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七話 きさらぎ駅の怪

どうぞご覧ください。

七話 きさらぎ駅の怪


そのアナウンスがひびくと同時に、猫探偵ねこたんていが目を覚ます。

その異常とも言える妖気ようき感知かんちすると、

周囲を見渡し、すぐそばにいる心来みくるを叩き起こす。

「痛て、はわぁ……何ですかまおさ――――」

強引に叩き起こした猫探偵に対して、心来が文句を言おうとするが、

そのけわしい様子を感じ取り状況をさっする。

「ここが何処か分かりますか?」

「いや、詳しい事は分からない。ただ、アナウンスによると

きさらぎ駅と言う駅らしい。」

その駅について数秒の思考ののち、きさらぎ駅について心来が思い出した。

「確か……きさらぎ駅は架空かくうの駅として存在している―――」

心来が猫探偵にきさらぎ駅について話そうとすると、電車内にアナウンスが鳴り響く。

『次は~きさらぎ駅~きさらぎ駅、線路せんろ上にいる人は~対向電車にご注意ください~』

「なっ?!」「え?!」

そのアナウンスが鳴り終わると同時に、猫探偵と心来が乗っていた電車が消滅し、

その隣には小さな田舎いなか駅が出現した。

その事象じしょうに二人が驚いていると、

乗っていた電車の進行方向しんこうほうこうとは違い、

反対側から電車が向かって来ていた。

「チッ。」

猫探偵が小さく舌打ちをすると、あたふたしていた心来をかつぎ、

線路上からすぐ右隣みぎどなりにあるきさらぎ駅のホーム

に上ろうとするが、猫探偵がまばたきをした瞬間、

その目の前にコンクリートの壁が現れる。

「こんな事も出来るのか……」

そのコンクリートの壁は、線路から駅のホームまでの高さが

五メートル程まで伸びていたものだった。

猫探偵の横からは電車が凄まじい程のスピードで迫ってきており、

一刻いっこく猶予ゆうよも無かった。

今までに無い程に猫探偵があせりつつも、

そのコンクリートの壁を持ち前の身体能力でけ上がる。

ガタンゴトンガタンガタンゴトン

背中でその轟音ごうおんを聞きつつ、間一髪かんいっぱつ

五メートルの壁を登りきる。

「い、いきなり何なんですか……ここは。」

「知るか!今はそれよりも……!」

猫探偵が今いるホームの位置とは反対側にいる何かを見つめた。

「心来。今の最重要さいじゅうよう事項じこう

この空間……結界けっかいからの脱出だ。おそらく、

まともに戦っても、()()私じゃ〝あれ〟には勝てない。

心来は脱出の準備を始めろ。あのあやかしは私が相手をする。」

「わ、分かりました。」

猫探偵と心来の間に緊迫きんぱくした空気がまとわりつく。

この結界を創り出している張本人であろう妖は、

ただ遠くから二人を観察かんさつしていた。

その空気の中、心来が動き出だす。

「〈侵蝕侵入ハッキング〉」

心来が動き出すと同時に、

結界に対する介入かいにゅうを感知したのか、

妖が観察を辞め攻撃にてんじようとするが、

突如とつじょとして妖の動きが停止する。

ねこ

猫探偵が妖を停止させると同時に足元を強くむと、

その衝撃しょうげきでコンクリートの地面が割れ、

コンクリートの破片はへんが浮き上がる。

その浮き上がった破片をつかみ、

猫探偵が指の力で妖にかってはじばす。

その銃弾じゅうだんごとき破片が妖をつらぬこうとした瞬間、

破片が消滅し、猫探偵が足元を確認すると割れたはずの

コンクリートの地面が何事も無かったかの様に元に戻っていた。

成程なるほど……結界内の事象はあの妖の思い通り。

そして、この結界にある全ての物体によって傷つける事はかなわないか……」

猫探偵が今起こった事象について独り言をつぶやき、

頭の中を整理すると同時に、猫の目の停止を振り払い、

