第3話
○田舎の警察署・ロッカールームにて
<主要登場人物>
・婦警の神子
・婦警のミサ
・婦警のウタ
・婦警のお局さん
* * * * * * * *
朝。
ものすごい勢いで警察署のロッカールームのドアを開ける婦警の神子。
中には婦警のミサが着替えている。
神子「あーあ、最悪、マジ最悪。」
ミサ「どうしたのー?」
神子「ほんとにもう、昨日さー、うちの実家の仕事にかり出されちゃってさー。」
ミサ「あー、あんたんとこの実家ー。大変よねー、神社で。」
神子「そーよ、ホントに。私一応公務員で副業禁止されてるのにさー、
何いってんだ、これも一般市民のためだ、協力しろって、
うちのオヤジがさー。ホントにうるさい。」
ミサ「意外とあんた、神子の姿にあってるわよねー。」
神子「だって、そりゃ、そうよ。うちの実家、神社だもん。神子の服、
3つの頃から着てるんだから。私、結構似合うのよー。
あっ、そう言えば、あなたの実家も毎週日曜日、忙しいんでしょう?」
ミサ「そうよ、そう。うちもそう。うちのお父さん、神父でしょー。
だから毎週日曜日、教会でミサがあるから、私も大変なのよー。」
神子「お互い大変なのねー。」
ミサ「ちょっと。」
神子「何?」
ミサ「私には聞いてくれないの?」
神子「何が?」
ミサ「服よ。服! 私があなたの巫女姿のネタふったんだから、あんたも服の
ネタ聞きなさいよねー。」
神子「服? ......えーっ? あんた神父さんの服、着てるの?
男の服着るんだ! あんたそう言う趣味あったんだー。」
ミサ「な、なにいってんのよ! 違うわよ!
そんなわけないじゃない! 私がミサに着ていく服はね......」
婦警のウタ(私服)入ってくる。
ウタ「あーっ! むかつく! むかつくー! 頭に来るーっ!」
神子「あら、どうしたの?」
ミサ「朝からまた今日は絶好調ねえ。」
ウタ「絶好調も何も、ないわよ! 今日は朝からひどい目にあったわ!」
神子「何?」
ミサ「なんかあったの?」
ウタ「チカンよ! チカン! 狭い乗り物の中でチカンに会ったのを!」
神子「あらま。」
ミサ「で、捕まえたの?」
ウタ「捕まえたら、こんなに怒ってるわけ、ないでしょー!」
神子「あら、取り逃しゃったの? 警官なのに?」
ウタ「うっるさいわねー! でも、犯人の顔、しっかり憶えてるから、絶対に
逮捕してやる!」
神子「いいわねー、そんな事で怒れるなんて。」
ミサ「そうそう。」
ウタ「......何で?」
神子「だって、ほら、チカンと言えば常習犯でしょー。だからすぐに捕まって、
あなたの悩みの種は、すぐに解消するわよ。
それにくらべて私たちの悩みの種はずーっと解消しないの。いいわよねー。」
ミサ「ホント、いいわよねー。」
そそくさと出ていく婦警の神子、ミサ。
ウタ「ちょっと、あんたたち、待ちなさいよ!」
一人残される婦警のウタ。
ウタ「ねえ、ちょっと! 何それ? ねえってばぁ!」
お局「ちょっと、ウタさん。」
いつの間にか、婦警のお局さんが後ろに立っている。
ウタ「あっ、お早うございます。」
お局「あなたまだ着替えてないの? 交代時間はもうすぐよ。早く着替えなさい。」
ウタ「あっ! はいっ! すみません。............実は私、今朝出勤途中にチカンに
会って......。」
お局「あら、チカンに会ったの? あら、そう。ふーん。いいから早く、
着替えなさい。」
ショックのあまり、ますます不愉快になる婦警のウタ。
ウタ「何よ何よ何よ! まったく頭にくるわ!
でもでもでも、チカンにあうって事は、それだけこのあたしが魅力あるって
事じゃない? どうせ私はこの生活からオサラバして、歌で生計を立てていく
のよ! オーディションに受かったし! きっと、大ヒット確実よ!
でもなー、オーディションって言ったって、ほとんど詐欺のあやしいインチキ
事務所ばっかりだしなぁ......。婦人警官がだまされちゃったらお笑いのネタに
なっちゃうしなぁ......。」
婦警のお局さん、自分の世界に没頭し、思わず独り言をブツブツしゃべり出す。
お局「いいわねー、若い人って......。最近、私、チカンにすら会ってない。
若い頃は、日に3回も会ってたのに......。
ああ、私の、私の白馬の王子様は、いつ現われてくれるのかしら。」
ひょっこり、顔を上げる婦警のウタ。
ウタ「白馬の王子様?」
お局「あっ! あんた! まだいたの?
早く着替えて、さっさと行きなさい! 何やってんの! ノロマ!
行かず後家! ふん!」
肩を怒らせて出ていく婦警のお局さん。
一人残される婦警のウタ。
ウタ「......んーっ! な、何でまったく、そーなるかなーっ!
私は全然悪くないのに! 私は被害者なのに! 全部全部全部、
あのチカンのせいだわーっ!」