十二話 目蜘蛛
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十二話 目蜘蛛
誰も居ないはずの廃墟の地下室で。
彼岸部長、心来、秋雷の三人が走っていた。全力で。
地下室の奥、目玉がついた蜘蛛、目蜘蛛の居た部屋から地下室の入り口である階段に三人が向かっていた。
動物の人形がある部屋の扉を開け、蜘蛛の標本が飾られた部屋に入り、
蜘蛛の標本が飾られた部屋の扉を開け、小さな箱が乱雑した部屋に入り、
小さな箱が乱雑した部屋の扉を開け、動物の人形がある部屋に入り、
動物の人形がある部屋の扉を開け、蜘蛛の標本が飾られた部屋に入る。
秋雷が恐怖と共に後ろを振り返るとその目に尋常では無い程の目蜘蛛が追いかけて来ていた。
そのまま三人は蜘蛛の標本が飾られた部屋の扉を開け、小さな箱が乱雑した部屋に入り、
小さな箱が乱雑した部屋の扉を開け、動物の人形がある部屋に入る。
その時、彼岸部長が床に落ちていた人形を踏みつけ、そのまま滑って壁に頭を強打した。
「いっっで……!!」
頭を手で押さえ、痛みで足元がふらつきながらすでに先に居る心来と秋雷の背中を追いかける。
彼岸部長が何となく後ろを向くとそこには何もおらず。目蜘蛛は見当たらなかった。
蜘蛛の標本が飾られた部屋を過ぎ、小さな箱が乱雑した部屋を過ぎ、動物の人形がある部屋を過ぎ、
蜘蛛の標本が飾られた部屋に入ると、彼岸部長が決定的な違和感に気付く。
「な、なぁ!なんかループしてないか!?さっきもこの部屋通っはず!!」
その言葉に秋雷の足が止まり、一瞬のためらいの後自身の頭を思い切り殴った。
秋雷が頭を押さえながら後ろを向くとそこには目蜘蛛はおらず、
先程まで感じていた恐怖心もきれいさっぱり消えていた。
「す……凄い馬鹿力だ……な!心来部員!」
秋雷が頭を殴り後ろを向いている間に次の部屋に
移動しようとした心来を彼岸部長が羽交い絞めにして止めていた。
その様子に秋雷が迷い無く近付き心来の頭に強烈な平手打ちをかます。
「いったぁ!」
彼岸部長が羽交い絞めを解き、心来はその痛みにその場でうずくまった。
十秒程経過すると秋雷の平手打ちの痛みは治まったのか心来が立ち上がる。
「この部屋は……」
心来が自身の周囲を見渡す。三人が今いる部屋は小さな箱が乱雑した部屋だった。
周囲見渡し終え、心来が秋雷と顔を見合わせると秋雷が手で口元を
抑え顔色が少し蒼白になっている事に気付く。
「部長……この地下室にある扉を封鎖して下さい。あと、こちら側を絶対に、絶対に見ないで下さい。」
「?……分かった。」
彼岸部長がいまいち理解していない様子で返事をする。
心来が彼岸部長に念を押すと、秋雷の肩を持ち扉が無い方の壁に向かう。
彼岸部長は扉をどうやって封鎖すればいいのか考えていると、
扉の近くに埃と蜘蛛の巣塗れで壁に同化していた大きな棚を見つけた。
その棚を彼岸部長が押して引っ張りゼェゼェと息切れを起こしながら扉の前に持って来た。
彼岸部長の運動神経と体力は決して良いとは言えず、
さらに先程までの全力疾走で体力の底が尽きかけていた。
扉を一つ封鎖し、彼岸部長が心来達を見ない様に壁伝いでもう一つの扉に辿り着き、
近くにあったもう一つの棚でもう一つの扉を封鎖すると彼岸部長の体力が尽きその場に倒れる。
「部長、大丈夫ですか?」
心配そうに心来が声をかける。
腕と足をぷるぷるとさせながら彼岸部長が立ち上がると、心来の背後に居た秋雷と目が合う。
目が合った秋雷の蒼白とした顔色は少しばかり戻っていたが、
先程よりも疲れた表情を浮かべ手の甲で自身の顎を軽く撫でていた。
「箱が一つ犠牲になりました。」
「あぁ……」
彼岸部長は察した。
火鼠が三人の中心に鎮座し、暗い地下室を明るく照らしていた。
「秋雷部員。体調は大丈夫か?」
彼岸部長が秋雷の体調を心配していると心来が代わりに返答する。
「あの大量の妖の妖気にあてられて酔っちゃったんですよ。というか私も少し気持ち悪いです……」
心来が口元を手で軽く押さえる。
「酔うのか?僕は何ともないけど。」
