第14話
○アジト内大広間
<主要登場人物>
・草薙=警察庁からの元選抜ユニットメンバー
・藤堂=元警察庁からの選抜ユニットメンバー・現在田舎警察の一刑事
・鷺宮=<元>陸上自衛隊からの選抜ユニットメンバー
・新人=田舎警察の新人刑事
・婦警のお局さん
・渡辺=新聞記者
・助八=運転手
・伝蔵=運転手助八高校時代の悪友
・婦警の神子
・婦警のミサ
・婦警のウタ
* * * * * * * *
伝蔵「ああん、ああん、ああん。何でこんな事になるのかなぁー。」
助八「そもそもはお前が婦警さんをチカンと盗撮するからいけないんだろ?」
伝蔵「婦警さんってわかってたら、チカンなんてしないよー。」
渡辺「そーゆー問題じゃないだろ?」
スマホ片手に前へ進む、伝蔵、助八、渡辺、婦警の神子、婦警のミサ。
伝蔵「...おっ、この先だ!」
助八「どこどこどこ? どこでやんすか?」
渡辺「...これはっ!」
アジト内中央の大広間、無気味なオブジェがそびえ立つ。
その近くに立つ鷺宮と縛られている婦警のウタ。
アジト中央の天井付近が強い光が点滅し、聖歌のような音響が響きわたる。
鷺宮「...来たか。」
ウタ「...みんな!」
伝蔵「大変だ! 婦警さんが大変な事になってるぅ!」
助八「助けなきゃ!」
渡辺「...って、何で俺を見る?...おまわりさん、大変です!
早く彼女を助けなきゃ!」
神子「...わかってるわよ!」
ミサ「...鷺宮! ! そこまでよ! 観念して投降しなさい!」
鷺宮「...ふっ。来たのは雑魚どもか。俺も落ちぶれた物だ。」
ミサ「何言ってるの? もともとあなたは自衛官だったんでしょ!
あなたは藤堂さんたち警察と合同チームを組み、同じ正義のためにあの作戦を
戦ってきたんでしょ? なのに、なぜこんな事をするの?」
鷺宮「ふっふっふ、あっはっはっはっ! こいつはお笑いだぜ! 警察や自衛隊が、
自分達が、正義だとでも思ってるのか? くだらん! 笑わせるな!」
神子「あなた! あなたは今何をしているかわかってるの? あなたはいったい何を
したいの?」
鷺宮「俺はこの世を、この全世界を滅ぼしたい! 創造と破壊の神、ミロクを降臨さ
せて、この世界をなき物にするんだ!」
渡辺「何を! 何を自分勝手なたわごとを!」
鷺宮「だまれ! だまれ、だまれ、だまれ! お前に、お前ら如きに何がわかる?
この世は全て上意下達! 上流階級があれば貧困層もあるピラミッド階層だ。
下の者は上の者から命令を受けて生きている! 本当の自由なんてない!
金持ちはずっと金持ちで、貧乏人はずっと貧乏人だ! 富みの分配などない!
人が平等など、妄想だ!」
渡辺「...何を、何を言ってるんだ? 頭大丈夫か?」
鷺宮「俺はあの作戦に参加してよくわかったぜ。
自由と正義を信じて自衛官になり、あの合同作戦に参加した。相手は、
この邪悪なカルトテロリスト集団だった。
事は問題なく平定した。
だが、どうだ? あの合同作戦は闇に葬られ、口外禁止、あれらの出来事はな
かった事にされた。」
神子「それは、それはよくある事でしょ? それが私たちの『仕事』だし、それが
『現実』でしょ?」
鷺宮「真実とは、真実とは何だ? 俺はこのカルトテロリスト集団の事が気になり、
調べ始めた。そうしたら!」
渡辺「左遷されたのか?」
鷺宮「そうだ! 上からの命令は絶対だ。物事を調べる事も禁ずる! 何が自由
だ!」
神子「あなたは何か思い違いをしていない?」
鷺宮「俺は自衛隊に居場所は無くなった。だから除隊して、この『研究』を引き継い
だ。」
神子「それはあなたが『命令』を破って勝手に調べ始めたからでしょう? あなたの
職業は一体なに?」
鷺宮「だまれ! 雑魚の犬どもめ! ここで鶏が先か卵が先か論争は必要ない!
俺は自由もなく、正義もないこの世界を滅ぼしたい! 俺を邪魔者扱いにした
奴らを亡きものにしたい!」
新人「だから、世界を滅ぼすと言うんですか?」
鷺宮「...そうだ! ミロクを降臨させ世界を滅ぼす!」
伝蔵「そんな、ひきょうな! 結局、他人の力を借りているだけじゃないか!」
助八「そうだそうだ! 他人の力を借りなければ自分の目標を達成できないなんて、
自分にウソをついているだけだ! 自分の努力が足りずに上手く行かないの
を、世の中のせいにしているだけの弱虫だ!」
鷺宮、手に持つリモコンを力強く握る。
すると異形のオブジェから異音が響きわたり、アジト上方で光の塊が実体化しはじめる。
鷺宮「だまれ、だまれ! 小物ども! お前ら如きに、この世の中の真実など理解で
きるはずもない! こんなバカな世の中、滅ぼした方が良い!
