十一話 暗混石
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十一話 暗混石
夕陽が煌々と照りつける。
数々の見事な品々が飾られた一室に、夕陽が差し込む。
その部屋の二つあるソファーの片方に、包帯が未だ取れぬままの猫探偵がだらりと座っていた。
「まーた呪物が増えてるぞ……しかも前回来た時の倍に。」
猫探偵の視線と声が部屋の扉に向かう。
「比較的に安全な物しか置いないですよ。」
この部屋の開かれた扉から十二歳程と思われるの背の低い少年と、
分厚い書類を片手に持った長身の女性が入って来た。
「という事は、ここにある呪物よりもさらに危険な呪物がまだまだあると言う事か?」
少年はにこりと笑い何も答えずに猫探偵とは反対のソファーに座る。
「一年ぶりくらいですかね。まさか〝裏社会の粛清者〟と呼ばれた貴方が探偵業を始めるとは。」
途端に猫探偵の表情が少し歪む。
「……分かった、分かったからその痛々しい二つ名は辞めてくれ……聞きたくもない。」
猫探偵がその二つ名に対して吐き捨てる様に嫌悪感を示す。
その様子を見ていた少年の笑顔のから僅かな怒気が零れる。
「私の呪物コレクションを三つ破壊した事、今でも覚えてますからね。」
「君の不注意の結果だろ……ん?前に聞いた時は二つだったはず……二つから三つになっていると言う事は、
また私の電話で落っこ―――」
ドン!
少年がソファーとソファーの間にあるテーブルを破壊しそうなの勢いで拳を叩きつけた。
「貴女が電話を掛ける時は残業確定の緊急事態が殆ど!
大妖怪の復活!過激思想の秘密結社の台頭!第三次世界大戦勃発の危機などなどなど!
壮一も気が気では無かったでしょうね……」
少年はゼェゼェと息切れを起こしながら喋り疲れた様子でソファーに横になる。
一方猫探偵は少年との会話に疲れ、歪んだ顔を戻しながら少年の隣に立っている長身の女性に視線を移す。
長身の女性が猫探偵の視線に気付くと、頭を軽くぺこりと下げた。
そのまま五分間の無言が続き、
流石にいたたまれなくなった長身の女性がソファーに横になっている少年に声を掛ける。
「会長、そろそろ本題に入った方がよろしいかと。」
会長と呼ばれた少年がゆっくりと起き上がる。
「そうだな……猫殿、情報の摺り合わせ及び情報交換を始めよう。」
少年がそう言うと長身の女性が少年に手に持っていた書類を数枚渡す。
「猫殿は今現在起こっている異常現象についてどこまでの情報をもっていますか?」
「基本的に妖全般はそっちに任しているからこちら側から提示出来る情報は正直少ないしな……
この前の電話で話した情報もまとめてはなすぞ。」
その前置きの後、猫探偵が持っている情報を話す。
「こちら側が分かっているのは全体的な妖の急増。
周期から外れた妖喰いの発生、そして僅か四日で怪異に匹敵する異常な成長速度。
従来のきさらぎ駅と違った攻撃的で発生時期とは見合わない実力を持ち、伏字を使い力底が見えない妖。
と、大体こんな所だ。」
その情報を聞き終えると少年が渡された書類の一枚を読み上げる。
「例年より妖発生数が多かった去年は妖魔20639体、怪異407体、妖怪1体。
そして今年の二月上旬から妖の発生数が急増、
一月を除いた二月上旬から今現在の四月までの妖発生数は妖魔14720体、怪異538体、妖怪2体。
そして、今まで大人しかった妖怪の内13体が暴走、攻撃的になった。
昨日までのこちら側の被害状況は死者52名、重傷者176名、軽症者640名、
呪症者95名、行方不明者356名だ。」
「相当な被害だな……こっち側は何とか死者0名で済んだが部隊の三分の一が当分動けなくなった。」
猫探偵が苦々しい顔で被害状況を語った。
「死者0で済んだのか、不幸中の幸いだな。」
少年がそう言うと空笑いをした。
猫探偵と少年が双方の被害状況と妖に対して頭を抱えていると、少年が隣にいる長身の女性に質問をする。
「前回の妖喰いの発生時期はいつだ?」
その質問に長身の女性が持っている書類の中から妖喰いに関する書類を探し、見つける。
「前回の妖喰い発生時期は十四年前です。そして前々回の発生時期は七十年前なので、明らかに周期から外れています。」
その答えに少年が大きな溜息をついていると、猫探偵が少年に質問をする。
「原因は分かっているか?」
その質問に少年が隣にいる長身の女性に手を出し、
長身の女性は察して持っている書類の中から数枚の写真を渡す。
数枚の写真を渡された少年はその写真を猫探偵に見える様にテーブルの上に軽くスライドさせる。
猫探偵がその写真を受け取り写真を確認すると、その写真には真っ黒な漆黒の小さな石が写されてあった。
「これは?」
「これら妖の大量発生、そして妖怪の暴走の原因とされている石だ。