「妖気が感じ取られる人限定です。あの蜘蛛の催眠の影響で恐怖が勝ってましたけど、
痛みの強制解除で後になって酔いが来た感じです。」
「大変そうだな……」
「大変ですよ……本当に。そう言えば、さっきので確信しましたけど秋雷さんは私と同じ特殊体質ですよね?」
「は、はい……そうだけど……」
急に話が振られ秋雷が返答に困りつつも心来の言葉に肯定する。
「私は……妖気を過敏に感じ取ってしまう体質なんです。さっき……うぷ……」
先程の事を思い出した事で気持ち悪くなった秋雷が自身の口元を押さえた。
「大丈夫ですか?!」
心来が秋雷に近寄り背中を撫でながら秋雷の気持ち悪さを抑える。
十数秒が経ち、秋雷の気持ち悪さが落ち着くと心来がもとの位置に戻る。
「ふう……私や猫さんが気付かなかった木箱と刀の妖気の漏れや、
僅かな妖気の残穢を感じ取れたのも特殊体質のおかげですよね。」
「はい……」
秋雷が短く肯定する。
「今聞く事なのか?」
彼岸部長が今その話しをする意味について尋ねる。
「そうですね。部長にも分かるように説明します。」
心来がそう言うと近くにある小さな箱を四つ並べた。
「この小さな四つの箱が今のところ分かる地下室の数です。」
そう言うと四つ並べた内の端にある箱を一つ遠ざける。
「今遠ざけた箱を妖が居た地下室とします。
そして残りの三つの箱は私たちがループし続けている地下室とします。
今分かっている事から……妖は恐らく人の血肉を欲しています。
妖が居た部屋の床には大量の骨があった事からこのことが予測出来ます。
妖が使う妖術は強力な催眠と結界術。
催眠の効力は二つ、あの妖に対する圧倒的な恐怖と大量の妖が追ってきているという幻覚。
そして、結界術はたぶんですけどそれ程高度なものではないと思います。
何故なら見たところ実際の地下室を使っているので、
一から構築している結界とは雲泥の差です。」
「そうなのか。」
「それでこれから考えられるのは、妖の催眠は強力ですが一体一体の力は弱く、
催眠に注意すれば恐らく倒すことは可能なはずです。
あとは秋雷さんの体質で妖がいる部屋を探して私と秋雷さんで攻撃して出来るだけ妖の数を減らします。
まぁ部長は戦力外ですが……」
「そりゃそうだろ。二人みたいにトンデモな力を持――――――」
突然、空気を裂く音と共に秋雷が一つのナイフを放った。
そのナイフが三人をギョロリと覗いていた一体の目蜘蛛に突き刺さり、
奇声を上げながら消滅していった。
目蜘蛛が消滅した瞬間、秋雷が急に立ち上がり冷や汗を掻き始めた。
「大量の妖がこっちに向かって来てる……!!」
「もしかして……催眠が解けてる事が分かって直接血肉を喰らおうとしてる?
どうしよう……攻撃用の結界構築が全然出来てないのに……!?」
「ど、どうすればいい?!どうすればいい?!」
大量の妖が向かってくるという想定外の事に心来と彼岸部長が混乱していると、
秋雷が二人の腕を引っ張り、妖が来ていない動物の人形がある部屋に連れていく。
「これで全滅してくれればいいけど……」
その事を秋雷が願いながら肩に乗っかっていた火鼠を掴み、
今さっきまでいた小さな箱が乱雑した部屋に投げる。
「〈召霊喚獣・制限解除・炎塊鼠〉!」
その瞬間、拳程の大きさだった火鼠が大型犬並みの大きさになり、
火鼠の体は炎の塊となった。
その数秒後、扉が開かれ小さな箱が乱雑した部屋に大量の目蜘蛛がなだれ込む。
目蜘蛛がなだれ込んだ瞬間、秋雷が思い切り扉を閉めた。
「結界!早く!」
「あ、は、はい!」
鬼気迫る秋雷の様子に押されながら心来が結界を構築し始める。
「〈爆炎上〉!!」
「〈結面耐妖界〉」
火鼠、炎塊鼠を中心に大爆発が発生し、
小さな箱が乱雑した部屋になだれ込んでいた目蜘蛛を残らず消滅させる。
術者諸共消し飛ばさん程の勢いを持った大爆発は
心来が即席で構築した結界に大きなヒビを入れた。
ざっくり人物設定
彼岸歩裕 オカルト研究部部長
身長169cm
体重54キロ
備考 ・オカルトに関わることに対して暴走しがち
・オカルトに関わらなければ影と存在感の薄い一般人になる