第4話 ララァの友達
「急に部屋を掃除し始めているが、一体どうしたのだ?」
「今日は友達が遊びに来るの。邪魔だけはしないでね」
「貴女に友達が居たのか……」
主に対してかなり失礼な態度だが、私の寛大な心で許してあげる。
折角、私の唯一の友達が来るのだ。イライラした状態で会いたくはない。
「酒飲み仲間とかではないだろうな?」
「違うわよ!彼女は育成学校時代も成績優秀で、今は退魔師教会のエースなのよ」
「……そのようなエリートが貴女の友達?」
「知らないわよ。そんなの彼女に聞いてよ」
確かに育成学校時代の私の成績はそんなに良くなかった。
でも、お昼ご飯は一緒に食べるくらい仲良かったし、休みの日は2人で買い物にも行ったし、ちゃんと「私達は友達ですよ」って言ってくれたからエア友達では無い筈だ。
掃除が済んで暫くすると、彼女が訪ねて来た。
「ララァ、お久しぶりです!お元気でしたか?」
「うん。今日は来てくれてありがとう、マリア」
ハニーブロンドの髪にエメラルドの宝石を想わせるような綺麗な蒼い瞳。スタイルも抜群で育成学校時代は数多の男子達を悩殺してきた。特定の男子は居なかったので、全員が玉砕したのだと思う。
椅子に座るように促してお茶を用意した。
この日の為にちょっと高めの良い茶葉を買ったのだ。
「別に畏まらなくて大丈夫ですよ。会う回数は減りましたが、私達は友達ですから」
ああ、何て良い子なんだろう。
「久しぶりだから緊張しちゃって。あっ、これお菓子ね」
「ありがとうございます。実は私もちょっと緊張していました」
「そうなの?」
「ええ。噂でララァが悪魔を使役したって聞いたんです。私でもまだ使役なんて無理なのに。ララァに置いていかれたみたいに感じてしまったんですね」
そうなんだ……
悪魔を使役するのって難しいんだ。
私は余程幸運だったのだろう。
「偶々だよ。運が良かったのかも」
「……ララァ。使役するのに偶々は有り得ません」
「えっ?」
「悪魔と契約して力を借りるだけなら代償を払えば誰にでも出来ます。ですが、使役するには自分の力で悪魔を屈服させないといけません。使役された悪魔は主に絶対に服従しないといけないので、奴隷になるのと一緒です。消滅するよりは良いって感じですね。悪魔側も必死だから『偶々使役されました』なんて起きる筈が無いです」
パンプスの私に対する口答えや私の意見を論破してくるのも服従の範囲内なのだろうか?
「だから、ララァがその悪魔に騙されて、変な契約をさせられていないか心配になって様子を見に来ました」
「……ありがとう。一応、私の指示には従ってくれるから騙されてはいないと思うけど」
「じゃあ、その悪魔を紹介して貰えますか?」
「良いよ。パンプス、出て来て」
私の指示でいつものように黒い球体からパンプスが出て来た。
「お初にお目にかかります、レディ。私はパンプキンシザースと申す者。以後お見知り置きを」
「そのレディって言うの止めなさいよ!」
「……………」
パンプスを見たマリアが口を開けて固まっている。
「マリア、どうしたの?」
「あ、ああ……」
「どうやら驚かせてしまったようですね。ですが大丈夫です。私はララァ様に使役されている身。貴女を害する事は絶対にありません」
「何猫被ってんのよ。ララァ様なんて一度も呼んだこと無いじゃない」
「私が……猫を被る……だと?……あのような不快な存在を!?」
「ひっ!……」
もしかして猫が嫌いなのかしら?
そう言えば、この前猫メイドのコスプレして「にゃんにゃん♪」言ってたら勝手にダメージ受けてたわね。
「大人しくしないなら、また私が猫メイドになるわよ」
「……済まない。取り乱したようだ」
「ほら、マリアも安心して。ちゃんと従ってるでしょ?」
「む……」
「む?」
「無理いいい!!!」
マリアは叫びながら部屋を出て行った。
この日、私は唯一の友達を失った……