第10話
○廊下
<主要登場人物>
・草薙=警察庁からの元選抜ユニットメンバー
・婦警のお局さん
・新人=田舎警察の新人刑事
* * * * * * * *
警察署内を歩く草薙。
その背後をラブラブオーラを出しながら付いていく婦警のお局さん。
通路の角の出会い頭でぶつかりそうになる新人と婦警のお局さん。
新人「…あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
婦警のお局さん、はっと我に帰る。
お局「あら! ごめんなさい!」
だが婦警のお局さんの様子がおかしい。
顔が少し赤らめている。
新人「顔赤いですよ。何かあったんですか?」
お局「...あらっ! いえっ! 何でもないわ!」
婦警のお局さん、あわてて視線を動かす。
新人が大量の資料を持っている事に気づく。
お局「あら、それ捜査資料ね。仕事熱心は公務員の鏡、いい事よね。
でも、あれよ。チェックが終わったら、すみやかに資料室に返しておいてね!
みんなが困るから。...さあ、他の課への貸し出し状況、どうなってるか、
チェックしないと!」
スタスタと走り去る婦警のお局さん。
新人「...なんだ? やっぱりずっと独身で、夢見てると、ああなるのかなぁ。知らん
けど。」
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○室内
<主要登場人物>
・草薙=警察庁からの元選抜ユニットメンバー
・新人=田舎警察の新人刑事
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夏の暑い陽射しを浴びて、藤堂が一人憮然としている。
新人「相変わらず暑いですね。もう少し涼しくなってくれれば嬉しいんですけど。」
藤堂「...。」
新人「...ところで、今回の誘拐事件ですけれど、偶発的ではなく、ひとつの団体が計
画的に行っているみたいですね。いろいろ調べたんですが、中核的部分になる
と機密事項になっていて、調べられないんですよ。
これ、結構、大きなヤマですね。
関連事項で上げていったら、10年前の特定事件との関連が出てきました。
もし今回の件が10年前の特定事件と同一であったら、うちだけじゃなくて、
本庁も係わる重大事件に発展する可能性がありますね...。」
藤堂「新人。」
新人が話している間、2〜3度話しかける。
だが新人は気がつかない。
藤堂「新人!」
新人「はい?」
藤堂「この件は、これで終わりだ。」
新人「はいっ?」
藤堂「この件は、これでもう終わりだ!」
新人「...なんで? どうしてですか?」
藤堂「聞こえなかったのか?この件は、もうこれで終わりだ。」
新人「何言ってるんですか? これは...この事件は、とてつもない大きな事件かも
しれません! それに、この事件は我々の管轄内で起きたんです!
我々の目の前で!
しかも、誘拐事件で、人が一人さらわれたんです!今も...今もこの瞬間に、
被害者は我々の助けを待っているんですよ! それなのに、なぜ?!」
藤堂「大丈夫だ...。被害者は、もうすでにこの世にはいない。」
新人「...? え...? 藤堂さん…何言ってるんですか? 何でそんな事が...。」
はっとする新人、手に持つ資料をめくり出す。
新人「...そう言えば、藤堂さん、10年前のこの事件にかかわって...」
新人の問いかけに無視する藤堂。
納得できず憮然とする新人、感情が押さえきれずに外へ出ていく。
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○資料室
<主要登場人物>
・婦警のお局さん
・草薙=警察庁からの元選抜ユニットメンバー
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資料の貸し出し状況をチェックする婦警のお局さん。
奥の方で資料を見ている草薙。
婦警のお局さん、草薙がいる事に気づき、ハッとする。
草薙の面影を目をうばわれるように見つめる婦警のお局さん、思わずノートとサインペンを落とす。
その音で気がつく草薙。
草薙「...。」
お局「......あ、あ、ごめんなさい! き、気が散りました?」
草薙「...いえ。」
草薙の足元にころがっていたサインペン、ゆっくりとひろう草薙。
お局「…あっ、すみません。」
固まって動けない婦警のお局さん。
ゆっくりと近づく草薙。
婦警のお局さんの手をとってサインペンを渡す草薙。
お局「...あっ!」
きびすを返して資料を探す草薙。
お局「...く、草薙刑事!」
草薙「...。」
お局「...な、何か手伝う事、ありませんか?」
間。
草薙「...大丈夫です。ありがとう。」
ふたたび資料をあさる草薙。
紅潮する婦警のお局さん。
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○県警受付
<主要登場人物>
・渡辺=新聞記者
・助八=運転手
・婦警の神子
・婦警のミサ
・婦警のウタ
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渡辺「おま、おま、お前! 何やってんだよ?」
入口でモサモサする渡辺と助八。
助八、渡辺のお尻に隠れて受付を覗き込む。
助八「だってさー、いるかなー? あの婦警さん。俺、伝蔵に面会したいんだけど
さー、婦警のウタさんがいたら、何かバツが悪いなー、と思ってさー。」
渡辺「わ、わかるけどさー、お前はチカンしてないんだろー? だったらコソコソす
るなよ。」
助八「しないしてない私は無実だ! と自分ではそう確信している! 一応!」
渡辺「だったら、もうちゃんとしろよなー。」
そう言って受付を覗き込む渡辺。
あこがれの婦警のミサが目に入る。
渡辺「あっ! いたっ! やっと会えた! あああー、どうしよー? なんて声かけ
ようかなー?」
デレデレになる渡辺。
助八「おい、渡辺! みっともないぞ。ビッとしろよなー!」
渡辺「何で急にそこだけまともに話せるんだ?」
助八「いいからー、早く、早くぅーっ」
助八に押されて受付に来る渡辺。
受付に座る婦警のミサ。その奥に婦警の神子。
ドキドキしながら声をかける渡辺。
渡辺「...すみません。田舎日報の記者の渡辺ですけど、取材に来ました...。」
ミサ「あっ、はいはい。田舎日報さんですねー。何の取材ですか?」
そっけない婦警のミサ、顔を赤らめて落ち着かない渡辺。
ミサ「田舎日報さん、何の取材ですか?」
渡辺「えっ? あっ、はい。80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた
ニュースの続報取材です。」
ミサ「えっ? 80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた?
