第7話 新たな敵
マリアが話し終えて部屋に静寂が訪れた。
そんなに熱く語らなくても……
「そんな大した事してないよ〜」
「大した事です!私はララァの意志の強さに憧れてるんです!」
「…………」
「何よ。何か言いたそうね」
「……いや、その悪魔に同情しただけだ」
「でも、何故あの悪魔は私達が学生だという事を知っていたのか。私はあの事件の後、内通者が居る可能性も疑って調べたのですが、成果はありませんでした……」
……不味い。全く覚えがない。
課外授業の筈なのに先生と飲み比べして勝ったという事実しか覚えていない。
「まあ、全員無事だったから良かったよね〜」
「いえ、あの時引率の先生だけが治療院に運ばれました。きっと他の悪魔と戦っていたのでしょう」
「……確かに戦ってたわね」
「やはりそうだったんですね!」
負かしたのは私だが……
パンプスがじっと私を見ている。
それは主に対して向けて良い目つきではないわよ!
その後も、マリアは私が如何に素晴らしい人物かを力説して帰って行った。
「あの娘の目は強力だが、どうやら節穴のようだ」
「マリアの目が強力?」
「ああ、あの目には霊力を蓄積しておける特殊な力がある。量が多ければ今の私を消し去る事も可能だろう」
「へ〜。いつも男子に告白されてたから魅了の力でもあるのかと思ってたわ」
「お前も中々失礼な奴だな……」
「あっ、もうこんな時間!」
そう言えば、パンプスと駄弁ってる暇なんて無かったわ。
今日はお酒の特売日。
ちょっと家からは遠いお店だけど、安い時に買い溜めしておかないと正直家計が保たない。
「パンプス。荷物持ちをお願い」
「……また酒か?飲み過ぎは健康にも良くないぞ」
悪魔が健康に気遣ってるんじゃないわよ!
「そう言えば、東方の国には酒吞童子っていうお酒が好きな悪魔が居たそうよ」
「そのような悪魔の名は聞いた事が無いが?」
「あれ?悪魔じゃ無かったかな。……そうだ!鬼よ、鬼!」
「……鬼か」
急に深妙な雰囲気になるカボチャ頭。
最近、その超微妙な表情の機微が分かるようになってきた。
「鬼に知り合いでも居るの?」
「……いや、気にしなくて良い」
「そう。まあ話は戻るけど、その酒吞童子みたいなのを仲間に出来れば楽しそうだわ!」
「絶対にやめろ!!」
急に大声を出して否定するパンプス。
これって……もしかして!?
「あっれ〜?もしかして妬いてるの?不安がらなくても大丈夫よ。使役仲間が増えてもパンプスをおざなりになんかしないわ」
「…………」
パンプスが黙ってしまった。
最近、目を閉じ拳を握り締めて何かに耐えているような仕草をする事がある。
その内、頭が割れて種でも飛ばすのかしら?
でも、必殺技っぽくて良いかもしれない。
……って、無駄な時間は無いのよ!
動かないパンプスを放って家を出る。
呼べば何処でも来てくれるので連れ歩く必要は無い。
カボチャ頭と歩いていたら間違いなく奇異の視線を向けられるのでとても助かっている。
店に着いたのは夕方だったがお酒は売り切れておらず、箱で買って路地裏に入った。
「パンプス、出て来て!」
……反応が無い。
もしかして、家を出る前に言った事を気にしているのだろうか?
「パンプス!貴方が働けなくなるまでは面倒見てあげるから拗ねずに出て来なさい!」
すると、黒い球体と共にカボチャ頭が姿を現した。
「……面倒を見ているのは私なのだがな」
「遅かったわね。トイレ?」
「……悪魔に排泄機能は無い。何かの結界に阻まれて時間が掛かった。どうやら敵だな」
「敵!?」
慌てて路地に戻ると歩行者が消えていた。
遠くからシャラン♪シャラン♪と鈴の音が近付いて来る。
「逢魔が時に出逢うは吉か凶か?迷い人よ、汝はどちらかの?」
「狐人?」
「…………」
此方に優雅に歩いて来るのは、頭に大きな狐耳とお尻に大きな狐の尻尾を付けた着物姿の妙齢の婦人。
片手に傘、もう片方には扇子を持っている。
確か教材に載っていた記憶があるが思い出せない。
「……どちら様ですか?」
「あらあら?妾としたことが対面の礼を失するとは。妾は『焔の狐』と申すもの。強い酒精の匂いに釣られて来てみれば、魔に属するものを連れておる故、判断に困っておる」
「ご丁寧にどうも。私は退魔士のララァ。このカボチャ頭が使役している悪魔のパンプキンシザースです」
「……何故名乗るんだ!?馬鹿かお前は!」
「あんた主に対して馬鹿って言ったわね!帰ったらお仕置きよ!」
「?……良く分からんが真似事か何かかの?」
パンプスが急に私の肩を掴んで引き寄せ耳に囁く。
「どうする?今の私では絶対に勝てない相手だぞ」
「……それはどうしようも無いわね」
さっきパンプスが結界がどうのこうの言ってたから逃げる事も出来なさそう。
……そうだ!
「『焔の狐』さん。……長いからホムノキさんね。ホムノキさんはもしかしてお酒が好きなのかしら?」
「……ホムノキなぞ初めて呼ばれたぞ♪それに酒精は大好きじゃ♪」
「じゃあ、私と飲み比べしない?」
そして、我が家の1ヶ月分のお酒が消えた……