妖が姿を鮮明せんめいに見える程に近付いて来た。

その妖の姿は、駅員の服に手には白い手袋を付け、

その左手には駅員が持つ様な長方形のマイクを持ち、

人とほとんど変わらないと姿を持ちながらも、

唯一ゆいいつはだが見えるであろう顔には、

クレヨンでりつぶしたかの様に真っ黒でその顔を

視認しにんする事はかなわなかった。

猫探偵がその妖の行動に警戒けいかいしつつ、

口に一本の煙草たばこはさむ。

猫探偵と妖との距離きょりが十メートル程で妖が足を止める。

足を止めると同時に、左手のあるマイクを人ならば

口に当たる位置に近づけ、先程のアナウンスと同じく拡張かくちょうされた声が響く。

空面くめん電車でんしゃが参ります、上空にご注意ください。』

そのアナウンスを聞いた猫探偵が上を向くと、

すぐ目の前まで三両さんりょう編成へんせいの電車が落下してきていた。

猫探偵は瞬時しゅんじに地面を強くり、

後方こうほう退避たいひする。

電車が地面に接触せっしょくする瞬間しゅんかん、電車が

そのまま地面に激突げきとつせず、

地面に透過とうかする様に吸い込まれる。

電車が地面に吸い込まれ消えると同時に、

猫探偵の周りに多数たすうの小さな火のかたまりが生まれただよい始める。

「〈火炎弾かえんだん〉」

小さな火の塊が弾丸だんがんの形となり、妖に向かって大量にはなたれる。

その様子を見ていた妖は、ろさずにしていたマイクから言葉を放つ。

切符きっぷ拝見はいけんします。』

その言葉と共に複数の切符があらわれ、猫探偵の火炎弾を受け止める。

猫探偵の周囲に漂う火の塊が全て無くなり、数百発もの火の弾丸を放ったため

猫探偵の息が上がりその疲れが顔に出ていた。

一方いっぽうで、数百発の火の弾丸を切符で受け止めた妖は余裕な様子で、

右腕を上げ猫探偵に対し指をさすと同時にマイクからアナウンスが出される。

『切符をお受け取り下さい。』

その声により猫探偵の攻撃を防ぎ切った複数の切符が、猫探偵に向かって放たれる。

そのアナウンスを聞いた猫探偵が反射的に煙草に火を点ける。

「〈守曇しゅうん〉」

煙草たばこから発生したけむりで猫探偵にはなたれた

全ての切符を受け止める、が。

切符が煙をじりじりとみ、

猫探偵の守曇しゅうん貫通かんつうする。

貫通した切符は、猫探偵の体を易々(やすやす)いた。

しかし、守曇しゅうん威力いりょく軽減けいげんした事により、

かろうじて致命傷ちめいしょうまぬがれる。

その瞬間、猫探偵が違和感いわかんを感じ取り、

自身の後ろに居る心来の方を確認すると、

猫探偵の体を切り裂いた切符が心来に向かっていた。

「〈守曇流しゅうんりゅう〉」

守曇しゅうんまわしていた煙と、

新しく生成せいせいした煙を全て心来を守るために回す。

受け止めるだけでは駄目だめだとさとった猫探偵は、

心来に向かっていた全ての切符を受け流し明後日あさっての方向に飛ばす。

心来を守り切った猫探偵は、改めて目の前にいる妖を見ると

同時に次のアナウンスが始まる。

『電車が参ります。左側みぎがわにご注意ください。』

そのアナウンスと同時に猫探偵が自身の右側を確認すると、

そこに電車は無く、猫探偵が確認した方向とは違い、反対側から電車が来ていた。

寸前すんぜんまで来ていた電車を避けれるわけも無く、

猫探偵が電車と激突げきとつする。

『対向電車が参ります、電車前方にいる人はご注意ください。』

妖が駄目だめしと言わんばかりに電車同士(どうし)をぶつけ、

猫探偵を押し潰す。

「〈からいたち〉」

猫探偵を押し潰していた二本の電車が一刀両断いっとうりょうだんされ、

粉々(こなごな)に消し飛ばされる。

「やってくれたな……!」

電車から出てきた猫探偵は、全身のきずがより一層いっそうひどくなり、

その左腕はれていた。

血癒ちゆ

突如とつじょとして、猫探偵の傷が癒えていく。