俺は、俺は、ミロクを召還できる音をだす声帯の持ち主を見つけ、それを集
め、やっと今、その時が来た! お前らにそれを阻止する事資格などない!」
銃撃が走り、鷺宮の持つリモコンが破壊される。
走り込む一団。
草薙の発砲である。
アジト内大広間に駆け込む草薙、婦警のお局さん、藤堂、新人。
草薙「遅くなった!」
藤堂「ちょっとだけ、迷子になっちまった。」
新人「...! あれは!」
お局さん「...何をしているの? やめなさい!」
鷺宮、ナイフを取り出し、婦警のウタの喉元に当てる。
鷺宮「あーっはっはっはっ! 遅い! 遅かったなあ! やっとここまでたどり着い
たか。」
藤堂「鷺宮ーっ!」
鷺宮めがけ銃を構える藤堂と草薙。
鷺宮「あーっはっはっはっ! 残念だなー、遅かったなー! もうこのリモコンなど
必要無いんだ!
すでに鳴らしたラッパは6つ目。もうすでに6つ目のラッパは鳴らしてしまっ
たんだ。」
アジト内大広間で実体化していく光点。
あたりに聖歌が重なりあうような音が響く。
鷺宮「最後にミロクを降臨させる7つ目のラッパは、...ここだー!」
鷺宮、ナイフを上げ、婦警のウタの喉元を狙う。
新人「やめろーっ!」
先ほどまで躊躇していた新人、意を決して発砲する。銃弾は鷺宮の左肩をつらぬく。
だが時遅く、鷺宮のナイフは婦警のウタの胸元を切り裂く。
婦警のウタの絶叫と鷺宮の高笑いが交差する。
婦警のウタの叫びに反応して、アジト内大広間の上空の光の点が強烈に点滅し、人影が実体化しはじめる。
姿を現わし始める、降臨中のミロク。
あたりに聖歌のような音響が重なり重厚に響きわたる。
藤堂「...ミロクを、ミロクを降臨させるな!」
発光し具現化するミロクに向けて発砲する藤堂。
草薙もそれに続き、ミロクとオブジェに向け発砲する。
新人「...やめて! 止めてください!」
無視して発砲し続ける藤堂と草薙。
新人「...悪いのは、悪いのはミロクじゃない!」
藤堂「新人! 甘いな! そんな事わかってる。だが、今はそんな事言っている場合
じゃない! 現実を見ろ! 今はミロクの降臨を阻止するのが先だ!」
新人「...!」
新人、意を決して、仁王立ちし狂気の表情を上げる。
新人、鷺宮に向けて発砲するが、鷺宮はいっそう高笑いを続けて身を隠す。
神子「どうすればいいの...?」
お局「今はとくにかく、ミロクの降臨を阻止するのよ! そうしないと、世界が!
私たちが!」
ミサ「...ごめんなさい! かみさまーっ!」
交差する全員の発砲音。
破壊されていく異形のオブジェ。
銃弾が炸裂するが、具現化するミロクは無傷である。
全弾発射してしまう全員。
空しく空撃ちの音が響く。
その直後、鷺宮の勝利の雄叫びがあたりに響きわたる。
それに混ざって、静粛な音響とともに具現化するミロク。
ミロク「...わらわを呼びおこしたる者、たれなるか。」
鷺宮「...はいっ! 私でございます! この世界の創造と破壊の神、ミロク様。」
ミロク「...わらわが再臨する時には、少し早いと思うが、何故か?
なぜ早くわらわを呼びいたしたるのか?」
鷺宮「...はいっ! 創造と破壊の神、ミロクよ! 私は、そなたが創造したこの世の
中を、全宇宙を今すぐなき物にしたいと願い、召還しました。」
ミロク「...なぜだ? なぜそう思うのか?」
鷺宮「...この世は、腐っております! こんな世界なんて存在する事自体間違ってい
る! この世を創造して破壊する考えをお持ちのミロク様に、ぜひとも早く
なき物にしてもらいたいと、あなたを召還したのです!」
ミロク「...。」
鷺宮「...。」
ミロク「...稚拙な。」
鷺宮「...はい?」
ミロク「...この世を、この世界を作ったのは、この私だぞ。そこにいる、お前をも創
造したのは、この私だぞ。
なぜにして下僕のお前ごときの命をうけなけばならぬ?」
鷺宮「...でも、ミロク様。」
ミロク「...おろかな小羊よ。わらわはお前ごときに指図される言われはないわ。」
鷺宮「...ミロクよ! そんな!」
ミロク「...この世を作ったのは、私だ。その破壊と創造は自分の意志で決めよう
ぞ。」
鷺宮「...ミロク! ミロクよ! 早く、早くこの世を滅ぼすがいい!」
ミロク「...。」
鷺宮「ミロクーッ! 早く、早くしろ! 早くしやがれ! 滅ぼすのが怖いのか?
