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第1話 ララァとパンプス


「嘘でしょ……」


朝起きると私の大事な千手観音阿修羅像の腕が一つ欠けていた。

退魔師育成学校の卒業記念に東方に行った時に大金を払って買った、私の大事な大事なコレクションだ。

これでは九百九十九手観音阿修羅像だ!

とっても語呂が悪い。


「パンプス!出てきなさい!」


私が大声で叫ぶと空中に黒い球体が出現し、中から黒いタキシードを着たカボチャ頭の悪魔が現れた。

そいつは音もなく床に着地すると、私に向かって優雅に礼をした。


「おはよう、レディ♪」

「おはよう、レディ♪じゃないわよ!マスターと呼びなさいって何度も行ってるでしょ!」

「貴女が私のマスター?……フッ」


……こいつ鼻で笑いやがったわね。

だけど、私はもう一端の社会人。寛大な心で許してあげる。


「……まあ良いわ。それより、私の大事なコレクションが壊されたの。犯人を探して頂戴!」

「その気味の悪い人形か?」

「き、気味が悪いですって!?……まあ、悪魔にはこの神々しさは伝わらないわよね」

「神々しさ(笑)はあると思うぞ?」

「神々しいのに気味が悪い?……どういう意味よ?」

「素晴らしいという事だ」

「な、何よ。分かってるじゃない」


何かはぐらかされた気はするが、私は再度犯人を探すようにパンプスに指示した。

この悪魔の名は『パンプキンシザース』。

私は聞いた事が無い悪魔だが、毎回呼ぶには長いので略して呼んでいる。



……ある日、依頼を終えた帰り道に道端で消滅しかかっている悪魔と遭遇した。

退治しようとしたら案外強くて苦戦してしまい、慌て封印しようとしたら間違って使役してしまったという訳だ。

封印と使役は全く違うのでは?と思うかもしれないが、その日私は仕事終わりでお酒を少し飲んでいたので判断力が鈍っていたのだ。多少の失敗は仕方がないだろう。

でも、急に私の前で跪いて「今後とも宜しく頼む」と言って来たので使役が成功したのは間違いない筈だ。


それに、私はまだ駆け出しの新米退魔師(エクソシスト)だ。折角使役出来た悪魔を使わない手はない。

という事で、仕事から雑用まで色んな事をパンプスに手伝って貰っているのだ。



「どうせまた酔っ払って壊したんじゃないのか?」

「いつもほろ酔い程度で抑えてるのよ。そんな訳ないじゃない」

「あれがほろ酔いだと……。無自覚は罪だぞ?」

「確かに記憶は曖昧だけど、毎回ちゃんと家に帰れてるから泥酔はしていない筈よ」

「……映像に残して見せてやりたくなったぞ」

「そんな事はどうでも良いから早く調べなさい!」

「私は可能性の一つを述べたんだがな……」


パンプスはぶつぶつ言いながら像を手に取った。


「ふむ。霊力の残滓は………貴女の分しか感じられないが?」

「なら強盗の線で調べて頂戴」

「部屋が荒らされた形跡は無いし、部屋に誰かが入ったら流石に私が気付くぞ」

「……じゃあ、密室トリック?」

「…………もう、それで良い。となると犯人が更に絞られる訳だがー」

「……はっ!謎は全て解けたわ!犯人はパンプス、貴方ね!」

「……………」

「羨ましかったんでしょう?貴方も素晴らしい像だと認めていたわよね。ちょっと近くで眺めるつもりが落としちゃったんでしょう?怒らないから白状しなさい!」

「………冤罪だ」

「最初に言って謝ってくれてたら許してあげてたのに……。往生際が悪いわよ!」


まあ、悪魔が素直に罪を認めても……という感じではあるが。


「……順調に霊力を回復していたが、冤罪を擦り付けられる訳にはいかん。私の『時見』の力でこの部屋の時を戻してやる。真実をその目に焼き付けるが良い!」


パンプスから膨大な霊力が放出されたかと思ったら、私の体が動かなくなった。

視界は固定され、分離した私が逆再生で動いているのが見える。

時間が逆行してる!?


私が啞然としていると、急速に戻っていた時間が止まり、昨夜私が部屋に戻った所から時間が流れ出した。


「うぉい〜っす♪超絶美少女退魔師ララァ様のお帰りだぞ〜♪」


私に良く似た顔の女が覚束ない足取りで部屋に入って来た。

自分の事を超絶美少女だなんて、かなり痛い女ね。


「何なのあんた!返事くらいしなさいよ!大体私が若い頃は……」


急に怒り出したかと思うと、飾ってあった千手観音阿修羅像を相手に説教を始めた。

絡み酒なんて最悪ね。お酒を飲む資格無しよ。


「あんた本当に手が千本あるの?……1、2、3」


更に女は何の前触れも無く、像の手の数を数えだした。


「11、12………1000!何だ、ちゃんとあるじゃない。……って飛ばしとるやないか〜い!」


女は徐ろに像を床に叩きつけた。


「ひゃっひゃっひゃっ♪一本腕が取れちゃった〜♪今日からお前は九百九十九手ちゃ〜ん♪」


謎の踊りを踊りながら、時折奇声を発する自称超絶美少女。

余りの醜悪さに私は直視出来なくなった……



そして、パンプスの霊力が尽きたのか、時間が元に戻った。


「…………」

「…………」

「あ、あいつが犯人よ!早く捕まえて……」

「現実から目を背けるな!あれは昨夜のお前だ!」

「いやああああああああ!!!!!!」



その後、私は2日間寝込んだ……






お読み頂きありがとうございます。

不定期に更新していきます。

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