十話 蜘蛛の巣
どうぞご覧ください。
十話 蜘蛛の巣
休日が明け、日が傾き夕方になろうとしている学校の一室で、
いつも以上に彼岸部長が暴走していた。
「オカルト研究部完全復活!!」
歓喜の声と共に片足を椅子に乗せ、
片腕を天に突き出していた。
その様子を、小林先生と秋雷と心来が心底呆れた目で見ていた。
オカルト研究部が廃部を逃れ、
先日居なかった秋雷が来た事によって部員全員が集合した事による歓喜のオーバーフローが、
彼岸部長を暴走させていた。
これは流石に見ていられないと小林先生が立ち上がり、
強引に椅子から引き下ろす。
椅子から引き下ろされた彼岸部長が歓喜が消えぬまま部室の中央にある机をドンと叩く。
「オカルト研究部として、オカルトを調査するぞ!」
言葉の意味不明さに秋雷と心来の頭に?が浮かぶ。
「どういう事ですか……?」
その疑問に対して彼岸部長が一枚の写真を取り出し、
二人に見える様に机の上に軽く投げる。
心来が投げられた写真を受け取り、秋雷と共に覗き込む。
その写真は、廃墟同然とも言える家を映し出していた。
「この学校の近くにある家なんだが、かなりの曰くが付いているんだ。」
前置きと共に彼岸部長がその家について話し始める。
「十数年程前にある一人の男が住んでいた。
その男は近隣の住民からの評判が良く、
人付き合いも良好だった。
だがある日、近所の人達と交流を突如として断ち、
家に引き籠るようになった。
その事を心配した近隣の人達も、男は強く拒絶した。
数十日もの日が経ち、誰も男に近寄らなくなった頃。
悲劇が起こった。
誰が言い出したのか、もしくは日常に刺激が欲しかったのか、
近所にいた悪餓鬼達が夜、その男の家に忍び込んだ。
そして、その次の日の夜明け、悪餓鬼の一人が男の家から逃げ出すように出て来た。
その悪餓鬼はひどく錯乱し、言葉も儘ならない程混乱していた。
たまたま朝ランニングをしていた老人がその悪餓鬼に気付き、
その様子に老人が何があったのか聞くと、悪餓鬼がぽつりぽつりと呟いた。
〝俺達は蜘蛛の巣にかかった〟と。
その後、その悪餓鬼を除き誰もその家から帰って来なかった。
流石に近隣の住民がどうにか出来るレベルでは無くなり、
悪餓鬼の親たちが警察を呼んだが、
家から出て来たのは悪餓鬼達では無く自殺した男の首吊り死体だった。
それから間もなく、生き残った悪餓鬼は姿を消したしたそうだ。」
怪談話を終え、少しばかりの息を吐きながら彼岸部長が椅子に座る。
真面目に聞いていた心来に一つの疑問が浮かび上がる。
「あの、その男と蜘蛛の関連性が分からないんですけど…」
その質問に、彼岸部長が勿体ぶる様に間を開ける。
「分からん!」
彼岸部長の元も子もない返答に、二人がその怪談話について懐疑的になり……
「……」
「……」
そして、二人は無言になった。
「…………それじゃあ行くぞ!」
一旦二人を無視した彼岸部長が立ち上がり、話しを強引に進める。
その言葉に違和感を感じた秋雷が質問する。
「今から?」
「今から。」
「……マジで?」
「マジ。」
その行動力に呆れながら秋雷が大きく溜息を吐き、
小林先生がそれらを傍目で見ながら部室の鍵を取り出した。
夕暮れになろうとしている頃。
何だかんだ言いつつ、秋雷と心来は彼岸部長に連れられ写真に写されていた家に来ていた。
「ボロいですね……」
素直な感想が心来の口から零れる
「そりゃあ十数年も放置されていればこれくらいボロくなるだろ。」
三人の目の間にあるその家は、二階建ての木造建築だが、
所々が壊れ、つる植物を中心に植物に浸食されていた。
「正直、猫探偵さんに来て欲しかったんだがなぁ……」
彼岸部長が頭を軽くかきむしる。
目の前にある廃墟同然の家に来る前に猫の目探偵事務所によったが、
事務所は閉まっており猫探偵は留守だった。
「何か知っているか?」
その声が心来に向かう。
「いやぁ……昨日は猫さんは居ましたし……どこ行ったんでしょうね?
