子「えっ? 80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた?
あっー、その件ですね。報道資料今、出しますからね。」
渡辺、相変わらず婦警のミサの事が気になる。
神子「はい。田舎日報さん。詳細はここに書いてありますからね。」
渡辺、婦警のミサの事が気になりながら資料を受け取る。
渡辺「あっ、ありがとうございます。」
神子「それから、田舎日報さん。
80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた、ではなく
95才のおじいさんが80才のおばあさんを助けた、ですからね。
情報は、正確に、ですよぉ。」
渡辺「えっ? 80才のおばあさんが95才のおじいさんがを助けた?」
神子「......いいですから。はい。報道資料、渡しましたからね。資料通りにちゃんと
書いてくださいねー。」
渡辺「......あ、どうも、ありがとうございます。」
渡辺、婦警のミサの事が気になりながら、出ていく。
神子「......何よ。ミサの事ばっかり見てさ。因縁つけて、逮捕しちゃうぞ。」
ミサ「......どうしたの? 何かあったの?」
神子「まったく、どこがいいのかねー?男ってわからんわ。」
ミサ「何が?」
神子「なんでもないー。」
ドアの手前で立ち止まる渡辺、スマホを手にする。