あっー、その件ですね。報道資料今、出しますからね。」
顔を赤らめモジモジする渡辺。
助八「おい、渡辺、しっかりしろよ!」
渡辺「だからなんで今だけまともなキャラになってるんだよ!」
そっけない態度を続ける婦警のミサ。
ミサ「はい。田舎日報さん。詳細はここに書いてありますからね。」
渡辺、顔を赤らめながら資料を受け取る。
渡辺「あっ、ありがとうございます。」
ミサ「それから、田舎日報さん。80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた、
ではなく
95才のおじいさんが80才のおばあさんを助けた、ですからね。
情報は、正確に、ですよぉ。」
渡辺「えっ? 80才のおばあさんが95才のおじいさんがを助けた?」
ミサ「...いいですから。はい。報道資料、渡しましたからね。資料通りにちゃんと
書いてくださいねー。」
渡辺「...あ、どうも、ありがとうございます。
...あっ、この2人、本当に結婚するんだ...。披露宴は今月20日...
年齢と事件を乗り越えて結ばれた2人...。いいなあ...俺も...。」
渡辺、資料を読みながら、婦警のミサの顔をのぞく。渡辺、顔を赤らめながら出ていこうとする。
助八「おい、渡辺!」
渡辺「......あ、あ、すみません! すみません!」
ミサ「はい、まだ何か?」
渡辺「...あ、あのう、このあいだの誘拐現場で偶然チカン容疑で捕まった伝蔵なんで
すが、友人の助八が面会したいって言うんですけど......できますか...?」
ミサ「えっ? あ、いいですよ。(書類を取り出し)ここに住所、氏名、年齢等の必
要項目、書いてくださいね。」
助八「やればできるじゃん!」
渡辺「...って、お前が書け!」
書類に記入する助八。
婦警のミサを照れながらみつめる渡辺。
助八「はいっ! できました!」
ミサ「…本当は面会、だめなんですけど、いつもお世話になってる田舎日報さんだか
らいいですよ。あ、ウタさん!」
偶然に受付前を通り過ぎる婦警のウタ。
ウタ「...はい?」
ミサ「チカン容疑者に面会だって。田舎日報さん。案内よろしくね。」
ウタ「...ああああーっ、あのサイテーなチカン容疑者のマブダチの運転手!」
助八「...あ、...げっ! ...やばっ!...あ、あのう、こ、このたびは、うちの友人が...
失礼を...。」
ウタ「...はいっ! 留置場はこっちですよ! ついでだから、あなたも入りますか?
留置場?」
助八「...いえ、そんな...。カツ丼って、自前なんですよね...?」
去っていく婦警のウタと助八。
それを見送る渡辺。
ミサ「...田舎日報さん、まだ何か?」
渡辺「......い、いえ! お、おつかれさまですっ!」
顔を赤らめて出ていく渡辺。
渡辺「...だ、だめだ...。とっても気が弱い僕ちゃん...シュン...。」
渡辺とすれ違いに黒装束の3人が入ってくる。
黒装束の3人、ゆっくりと辺りを見回し、受付にくる。
ミサ「...はい。何か用ですか?」
黒装束「...。」
ミサ「何の用で来たんですか? 運転免許の更新だったら、となりの3番の受付に
なりますが。」
黒装束「...ここに、この警察に歌川ウタさん、という方はお務めですか?」
ミサ「......歌川ウタさん。......ああ、たしかに歌川ウタは婦警として本警察署に勤務
しています。今、本警察署で勤務中ですが、何かご用ですか?」
黒装束「...。」
ミサ「失礼ですが、歌川ウタとのご関係は...?」
黒装束、突然胸元から銃を取り出し、婦警のミサ、婦警の神子に向って連射する。
倒れこむ婦警のミサ、婦警の神子。
合図をする黒装束の3人、銃で連射しながら左右に散る。
その物音で戻ってくる渡辺、何が起きたか、すぐには状況はわからない。
渡辺「......えっ? えっ! えええーっ!」
受付にうずくまる婦警のミサと婦警の神子の姿が目に入る。
渡辺「だ、大丈夫ですかーっ?」