て言うか、部長は何故猫さんに来て欲しかったのですか?」
その疑問が聞こえた瞬間彼岸部長がゆっくりと心来から目を逸らす。
「……前みたいのがいると思うとちょっと怖いじゃん。心来部員の体質もあるし……」
オカルト研究部の部長がオカルトに対して日和っている現状に二人が半眼になっていると、
彼岸部長の言葉に秋雷が知らない事があることに気付く。
「狐烙さんの体質?」
「あ、言ってませんでしたね。私、妖を引き寄せやすい特殊体質なんです。
……あ、安心してください!基本的には比較的弱い妖しか引き寄せないので!」
秋雷のえ、そうなの?という視線に途中から早口になる。
「まぁ……取り敢えず行くぞ!」
喋っているだけで夕日が沈みそうな会話をぶった切り、強引に目の前の家に入る。
三人がまずその家の敷地に入ると同時に、彼岸部長が心来と秋雷に懐中電灯を渡す。
そのまま意気込んで家に踏み込もうと懐中電灯の灯りを点けると、
彼岸部長が持っていた懐中電灯の灯りが点かず、彼岸部長が固まる。
「……電池切れ?」
体が固まったまま後ろに居る心来と秋雷の懐中電灯を確認すると、
灯りが点いている事に多少なりと安堵するが、
替えの乾電池を持っていないということ思い出し、
自身の準備の悪さに絶望し、頭を抱えその場にしゃがみ込む。
「部長……部長!」
秋雷の大声に彼岸部長が頭を上げる。
「私は大丈夫なのでこの懐中電灯返します。」
彼岸部長に懐中電灯を渡すと、懐から一枚の形代を取り出す。
「〈召霊喚獣・火鼠〉」
秋雷の手に持っていた形代が形を変え、拳程の大きさの、小さな鼠になる。
そしてその鼠の尻尾の先からマッチとほぼ同等の火が噴き出していた。
「可愛い……」
「あの時の……」
先日の妖喰いの時に放った物と似たような物だと彼岸部長が思い出す。
彼岸部長が懐中電灯を仕舞い、自身の両頬を叩く。
改めてすぐ目の前の家に彼岸部長が入っていき、呆れ混じりに心来と秋雷がついて行った。
曰くが付いたその家は、怪談話の始めに十数年前とついていた様に、かなりボロボロだった。
心来が部長一人じゃ危ないと言ったが、彼岸部長がその声を無視して一人でどんどんと突き進んでいったため、心来と秋雷は別行動で探索を始めた。
植物に浸食された一つの部屋を秋雷が探索する。
右手の甲に火鼠を乗っけていた。
秋雷が召喚した火鼠の火はかなりの光量を持っており、
暗くボロい部屋を明るく照らしていた。
二十分程それぞれで探索していると。
「おーい!」
彼岸部長の声が家中に響く。
その声に反応して別の部屋を探索していた心来と秋雷が瞬時に集合する。
「これは……地下室ですか?」
「恐らく。」
三人の足元、彼岸部長が見つけたのは今いる家の二階に続く階段の横にある廊下、
その廊下の《こわ》壊れた床に人ひとりが通れそうな下に続く階段があった。
「よし、行くか。」
「待って。」
地下に先陣を切って突撃しようとした彼岸部長を秋雷が止める。
秋雷が床に近づき凝視すると、僅かな妖気の残穢を見つけ、心来にその事を伝える。
「凄い……よく見つけましたね。」
「え、何処?何処?」
心来が秋雷に感嘆を示し、
妖力を持つ心来ですら気付かない程の僅かな残穢を一般人である彼岸部長が健気に探していた。
「数日前に誰か来ていますね。しかも、妖力を持つ人……こんな廃墟にくるとするとするなら、
日本術師連合会から派遣された人が妥当ですね……」