いま持っている写真は怪異の中にあった石で、今右手に持った写真は暴走した妖怪体に突き刺さっていたものだ。
暴走した妖怪は例外なくその石が突き刺さっていた。そしてこれら全ての妖の共通点はその石の様に妖の体の一部、もしくは体全体が漆黒となっていた。
これらから考えられるのは最近発生した妖魔怪異はその石によって本来の実力を超え、昔から存在していた妖怪達はその石よって暴走した……
ただ、現状この石の発生源や、誰が何処でやっているのか分からないのがつらい所だがなぁ。」
少年が説明しながら項垂れていき、その説明に猫探偵に疑問が浮かぶ。
「私は見たことが無いんだが……」
「あぁ、それは当然。その石は凄まじく脆い。弱めの振動を間接的に与えただけで粉々の塵になる。猫殿の実力じゃ余波だけで粉々なるだろうし、
そのおかげで現状まともに回収出来ているのは三つしか無い。」
「この石の解析は済んでいるか?」
「いや?」
その少年の答えに猫探偵が無言になる。
「この石のの一番の問題はこの石が何か分からない点だ。
そもそもこの石は地肌で触れた生物に対して精神異常を発生させる。
まぁ、それ程深刻な部類では無いから一旦置いておこう。
数週間前に、この石を初めて回収した。
今現在続いている異常について分かるかもしれないと言う事で、解析班の一人がこの石の解析を始めた。」
「それで?」
「解析を始めた瞬間物理的に頭が弾け飛んだ。」
その突拍子の無さに一瞬猫探偵の頭の理解が追い付かず、動きが止まった。
「これらの事を加味し、この石を暗黒と混沌を呼ぶ石、"暗混石"と命名した。現在この暗混石は最大限の警戒体制を引き、厳重に保管している。」
「何も分からないか……」
理解が追い付いた猫探偵が小さく声を漏らす。
「暗混石については分からない事が殆どだが、分かっている事の中に原因究明に繋がると思われる物もある。」
少年がそう言うと、長身の女性に目配せをし、長身の女性が意図を理解する。
長身の女性は書類の中から折り畳まれた紙を手に取り、少年に渡す。
少年が折り畳まれた紙を開くと、それは日本地図だった。しかし、その日本地図はただの日本地図では無く、大量の赤の点と十数個の青い点があった。
「この点は……」
猫探偵が日本地図の点について瞬時に理解する。
「この日本地図にある点は怪異以上の妖の発生地点に点をつけた物。この地図から分かるのは、この地方から離れる程妖の発生数が減って行っているという事。」
少年が日本地図の点が一番密集している地点に指を置く。
「関東か……」
少年が指を置いた地点、その場所は関東地方だった。
「これらの事態の元凶、もしくは発生源があると睨んでいる。が、今のところ発見には至っていない。」
「分かった。こちらでも探してみるけどあまり期待しないでくれ。いつも以上に忙しいんだこっちは。」
「探してくれるだけでありがたい。」
少年がそう言うと手に持って書類をテーブルの上に置き、ソファーに力無く寄りかかる。
長身の女性が情報交換を終えた事を確認し、テーブルに置いてある書類と写真を片付ける。
そうしていると、少年が思い出したかの様に
「そういえば、新しく発生したきさらぎ駅の階級の設定をしてなかった。猫殿。
きさらぎ駅についてもう一度詳しくーーーーーーー」
「ーーーーーー成程……その後ここの廃トンネルに出たと、存在としては怪異。そして軽く見積もって階級は二階。きさらぎ駅の怪と命名。」
少年の階級等の設定を長身の女性が持って来たタブレットに少年が記録していく。
「それじゃ、私はそろそろ帰る。」
そう言い猫探偵が立ち上がると、記録し終えた少年が猫探偵を引き止める。
「猫の目探偵事務所と骸、どっちに請求すればいい?」
少年が笑顔で突き出したその紙には高額の修理費用の請求書だった。
猫探偵がその請求書に固まっていると、先日猫探偵が妖喰いとの戦闘で破壊した体育館の修理費用をまだ払っていなかったことを思い出した。
「たった一夜での修理再建。妖怪暴走の対応による三徹目。各地奔走による疲労困憊。
その中で私を動かしたんだ。その分請求させてもらう。」
その少年の圧に、猫探偵が気押された。
「骸で頼む。」
そう言いうと猫探偵がその部屋を出て行き、
その部屋に残ったのは満面の笑顔をした少年とその後のスケジュールを確認している長身の女性が残った。
少年の名は清澄永新。生粋の呪物コレクターであり日本術師連合会の会長を務め、久留家当主の久留壮一とは同年代の親友である。
世界観説明
呪物
呪物とは呪いや呪いが込められた物品である。
念の大きさや生命への冒涜によって
呪物の力がか変わりやすい。
基本的にやばい呪物だが、稀に呪物を集める
呪物コレクターが居る。
呪物コレクターはヤベェ人が殆どである。