あ? 早くこんな世界なんか滅ぼしてしまえーっ!」
ミロク「...くだらん。」
鷺宮「ぎゃっ!」
四方八方に飛び散る鷺宮。
ミロク「...くだらん、実にくだらん。わらわが作ったこの世界はこんなにもくだらん
物だったとは...。愚弄だ。されば、こんな世界が続いてもしょうがない。
今すぐ亡き物としようぞ。」
伝蔵「...おまちください!」
ミロク「...!」
助八「...?」
伝蔵「...おまちください! ミロク様! この世を破壊するのをお待ちください!」
助八「...おいっ! 伝蔵、何やってるんだ?」
伝蔵「...うるさいっ! ちょっとだまっていてくれ! ミロク様! この世を破壊す
るのをもうしばらくお待ちください。」
ミロク「...なぜだ?」
伝蔵「私は、私はあなた方を信仰するしもべでございます。」
渡辺「...えっ? 伝蔵って?」
助八「...仏教徒だったけか...。」
渡辺「それ早く言えよ。」
助八「あまりの出来事に、つい忘れてたぁ。」
伝蔵「偉大なる仏、偉大なる神、ミロクよ! 私はあなた方を信仰するしもべでござ
います。ミロク様が、あなたの思い通り、この世を亡き物にするのは自由でご
ざいます。しかし!」
ミロク「...。」
伝蔵「しかし、今、時を早めて破壊するのだけはおやめください。今、あなたを召還
したのは失礼ではございましたが、
この世を破壊するのは、予定通り今から800年後におこないくださいま
せ。」
ミロク「...なぜだ? わらわは今壊そうと気が変わったのだが。」
伝蔵「...ミロク様! この世を破壊するのはあなたの自由です! ですが、もう少
し、お時間をください。
あなたが作ったこの世界、我々が住むこの世界、私たちあなたのしもべが必ず
や変えて見せます。」
ミロク「...。」
伝蔵「私を、あなたが作った者どもの切なるお願いをお聞きください。」
ミロク「...ほう。」
伝蔵「...。」
ミロク「...そちなるしもべ。わらわが作り、破壊しようとする、このダメで無駄な世
界を良き物にかえようと言うのか?」
伝蔵「...はい!」
ミロク「...存在しても無駄な、必要のないこの世界を、そちは変えようと言うの
か?」
伝蔵「...はいっ! ミロク様!」
ミロク「...。」
新人「そうだ! 信じてくれ!」
ミロク「...?」
新人「この世を作ったのが、お前と言うのなら、俺たちはお前の子供だ。ならば、子
供の意見を少しは信じてくれ!」
ミロク「...できるのか? お前たちに。」
新人「...信じろ! ミロクよ! 俺は、俺は、この腐り切った世界を変えてみせ
る!」
伝蔵「...! ミロク様! 破壊をお待ちください。800年後までお待ちくださ
い!」
新人「...。」
伝蔵「...。」
ミロク「...。面白い、そうしよう。」
伝蔵「...。」
ミロク「どの道、この世を破壊するのは、今から800年後の予定だ。
お前たちが今後、この世の中をどのように変えていくのか、その時を楽しみ
にしようぞ。」
伝蔵「...ミロク様! ありがとうございますっ!」
新人「...。」
ミロク「...されば、わらわは帰る。800年後、楽しみに待っておるぞ。」
鈴のような音が響きわたり、点滅しながら消えていくミロク。
あたりは静寂に包まれる。
伝蔵「...ありがたや、ミロク様。」
渡辺「伝蔵、お前仏教徒だったの?」
助八「そう言えば、お前の家、お寺だったなぁ。なのになんでチカンと盗撮やってん
だ?」
伝蔵「...すみません! 昔家の事で、親とケンカして、家を出て、その反動でつ
い...。」
渡辺「...まあ、これからは深甚するんだんだな。ミロクにもああ言っちまったし。」
伝蔵「でもやっぱり、監獄送りなのかな...。協力したんだから無罪にならないかな
あ...。」
助八「お前、全然反省してないな?」
伝蔵「...えへっ、スミマセン...。」
婦警の神子、婦警のミク、倒れている婦警のウタの元に駆け寄る。
傷は浅くはないが、まだ婦警のウタはまだ生きていた。
バラバラになった鷺宮の亡骸を見回す草薙。
草薙「...鷺宮。お前が壊そうとしたこの世の中は、お前にとって、いったい何だった
んだ?」
地面に銃をつきつけて身を支える藤堂、大きく肩で呼吸をしている。
新人「...藤堂さん、俺は、俺は変えてみせる。俺はあなたとは違う。俺はこの世を正
義で変えてみせる。」
藤堂「...そうか。まあ、がんばれ。」
憮然な表情を浮かべる新人。
完