ダンジョン2日目
「ナタリア様、大丈夫ですか?目が真っ赤ですよ」
結局ほとんど眠ることが出来ず、合宿2日目の朝を迎えてしまった変装ナタリア。
しかし寝不足を理由に、イリス王女のフォローを疎かには出来ない。
だから気合いを入れて出発の準備を始めたが、寝不足で充血した目は心配になるレベルだったようだ。
「あの、大丈夫です。これは…イリス様と同じ小屋で…緊張などして…眠れなかっただけですので」
通常の変装ナタリアだったら、こんな返答をしなかった。
しかし寝不足な状態で、なおかつ心配して顔を近付けてくるイリス王女にパニックとなり、つい本当のことを言ってしまったのだが、それは自分をさらに悪い状況に追い込んでしまう。
「それはいけませんね。合宿は1ヶ月の長丁場、その間ずっと緊張していては大変です。それでは……これからはお友達と接するようにしてみませんか?お互い敬称など無しにして、フレンドリーに話していれば、次第に緊張しなくなるのではないでしょうか?」
お友達……フレンドリー!?
その提案に変装ナタリアは困惑する。
変装ナタリアは代役がいつでも出来るよう、姉から交友関係等の最新情報を教えられている。
当然イリス王女のことも聞いていて、面識はあるが親しいという間柄ではないという情報に従って、昨日はずっと接していたが、それは変装ナタリアにとって楽な接し方だった。
何故ならイリス王女を敬って接するのは、外面の良い姉を参考にすれば良いのだから。
しかし姉からの情報では、友達と呼べる人は姉にはおらず、友達と接するフレンドリーな姉は、どう演技すれば良いか分からない。
「大変有難いお心遣いなのですが、王女殿下と辺境伯家の娘では立場が違いすぎ、逆に恐縮してしまうのですが」
「身分など気にしなくても良いのですよ。気にしなくてはいけないのは、ナタリア様の体調なのですから」
変な姉を演じれば、この合宿の後に本物の姉がイリス王女に会った時、その違和感から代役がバレる恐れもあり、遠回しにイリス王女の提案を断ろうとした変装ナタリアだが、憧れの女性の優しさがそれを阻止してしまう。
「しかしイリス様……」
「それに今は未だ王女の立場ですが、この合宿を終えたら王族から抜けようと思っていますので、気にせずフレンドリーにしてみて下さい」
「…………え?」
「あっ、良いですね、その普通なリアクション」
ニッコリ微笑むイリス王女の様子に、今の発言が本当なのか、それともフレンドリーにさせようとついた嘘なのか、変装ナタリアには判断がつかない。
「あの、イリス様。今のご発言は……」
「あら?また元に戻ってしまいましたよ」
「先ほどは驚き過ぎただけですので」
「そうですか、驚きましたか。私としては、それほど驚くことでもないのですけどね」
そのイリス王女の言葉に、王族を抜ける発言が本当なのだと確信した変装ナタリアだが、イリス王女の表情の微妙な変化に、その理由を訊くことが出来なかった。