三話 怪談妖喰
今話は心来と小林先生と彼岸部長で肝試しに行きます。
三話 怪談妖喰
暗く静まり返った校内に、三人の人影があった。
「あの、大丈夫なんですかこんな夜中に生徒が入るのは、
しかも先生同伴なんて。」
その疑問がもう一人の懐中電灯を持つ青年に向かう。
「大丈夫大丈夫。まだ毎年恒例新入部員歓迎校内肝試《まいとし
こうれいしんにゅうぶいんかんげいこうないきもだめ》し一回目だし。」
「毎年?……しかも一回目…?」
心来はその言葉に、いろんな意味で処理限界になりかける。
その様子を見かねた小林先生は一度説明を挟む。
「まず、先生同伴の件だが俺がいるという条件で、
夜間の校舎の出入りの許可をもらっている。
次に、肝試しの方は新入部員に対して部長同伴で五月にやるんだが、
廃部の危機だからって彼岸が
無理言って四月にやることになった。」
小林先生が説明を終えると懐中電灯を持った彼岸の足が止まる。
「着いたぞ、ここが七不思議の一つ目トイレの花子さん。」
彼岸が案内した場所は、校舎の三階の女子トイレだった。
「トイレの花子さんは有名ですけど……」
心来の懐疑的な目が二人に向かう。
それを察知したのか、彼岸が慣れた様子で説明する。
「流石に男性部員はやらない、やらないよ。」
そう説明された心来は花子さんの呼び方を彼岸に
教えてもらい、女子トイレに入る。
十数秒後、何事もなく心来は戻って来た。
「それじゃあ次行くぞ。」
彼岸が心来の様子を確認すると、次の七不思議に向けて歩き出した。
「何も起きなかったか?」
歩きながら彼岸が心来に聞いてきた。
「何もなかったですよ。」
「そうか、まあ去年も何もなかったしな。」
「去年どころか毎年何も起こらないぞ。」
そう話した後、三人の会話が詰まる。
ふと心来が顔を上げると、少し残念そうにしている小林先生の姿があった。
「着いたぞ、七不思議の二つ目、美術準備室の動くモナリザ。」
そのまま肝試しは特に何事もなく進み……
「よし、ここが七不思議の七つ目、誰もいないはずの体育館。」
彼岸が七不思議の最後に案内したのは体育館だった。
「深夜に体育館に入ると誰もいないはずの体育館でボールが跳ねる音がする。
誰かの視線を感じる。誰かに腕を掴まれるとかだなとかだな。」
彼岸が七不思議の詳細を得意げに述べる。
それを聞いていた心来が体育館を見つめていると、何かに気付く。
「なっ!」
「おい!」
何かに気付いた心来が体育館入り口の扉に向けて走ると、
それを見かねた二人がが心来を追いかける。
心来が体育館の入り口に辿り着き扉を勢い良く開け、
体育館の中に入っていった。
「鍵が……!?」
小林先生が扉に鍵がかかっていない事に
驚きつつも、二人は体育館の中に入り心来に追いつく。
二人は目の前の非現実的な様相に言葉を失う。
心来達の目の前には、全長1mにも満たない人型の漆黒
の体を持つ妖と、その妖に相対する人の姿があった。
「久瑠……なのか?」
小林先生が、その妖に相対している心来のクラスメイトである、
久瑠秋雷の存在に気付く。
久瑠秋雷は、その妖と心来達の介入を許さないような
戦いを繰り広げていた。
その戦いに介入できずに心来達は入り口付近で佇んでいると、
妖が心来達に気付いたのか、突如として心来達に向かって右腕を伸ばす。
その漆黒の腕が形を変え、刃物の様な形に変化した。
「人……?!」
久瑠秋雷が妖が伸ばした右腕の先に居る心来達に気付き、
心来達に向けられた攻撃を防ぐために、妖と心来達の間に
割って入ろうとするが、妖の左腕による攻撃が激しくなり、
心来達に向いていた足が止まる。
妖から向けられた攻撃が迫る時、
小林先生は腰が抜け、彼岸部長は金縛りに遭ったかの様に
その場から動く事が出来なかった。
心来は冷や汗をかきつつも、冷静に懐から一枚の札を取り出す。
そのまま札を自分の目の前に持っていき、一度短く目を閉じると
札が水色の妖気に包まれ、それと同時に小さく言葉を発する。
「〈反妖天守護結界〉」
心来がその言葉を発すると同時に、心来を中心とした
直径六メートル程の円錐状の結界
となり、右腕の攻撃を防ぐ。
「結界術……?!」
久瑠秋雷は心来が結界を作り出した事に驚きつつも、