「つまりどういう事?」
心来の分析に未だ理解が追い付いていない彼岸部長が質問する。
「つまり、この廃墟にいたと思われる妖が祓われている可能性が高いという事です。」
「という事は安全か!」
「待て待って!」
地下にもう一度突撃しようとした彼岸部長を心来が羽交い絞めにして何とか止める。
「あくまでも可能性が高いと言っただけなのに……」
その凶行に引きつつも、ほおっておいても一人で突撃しそうな為渋々
秋雷が先陣を切る。
床にあるその階段を秋雷、彼岸部長、心来の順番で進む。
「そう言えば、部長はあの時の答えは出ましたか?」
「あの時?」
「ほら、常識が何とか……」
「あぁ、あれか。帰って考えたけど、要は妖怪がいるとか言ってもそれに本気で共感する人は居ないみたいな感じだろ。
僕は共感する人がいなくても僕自身が妖怪とかを探究出来ればそれでいい。
この前の妖喰いとかいうやつに合って、初めて本当に居ると言う事に気付けた。
僕はもっと探究したい、ただそれだけだ。」
「その暴走具合で妖に合って居なかった方が凄いですよ……」
そのまま三人が階段を下りていくと、階段が途切れ正面に扉を見つける。
一番前に居る秋雷がその扉を開ける。
扉を開けると、そこには少し広めな地下室があり秋雷の手の甲に居る火鼠が地下室を明るく照らす。
照らされたその地下室の床には大量の小さな箱が乱雑し、天井や地下室の隅には幾つもの蜘蛛の巣があった。
「あ、ここに扉がある。」
箱が乱雑した地下室にある扉を開けると、もう一つの地下室があった。
そのもう一つ地下室は箱が乱雑した地下室と違い、
蜘蛛を中心とした大量の標本が飾ってあった。
そして、その地下室には箱が乱雑した地下室と同じく幾つもの蜘蛛の巣があった。
「またある。」
また扉を見つける。
標本が飾ってある地下室にある扉を開けると、もう一つの地下室を見つける。
その地下室は先程の地下室と違い大量の動物を模した人形があった。
それもただ大量の人形があるのではなく、その人形の殆どが錆びたナイフで刺され、
壁に固定されていた。
そして先程と同じく幾つもの蜘蛛の巣があった。
「進んだほうがいいですか?」
また扉を見つける。
流石に不味い雰囲気に心来が進んだ方がいいのか疑問になるが、彼岸部長の探求心を止められず渋々進む。
その一番前に居る秋雷が地下室に入り、二人がそれに続く。
秋雷が地下室の奥に進もうとした瞬間、秋雷の足が何かを踏み、
その足元からミシ、と軋む音が響く。
右手の甲に居る火鼠を自身の足元に向けると、そこには大量の人骨と思われる骨が転がっていた。
その瞬間、異様な気配を察知した秋雷が火鼠が乗っている右手を上げると、
そこには尋常じゃない程の蜘蛛の巣と、大量の目玉が秋雷達三人をギョロリと覗いていた。
秋雷達を覗く目玉はただの目玉では無く、人の眼球に取って貼り付けた様な八本の蜘蛛の足と、
蜘蛛の頭がくっ付いていた。
「なぁ、これって多分不味いよな……」
「すっごく不味いですね……」
「て、撤退!!」
その声を待っていたかの様に彼岸部長と心来がくるりと後ろに振り返り、
それに秋雷が一歩遅れる様にくるりと後ろを向き地下室に入った階段に向けて三人が全力で走り始める。
そして火鼠が秋雷から振り落とされない様に秋雷の肩に全力でしがみつく。
陰陽師と妖術師の違い(滅茶苦茶嚙み砕いて)
技術体系が出来ているか出来てい無いか。