第8話 賞金首
「ホムっち、手が止まってるわよ〜♪」
「も、もう勘弁じゃ。ま、まさか妾より酒精に強いものが居るとは……」
「大丈夫〜♪飲ませてあげるから〜♪」
「ま、待て!ぐっ!うぐっ……………」
「キャッ♪ホムっちとチューしちゃった♪……ありゃ?ホムっちもまだまだね〜♪でもお酒は寝てても飲めま〜す♪」
意識を失って倒れたホムノキさんの口に酒瓶の口を突っ込む私に良く似た女。
その女は口からゴボゴボと酒が溢れる様子を見て大笑いしていた。
記憶が無い私のためにパンプスが昨晩の様子を見せてくれた。
私の眼前には形容し難い程の1人の狂人の様子が映し出されていた。
「パンプス、お願い!嘘だと言って!」
「私は身の危険を感じてすぐに避難したから直接見た訳では無いが、今見たのが現実だろうな」
「嘘よ、嘘よ、嘘よ………」
「現実逃避中の所を申し訳ないが、こいつはどうするんだ?」
そう。散乱した大量の空き瓶と共に部屋の床に倒れているあられもない姿のホムラキさんが私を現実へと引き戻す。
私がうんうん唸っていると、ホムラキさんが目を覚ました。
「ひっ!!わ、妾も貴女様に従うのじゃ!だ、だから許しておくれ!!」
ホムラキさんが仲間になりたそうに此方を見ている。
「従わなくて良いわ!私達の間には何も無かった。良いわね?」
「もう無理じゃ!妾の霊体が完全に負けを認めてしもうた。貴女様の霊力の支配下に居らねば力を使えぬ」
「……悪魔が使役される状態に似ているな」
これはホムラキさんが悪いのか?
違う!悪いのは全部過去の私だ。
……過ぎた事はどうしようもないので、今は先の事だけを考えよう。
「……分かったわ。でも、酒代は自分で稼いでね」
こうして、1ヶ月分のお酒と引き換えに新たな仲間が加わった。
今回の失態を重く見た私は、暫くの間飲酒の量を減らす事にした。
そんなある日の事……
「パンプス、ホムラキさん。これ見て!」
「賞金首かえ?」
「300万か。中々の金額だな」
「そうよ!お酒を薄めるのはもう嫌なの!耐えられないわ!」
「最近は寝付きも良くなって目の下の隈も無い。健康的になったと思うが?」
「確かに良い塩梅じゃな」
だから、何で人外達は健康を推して来るのか……
「健康にしてどうするのよ!人を不幸や堕落に落とすのがあなた達の仕事じゃないの?」
「偏見だな」
「うむ、偏見じゃ」
どうやら偏見らしい。
退魔師の常識がたった今崩壊した。
「もう良いわ。とにかくお金が足りないから、この賞金首を退治するわよ」
「退治するのは良いが、私達を当てにしすぎると自身が成長しないぞ」
「主様の戦力が如何程かは見てみたいのう」
えっ?
使役した奴等が仕事をボイコットする件について……
こうなったら最終手段よ!
作戦決行当日……
「何か新しいのが増えてる……」
「マリア、気にしなくて良いわ。今回は私達が囮役になって賞金首を誘い出すわよ」
「え〜っと。この賞金首って女性を狙ってるの?」
「分からないけど、こうして見目麗しい令嬢が2人歩いていればきっと襲われる筈よ!」
「ぷっ!……」
……もしかして今、このカボチャ頭、笑いやがった?
澄ましたカボチャ顔をしているが、全身が小刻みに震えている。
この仕事が終わったら、カボチャ頭をホムラキさんの結界に閉じ込めて、猫耳メイドのフルサービスを思う存分堪能させる事に決めた。
「!!?」
「あら?パンプス、どうしたの?」
「今一瞬、存在が消滅する程の危険を察知したぞ。まさか強大な敵が近くに!?」
そうよ。
すぐ隣に居るわ……