妖の攻撃が更に激しくなり防戦一方になる。
「久瑠さん!こちらに!」
心来の声が久瑠秋雷に届く。
その言葉に、久瑠秋雷がポケットから
持っていた二枚の形代を取り出す。
「〈召霊喚獣・双大蛇〉」
その二枚の形代は妖気を纏い、二匹の大蛇が召喚される。
召喚された二匹の大蛇は、妖の右腕と左腕にかじりつき妖を一瞬怯ませる。
だが一瞬怯ませたのち、大蛇がかじりついている腕から何本もの
鋭い針が出現し、二匹の大蛇を消滅させた。
その攻防を繰り広げている間に、久瑠秋雷は心来の結界に向かって走る。
その事に気付いた妖は逃さまいと腕を伸ばすが、久瑠秋雷はギリギリで
結界に滑り込み、妖の腕が結界に弾かれる。
「はあはあはあ……何故ここに居る?」
久瑠秋雷は一度息を整えると、心来達に聞いてくる。
「部活の肝試しで……」
「そうか、そう言えばパンフレットにオカルト研究部があったな。」
そう言うと、久瑠秋雷は体の限界が来たのか仰向けになる。
「あの怪物は何だ……?」
腰が抜けた状態のままあの妖について小林先生が聞いてきた。
「ここを生きて出られたら話します。」
心来は素っ気なく答えた。
彼岸部長はというと、その場に座り込み
金縛りあったかのように動かなかった。
体力が少し回復したのか、久瑠秋雷は起き上がり心来に質問する。
「一つ聞くが、この結界はいつまで継続する?」
心来は少しばかり考え込んだのち、顔を上げる。
「あと五分も無いと思う。」
「そうか。」
心来が発動させた反妖天守護結界は、
猫探偵が心来の護身用に
特注した特別製であり、効果時間が短い代わりにどんな
攻撃も最低一回防ぐ事ができる。
「動ける?」
「いや、少し厳しいな。」
心来達が話している間も、妖は攻撃を続けていた。
だがどんな攻撃をしても防がれることが分かった妖は、
一度距離を取り右腕の形を変える。
その妖の右腕はロケットの様な形となり、
肘から噴射口の様に妖気を噴射し、
推進力を持った右腕が結界に向けて突撃する。
「〈守曇流〉」
突如として、煙が流れる様に結界を包み妖の攻撃を防ぐ。
その攻撃を防がれた妖は、その者から一度距離を置く。
「……猫さん!」
煙から現れたのは猫探偵だった。
「話は後で聞くから、その結界から動くな。」
「分かりました。」
その様子を見ていた妖が動く。
妖は体育館の床、壁、天井を駆け回り隙を伺う。
「こいつが妖喰いか……」
猫探偵が分析していると、視界外から妖喰いが手を鋭い針
に変化し、猫探偵に突き刺そうとした時。
〈猫の目〉
妖喰いの気配を察知した猫探偵は、近づいた妖喰いに対し
猫の目で妖喰いの動きを止める。
しかし、猫の目を受けてた妖喰いが
その目の力を振り払い、停止していた攻撃を再開する。
「〈守曇〉」
猫探偵の口にある煙草から溢れた煙が、
妖喰いの攻撃を防ぐ。
その様子を見た猫探偵は、妖喰いから距離を取る。
「怪異……それも上位か。」
その言葉を静かに呟いていると、
妖喰いが一気に猫探偵との距離を詰める。
「はやいっ……!〈煙曇斬剣〉」
猫探偵の頭上に溜まっていた煙を剣に変え、妖喰いに向けて放つ。
その剣か妖喰いに迫ろうとした時、妖喰いは両腕を剣に変え
猫探偵の煙曇斬剣を振り払う。
それを待っていたかの様に、猫探偵は口にある煙草を
妖喰いに向けて投げる。
「〈爆残煙〉」
妖喰いに向けて投げつけた煙草は、大爆発を起こし体育館の中
に轟音が響き渡る。
それに妖喰いが怯むと、猫探偵は片手に三本煙草を指の間に挟み、
それを両手で計六本の煙草に火が点くと
莫大な量の煙が放出する。
「〈鎖曇呪海〉」
煙草から出た煙が、海の様に体育館の中に充満する。
数十秒の後、煙が晴れると妖喰いが煙の鎖に固定され動けずにいた。
猫探偵は動けない妖喰いに対し手を向ける。
「ふう……これで……終わりだ。極炎弾」
妖喰いに放たれた黒に近き火球は、
着弾すると爆残煙以上の大爆発を引き起こし、
妖喰いは跡形もなく消滅した。
猫探偵は大爆発によって起きた炎を一点に集めて消滅させる。
それを終えると、心来を含めた結界内に居る人全員に
対して言葉を発する。
「事情を説明するからついてこい。」
世界観説明
妖魔→怪異→妖怪→土地神→神様
の順番でやばいもしくは強い。