全身の切り口かられていた血が止まり、

電車による激突でれた腕がある程度ていどなおっていく。

「猫さん!」

心来の心配そうな声と共に猫探偵が自身の後ろを振り向くと同時に、

心来と猫探偵でアイコンタクトをる。

一瞬のアイコンタクトを終えると、あらためて妖を見つめる。

猫探偵の口にはさんであった煙草はき、

ボロボロになっていた。

その煙草を捨て、猫探偵が右手に妖力ようりょくを一点に集中させる。

猫探偵はねらっていた。霧散むさんした煙草の煙は、猫探偵の制御下せいぎょかから外れず、

虎視眈々(こしたんたん)と妖のすきをうかがっていた。

「〈極炎ごくえん―――」

先程の火炎弾かえんだん以上の妖気ようきを感じた妖は、

猫探偵の右手に集中した妖力に対抗たいこうするために、

釘付くぎづけになりながらもマイクを使おうとする。

その刹那せつな、妖の背後はいごに煙があつまり、

短剣の形を作り出す。

「〈煙曇念剣えんうんねんけん〉」

一瞬の隙を突き、攻撃の発動条件であろうマイクをはじき飛ばす。

「心来!」

「はい!」

猫探偵が心来に近づくと同時に、心来の足元に人が一人入れる程の小さな穴が開く。

穴が開くと同時に、二人がその穴に飛び込んで行った。

妖はマイクを取る訳でも逃がさんと二人を追いかけずに、

猫探偵と心来が出ていった場所ただ見つめていた。


妖の結界を脱出だっしゅつした猫探偵と心来は、

安堵あんどと共にその場に座り込む。

数十秒の間座り込み、少し体力が回復した心来が立ち上がる。

「猫さん、肩持ちますね。」

心来が猫探偵の肩を持ち、自分達が今いる廃トンネルと思われる場所から、

月明つきあかりのする場所まで歩いて行く。

「遊ばれていたな…」

「もて遊ばれてましたね。」

「もて遊ばれていない、単純にあの妖は遊んでいただけだ。」

猫探偵が心来の言葉を否定する。

「私の見立てでは、あの妖は発生して一月ひとつき

経ってい無いだろう。まさに遊びざかり子供だ。」

「……すいません。」

突然とつぜん心来があやまる事に猫探偵が驚くが、

すぐにその理由に気付く。

「心来が妖を引き寄せやすいのは今に始まった事じゃない。

今回のが特別異常だっただけだ。」

猫探偵の言葉に、心来の心が少し浮上ふじょうする。

トンネルを出ると、周囲には木々しかなく足元にはぼろい線路が続いていた。

「森だな。」

「森ですね。取り敢えずじいやに電話してみ……あ。」

ポケットから取り出したスマホを見た瞬間、心来の感情が一瞬で降下こうかする。

猫探偵が心来のスマホをのぞくと、すさまじい数の

鬼電おにでんの通知があった。

現在時間は夜の十時であり、むかえの時間を二時間過ぎていた。

いや予感よかんがしたため、猫探偵が

先の戦闘で画面が割れたスマホを取り出すと、

あんじょう凄まじい数の鬼電の通知があった。


心来の執事しつじに凄まじく冷えた目で見られながらも、

猫探偵が一人、探偵事務所に戻る。

心来は猫探偵を探偵事務所に置いた後、執事に超高速で屋敷やしき

に送られていった。

「私のせいじゃないんだがなぁ。」

猫探偵が椅子に座り、執事の対応たいおうに対し愚痴ぐちる。

全身に受けた傷が治らないまま、ひび割れたスマホを持ち電話を掛ける。

相手が電話に出ると、猫探偵がしゃべり始める。

「私だ、あのきっつらは居るか?」

その言葉と共に、電話のこうから何かがくずれる

音がすると、目的の相手が電話に出る。

「……私が電話を掛けるのは、そこまでの事なのか?」

皮肉ひにくじりに言った後、猫探偵が本題を話す。

「君名義ですべての術師に通達つうたつしてくれ、

妖への警戒けいかい度を一段上げるようにと。」

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